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帰宅トリアージ(帰宅困難者対応)のススメ

掲載:2011年08月12日

コラム

東日本大震災では、一時的な公共交通機関の全面停止に伴って主要駅周辺だけでも2万人以上の帰宅困難者を生み出しました。が、結果的には同日中に電車の一部運行が再開されたこともあり、8割の人が帰宅できたと言われています。

         

決して軽視できない帰宅困難者問題

決して忘れてはならないのが、今回の地震は首都圏を直撃したものではなかったという事実です。向こう30年以内に70%の確率で発生すると言われている首都直下地震は、震度6(今回は最大でも震度5強)以上と想定されています。交通機関の麻痺の程度やけが人の数は、今回の比ではないことが容易に想像できます。

企業は今回起きた帰宅困難者に関わる問題を重くとらえ、今から必要な対策をとっておくことが求められています。

【東日本大震災の東京都の環境と『東京湾北部地震』よる被害状況の比較】
対象 東日本大震災 東京都の状況 『東京湾北部地震』による被害状況
ライフライン 被害は少なかった 上下水道断水、ガス停止、大規模停電発生
道路 一部液状化、ほとんどが歩行可能 地割れ、沈下、液状化、落下物、粉塵
火災 発生は少なかった(35件) 延焼のおそれ
電灯 一部停電、しかし街は明るかった 大規模停電が発生し夜の街は暗闇に
避難所 受入施設1030ケ所、会社など 地域避難住民優先で不足が見込まれる
歩行速度 約2~4㎞/時間 通常程度 約0.4㎞/時間 程度
混雑度 (歩行時)1-3人/㎡(推定) (歩行時)6-7人/㎡(満員電車相当)
通信 輻輳はあれど、メールは機能 通信できずメールも使用しにくい
心理 悲壮感はなかった(個人的感想) 焦燥感と疲れ、進行鈍化によるイライラ
トラブル (未確認) 群衆なだれによるケガ・圧死、喧嘩、略奪
支援 飲料水購入も可、トイレ使用可 飲料水の確保ができず、トイレも不足
 

帰宅困難者対応が企業に突きつける2つの課題

首都直下地震発生時の帰宅困難者対応には、大きく2つの課題があります。

1つは、「いかに社員を安全無事に帰宅させるか」ということです。事は単に長距離を歩けさえすればいいという問題ではありません。数十万人の人が一斉に道に溢れかえり四方へ歩き出します。道路は言わば満員電車と同じような状態になり、多くのけが人を出すなど二次災害を引き起こす可能性を十分に持っています。その上、万が一けが人が出たとしても、混乱の最中に救急車の助けを期待することは不可能です。

帰宅困難者対応において企業が抱える課題のもう1つは「いかに地域の救助活動に迷惑をかけないようにできるか」ということです。仮に自社の社員が無事に歩いて帰ることができたとしても、道路をこうした多くの人が占拠することで、救援物資の運搬や救急車両の走行の妨げとなってしまいます。このような事態は、治安を悪化さえ、より一層の混乱を招く可能性があります。

さて、では、こうした課題に対して企業はどのような対応をとることができるでしょうか?

“当日は帰宅させない“が帰宅困難者対応の大原則

先に挙げた2つの課題「社員の命を守る」と「地域に迷惑をかけない」を実現するための最も効果的な方法は、被災当日に社員を帰宅させないこと、です。

東日本大震災において政府は当日の帰宅は控えるようにテレビで何度も訴えていました。中央防災会議でも、首都圏で想定されるこの帰宅困難者数650万人から330万人に減らすべく「むやみに移動を開始しないこと」を奨励しています。

なお、調査によれば、帰宅困難者全体の3割の人を翌日帰宅させるだけで、危険な道路(満員電車状態の道路)を歩く時間を半減させ、5割の人を翌日帰宅させることで、この時間をさらに3割にまで減らすことができると言われています。

「それでも帰りたい」という社員には『帰宅トリアージ』を

企業は「被災当日は帰宅させない」という方針を社員に明確に示す必要がありますが、一方で「どうしても帰りたい」「どうしても帰らなければならない」と声を上げる社員が出てくることも、また事実です。

会社がそうした社員を強制的に拘束することは不可能であり、最終的な判断は、社員本人に委ねざるを得ません。ただ会社として、社員が危険を冒して人が溢れる道にでてゆくのを指をくわえて見ているのではなく、社員一人一人が冷静な判断をできるよう、また、安全に帰宅できるよう、間接的なサポートをすることも重要です。

良く救護活動において負傷者対応の優先順位をつけることをトリアージと呼びますが、会社は、帰宅困難者本人が自らの帰宅優先順位を判断できる、いわゆる「帰宅トリアージ」の方法を社員に示してあげることも、企業ができるサポートの1つです。

『帰宅トリアージ』とは

「帰宅トリアージ」の例

「帰宅トリアージ」とは、社員自らが帰宅判断を行えるようにするための判断基準です。帰宅者に優先順位をつけるためには、「帰宅の必要性」と「帰宅する際の被災リスク」の2つの要素を検討することが必要です。

「帰宅の必要性」とは、本人が早急に帰宅しなければならない理由に、どれだけの妥当性があるかどうか、ということです。たとえば、自宅に幼い子供や要介護者がいる社員は、そうでない社員に比べて、より早急に帰宅する必要性が高い、と言うことができます。

「帰宅する際の被災リスク」とは、帰宅途中で本人が二次災害に巻き込まれる危険性を指しています。たとえば、本人の健康状態が極めて悪い場合、途中で遭難する可能性があります。また、自宅までの距離が遠いにもかかわらず、道のりを全然把握できていない、あるいは、十分な装備ができていない、といった場合もそのリスクが高くなります。

こうした2つの観点を用いて、社員自らに「帰宅トリアージ」をさせることで、不必要な帰宅を思いとどまらせることができ、かつ、帰宅すると決めた社員に対しても被災リスクを軽減させることができるわけです。

帰宅困難者対応は平時からの取り組みが必要不可欠

どれだけルールを明確にしていたとしても、災害時に冷静な判断をいきなり求めることは非常に困難です。企業は、平時から、災害時の社員一人一人の対応がどれだけ社員本人そして地域全体に対して影響をもたらす可能性があるのかということを理解をさせるとともに、「被災当日に帰宅することのリスクは非常に高いものであり、少なくとも当日は会社にとどまらざるを得ない可能性が高い」ことへの心構えをさせる活動をしておくことが重要です。

あるアンケートでは、家族の安全が確認できれば会社に留まると多くの人が回答しています。社員に家族との安否確認方法を相互認識させることも、企業ができる活動の一つです。企業が平時からできることは他にもまだまだたくさんあります。

災害が起こってからでは、遅いのです。今、企業は、その責任を果たすために、こうした課題に積極的に取り組むことを強く求められています。

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