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ISO37001―贈賄防止マネジメントシステム―

掲載:2016年06月07日

執筆者:コンサルタント 伊藤 隆

ガイドライン

ISO37001の正式名称は「贈賄防止マネジメントシステム(Anti-bribery management systems)」です。贈賄防止に関するリスクマネジメント活動を効果的・効率的に運用するための、組織が適用すべき要求事項がまとめられた国際規格です。ISO9001(品質マネジメントシステム)やISO14001(環境マネジメントシステム)などと同じISOマネジメントシステム規格の一種であり、企業においては経営支援ツールの1つです。

ちなみに、贈賄リスクに関する国際規格が全く存在していなかったわけではなく、実はISO96000(コンプライアンスマネジメントシステムガイドライン)が2014年に制定されています。しかしながら、コンプライアンスという言葉通り、取り扱うテーマが広く、贈賄リスクに悩む企業が求めるヒントを必ずしも提供してくれるわけではありません。

         

ISO37001の規格としての位置づけ

ISOマネジメントシステム規格には、いくつかの種類が存在します。ISO37001は、仕様/基準/要求事項にあたります。仕様/基準/要求事項とは、この国際規格を自組織に採用すると決めた組織は、必ず準拠しなければならない要求事項が記載された規格のことです。ちなみに、「必ず準拠しなければならない」とまでは言わないものの、「準拠することが望ましい」という位置づけで書かれた規格は、実践規範やガイダンスと呼ばれます。

したがって、ISO370001は仕様/基準/要求事項にあたり、内部監査の監査基準や第三者認証制度の認証基準として採用されることも想定された規格ということができます。

~ISO37001が誕生した背景~
ISO37001は、組織のコンプライアンス担当者の悩みの種になっていた国際的に蔓延している贈賄防止の促進を目的として発行された国際規格です。OECD(経済協力開発機構)は、贈賄を含めた汚職が世界中に蔓延しており、その為に世界経済の実効性の低下及び不平等の増加を招いている、と長年に渡り警鐘を鳴らし続けてきました。その一環として1997年に「外国公務員贈賄等防止条約」を採択し、OECD加盟国のみならず、その他の国々に対し汚職撲滅を強く訴えました。結果、米国ではFCPA(海外腐敗行為防止法)が強化され、英国ではBribery Act(贈収賄禁止法)2010が制定されました。また、日本では不正競争防止法に外国公務員贈賄に係る罰則が定められると共に、経済産業省により「外国公務員贈賄防止指針」が策定されました。これらは、先進諸国を中心とした大きな動きにつながっていきましたが、皮肉にも組織のコンプライアンス担当者にとっては、悩みの種になっていったのです。なぜなら、ISO37001が登場するまでは、実務担当者が贈賄防止というテーマに関して、活用できるような国際的に標準化された基準が存在しなかったからです。これこそがISO37001が誕生した背景とも言えます。

ISO37001の特徴

ISO37001の特徴として以下の3点が挙げられます。

1点目は、ISO37001が第三者認証基準を担う規格でありつつも、贈賄行為というテーマに特化した規格である点です。前段で触れたコンプライアンスマネジメントシステムガイドライン(ISO96000)よりも、贈賄というテーマに焦点を絞った規格であり、特に、贈賄リスクに関して悩みを抱える組織にとっては、有益な規格であると言えます。

2点目は、ISO37001がハイレベル・ストラクチャー(HLS)を基に設計されており、他のISOマネジメントシステム規格との親和性が高いという事です。既存のISO31000やISO9001等との統合が容易です。

3点目は、ISO37001が認証基準でありながら、その中身が必ずしもベストプラクティス(その分野における経験則上の最善策)ではなく、グッドプラクティス(優良事例)にとどまっているという点です。そのため、ISO37001は以下のような弱点を抱えています。

  1. 「贈賄」という言葉の明確な定義を定められていない(本規格の狙い及び適用範囲を利用者に理解してもらうためのガイドラインの提示にとどめている)
  2. ある規格要求事項の実践が、ある国では法令に違反する可能性があるので適用除外となる(その国の法令遵守が優先される)

贈賄行為を規制する法令は各国(特に開発途上国で)の商習慣の違いなどにより異なります。それが贈賄を含めた汚職蔓延の元凶なのですが、OECDや先進国の積極的働きかけにも拘らず払拭できていないのが現実です。

どのような組織にメリットがあるのか

ISO37001は、必然的に贈賄リスクがより懸念される国に進出している企業に有益な規格であると言えます。したがって、特に外国公務員に関連した贈賄リスクに直面する機会の多い国際商取引(国内外を問わず)を行う以下のような組織にとっては有益なツールとなります。たとえば次のような組織が当てはまります。

  1. 開発途上国などのインフラストラクチャー整備事業などに直接的、間接的に関与する組織(商社、各種プラント構築企業、エイジェント、NGO等)
  2. 事業展開において、外国公務員との直接的、間接的接触が現存するあるいは予測される組織(これは、国内においてもそのような場面が想定されます)

どのようなメリットがあるのか

ISO37001を採用する企業にとってどんなメリットがあるのでしょう? 一つには、世界各国の贈賄関連法令への遵守をより確実なものとすることができる点が挙げられます。前述のごとく一部の例外はあるものの、ISO37001に準拠したマネジメントシステムの構築・運用は、米国のFCPA、英国の贈収賄禁止法及び日本の不正競争防止法等への要件を満たすことができます。

二つには、組織がISO37001に準拠した運用を行っていた場合、組織の社員あるいはパートナーが贈賄で罪に問われたとしても、組織としての賠償責任を免責されやすくなる可能性があることです。前述の、不正競争防止法に外国公務員贈賄に係る罰則が定められた際、経済産業省が策定した「外国公務員贈賄防止指針」の第3章 第3項 罰則(2)- ②に、不正競争防止法において組織が免責を認められるためには、体制の構築・運用や、外国公務員贈賄防止対策の実効性を高め、内部統制の有効性の向上を図るための方策をとることが必要と記述されており、これを満たせるツールの一つが本規格に他ならないからです。

ISO37001の構成

ISO37001は実はまだ正式発行にいたっていません。予定は2016年末とされています。現時点では、未だ開発ステージにあり、ドラフト版(ISO/DIS 37001)が開示されています。その目次構成を以下表に示します。
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