リスク選好
掲載:2015年04月02日
執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介
用語集
リスク選好とは、国際規格では次のように定義されています。
「組織に追求する又は保有する意思があるリスクの量及び種類」
(出典:ISO GUIDE73 リスクマネジメント-用語)
国際規格による定義
原文(英語表記)を見たほうが、意味をより直感的に理解することができます。英語では、Risk Appetite(リスクアペタイト)と記述され、直訳すると「リスクに対する食欲」です。文字通り「組織はどれだけリスク(食欲)旺盛か」という意味です。よりかみ砕いて言えば、「ハイリスクハイリターン」の姿勢で臨むのか、「ローリスクローリターン」の姿勢で望むのか・・・こうした姿勢をハッキリ示すものを「リスク選好」ということもできます。
以上から、リスク選好は、組織の戦略決定に影響を与えるものであることが分かります。たとえば、複数の市場があったとします。最終的に、経営陣がどの市場に積極的に投資するかは、各市場への進出がもたらす売上や利益(リターン)のみならず、進出に失敗した場合の最大損失額(リスク)、などといった要素を加味して判断することになります。このときの後者(最大損失額)に関して、一定の判断基準を示したものが「リスク選好」にあたります。いずれにせよ、リスク選好が示されることによって、進出する市場も異なってきますし、取り扱う製品やサービス、あるいは設備投資の額なども変わってくることが分かります。
リスク選好の具体例
リスク選好は、先述の例のように、許容できる最大損失額という観点から、失う利益やキャッシュフローの大きさで示すこともあります。自己資本比率水準で示すこともあります。ちなみに、国際的な金融機関に課せられBIS規制(その金融機関が持つリスクの総量に対して、一定のパーセントを超えた自己資本比率を維持しなければならない、といった規制)はこれに該当します。
こうした指標以外にも、「自分たちが最終的に市場シェア一位になる可能性が10パーセント以下なら、その事業に手を出さない」とか、「B to Cのビジネスモデルには手を出さない」など、禁止条項として示すのもリスク選好の一例です。
このように、経営が戦略の意思決定の一助になるものであれば、リスクの取り方に関してどのような数値・言葉で示したとしても、それは「リスク選好」と言うことができます。
似た言葉との違いから理解するリスク選好の本質
規格要求事項における「リスク選好」の読み解き方
状況を明確にするに当たって,組織は次を実施しなければならない。
1) 事業継続に関係するものを含め,組織の目的を明確に述べる。
2) リスクを生じさせる不確かさを有無内部及び外部の要因を定義する。
3) リスク選好を考慮に入れてリスク基準を設定する。
4) BCMSの目的を定義する。
「リスク選好を考慮に入れてリスク基準を設定する」とは、リスク選好を基に、リスク基準・・・すなわち、リスクへの対応優先度判断基準を決めなさいという意味です。たとえば、「最大利益損失500万円までならOK」というリスク選好を持った組織であれば、「リスクが利益に与えるインパクトがどれくらいか」という観点で、リスク対応優先度の高い・低いが決まるような判断基準(リスク基準)を設けましょう、ということを求めているわけです。 このように、言葉の定義1つ1つを的確に理解できると、規格などの要求事項についても、より正確に意味を把握できるようになります。