古河電気工業様

役員向けシナリオ非開示訓練で
工場爆発事故への対応を検証

古河電気工業株式会社様は、電線・非鉄金属の総合メーカーで、現在では情報通信、エレクトロニクスや自動車部品分野まで事業領域を拡大し成長を続けています。グループ企業は100社を超え、その拠点は国内外に広がっています。このたび、経営層参加型訓練を実施した経緯について、取締役兼執行役員常務天野 望 氏を始め、総務・CSR本部メンバーの方々にお話を伺いました。

繰り返される災害と対応

取締役兼執行役員常務 天野 望氏

―今までの防災対策などを教えてください。

天野:以前より全社的な地震対策や工場などにおける安全対策は実施しておりました。ただ、BCPの要素をちゃんと意識したのは新型インフルエンザ対策からになりますので2008年からですね。

BCPに関しては、本部から指針やガイドラインを出して、あとは各事業部が率先して実行する体制にしています。特に熱心なのは光通信部品に関わる事業部で、東日本大震災の直前にBS25999の認証も取得しました。そのおかげで東日本大震災の際には、その事業部の千葉工場は液状化の影響がありつつも比較的早く復旧できましたし、その活動が認められてBCAOアワードも受賞しました。ただ、同じ年の秋に起こったタイの大洪水では工場が甚大な被害を被っており、千葉で代替生産をおこなうためにタイの人員を一時的に千葉工場に召集したり、生産設備をかき集めたりと手を尽くしましたが、もっと事前に準備ができたのではないか、という反省もあります。

当社は国内外に事業所や工場があり、グループ企業もたくさんありますので、あらゆる災害・事故による被害を受ける可能性があります。また、一部施設に関しては老朽化も進んでおり、昨今の予期せぬ自然災害による被害も甚大です。最近では日光工場で雪害による建屋屋根崩落が起こり対応に追われました。自社だけでは対応しきれない部分は他社と代替生産・供給の協定を結ぶなど様々な検討をしています。

また、事業部によってはあまり取組に熱心ではないところもあるので、全社的な対応レベルをあげていくことが今後の課題です。

経営層を主体とした訓練を実施

CSR推進部 主席 山本 一郎 氏

―今回の訓練のきっかけを教えてください。

天野:前述のとおり、現在BCPの取組に関しては、本部が指針やガイドラインを出して、各事業部が自主的に策定、訓練を実施しています。原則として年に1回の訓練と、工場などは安全対策の側面から必要に応じて日々の訓練を月に1回ないしは2回おこなっています。本部も年に1回の訓練をおこなっているのですが、今まで訓練に経営層が参加したことはありませんでした。

そんな中、社長からいざという時どう動くのかを確認しておきたい、という発案があり、有事の際に実際に対策本部になるメンバーで訓練を実施しよう、ということになりました。
 

―今回コンサルティング会社を利用された理由を教えてください。

山本:当社は最初にBCPを策定した際にはコンサルティング会社を利用させていただいたのですが、その後は自分たちにもノウハウが溜まってきたので、社内で運用をしておりました。訓練に関しても自分たちでシナリオを考え実施してきました。

今回ニュートンさんにお願いをした理由は2つあります。1つは広範な知見です。今まで我々が考え対応してきたBCPは自社のことを中心に、この業界を前提としたものだったのですが、昨今の環境変化などを考慮するとサプライヤーとの関係や他業界での取組なども参考にすべきだと考えるようになりました。その点ニュートンさんは経産省のプロジェクトで全国28グループの支援をされており、そのノウハウは有用ではないかと考えました。

もう1点は、社内に対する説得力ですね。特に今回は経営層を対象とした訓練を実施するということで、やはり専門家の方に入っていただいた方が説明も分かりやすいですし、評価についても他社との比較など納得のしやすいコメントがいただけるのではないかと期待しました。

追及したのはリアル感

―それでは具体的な取組内容を教えてください。
 

福田:今回は経営層を対象とした机上訓練をおこないました。

対象事象としては工場における爆発事故を選択し、その際の災害対策本部の動きを発災から緊急対応まで訓練しました。当初、対象事象としては地震、水害、爆発事故の中から絞り込んだのですが、爆発事故を選定した理由は、自社のみ被害を受けている状況、外部公表やマスコミ対応などの要素も加味した訓練が今後役立つと感じたためです。前述の日光工場の被害が自社のみだったので、そうした状況への対応を改善したいという想いがありました。

シナリオは事務局の方で相当に作りこんで当日に臨みました。また、実際の災害では役員は何も知らない状態で事態に対処しなくてはならないわけですから、事前の情報開示は敢えてしませんでした。(情報共有していたのは天野常務と緊急対策副本部長の2名のみ)

前半でニュートンさんからBCPの説明と他社事例などをご説明いただき、後半で訓練を実施しました。今回は机上訓練ではあったのですが、できるだけリアル感を追及したかったので、爆発事故のあった工場から電話で事務局の方へ第一報が入る、というところから訓練をスタートしました。

CSR推進部長 福田 隆志 氏

―迫真の演技だったと聞いています。

福田:ここで恥ずかしがっては訓練全体に影響すると思ったので、ちょっと遊んでみようかと思って(笑)。でもそれを受けての役員の方々のノリがとても良かったのが意外でした。歴史の重みのある堅い会社ですので普段はそんな風ではないのですが。実際多くの被害を経験してきているので、こうした現場に則した動きになると自然にできる、ということなのかと思います。

訓練の進行としては、事前に作りこんだシナリオがあったのですが、進めていく中で参加者の動きにあわせてファシリテーター役の内海さんが臨機応変に対応してくれました。役員も取り組んでいる中でいろいろな気づきがあったようで、こういう要素も盛り込んだ方がいい、こういうことも事前に考えておくべきだ、など全員が何かしら声にしていたと思います。

実は社長を含む一部役員のスケジュールが少し足らず、途中で必要に応じて退席いただこうと考えていたのですが、みなさんとても熱くなっており社長の方から中途半端は良くないから最後まで全員でやろう、と呼びかけがあり、最後の振り返り・評価のところまで全員で実施することができました。これは非常に大きな成果だと感じています。

何が飛び出すか分からない非開示訓練

訓練風景:緊急対策本部長としての柴田社長からの指示

―何か苦労したポイントはありましたか?

山本:実施するにあたって、参加者である役員のマニュアルの理解度が不明だったことですね。全員分かっていない、もしくは全員分かっているなら、それにあわせてシナリオを組めるのですが、理解度がバラバラだと分かっていない人がとんちんかんな行動をしてしまいますので、それを加味したシナリオはどのように作ればよいのか、というのは非常に難しかったです。当日実際にやってみた時も、やはり役員によって向いているベクトルの方向が違うので、色々な意見が出て、それを集約して流れを作っていくのは大変でしたね。

でもいくら訓練をしていたとしても実際の災害の時には同じような状況になると思われるので、それはそれとして大変勉強になりました。一方で参加した役員全員が大変に前向きで熱心に取り組んでくれたので、とても良い訓練が実施できたと感じています。

訓練風景:本部事務局での情報整理

―今後の課題を教えてください。

山本:現在今回の訓練の評価をまとめているところです。参加者である役員からのフィードバックを精査しているのですが、半分くらいは有用な意見だったり、残りはこれはマニュアルを読んでいないな、ということが分かったり・・・。そこも含めて次回に向けて何を準備すれば良いのか、どんな訓練をおこなうべきかを考え中です。

次回については弱いところをまずは埋める取組になると考えています。今回はマスコミ対応に関してはあまり深く入らなかったのですが、そのあたりも取り組みたいと思っています。現時点では広報に立派なマニュアルがあるのですが、実際に使ったことがないので、今回の訓練での学びも反映したり、事務局で議論していきたいと考えています。

福田:BCP全体について言えばまだまだ多くの課題があると感じています。現実的な問題としては、海外拠点でのトラブル発生にどのように対応していくのか、というのも喫緊の課題です。当社は天津にグループ会社があるのですが、先日の爆発事故は離れたところで問題がなかったのですが、もし何かあった時にはどうすればよかったのかなど、悩みはつきません。海外拠点だと距離も離れていますし、情報も入手しにくいですから、対応も時間がかかってしまいます。

天野:前述した日光工場の建屋の屋根が崩落するという事故では自社工場用に引いていた水力発電用ケーブルも一緒に落ちてしまい、工場だけ停電になる、というトラブルがありました。休日だったので人的被害はなかったのですが、工場設備は被害に合うし、交通機関もマヒしていたので事態の把握をするために社員が何時間も雪の中を歩いて現地に行ってようやく分かった、というようなこともありました。国内でさえそんな状況なので、海外となると連絡を取ること自体難しいのではないかと感じます。ルールや規定はあるのですが、なかなかそれに立ち返って実行するというのが、いざとなるとうまくいかなかったりするので、繰り返し繰り返し検証をしていくしかないですね。
 

―ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか。

山本:当方がコンサルティング会社に期待していた知見と説得力においては満足しています。訓練の前半でおこなっていただいた教育の部分においては他社事例や業界動向などふんだんに盛り込んでいただいたので、とても役に立ちました。また、当日のファシリテーターとしては、想定外のこともうまく汲み取って流れを作って頂けてスムースに訓練を実施することができました。

準備の段階では当方の問い合わせにも迅速にご対応いただきプロジェクトが進めやすかったので感謝しています。
 

―本日はどうもありがとうございました。

担当の声

シニアコンサルタント  高橋 篤史

参加者全員が主役~危機対応訓練のあるべき姿~

「何っ?工場が火事?」携帯電話を手にした福田部長の声に会場全体が緊張感につつまれました。事務局との直前の打合せでは、できるだけ本番に近い雰囲気でやりましょう、と合意していたものの、よもや開始時点でここまで迫真の演技をしていただけるとは思いもよらず、その後の訓練の流れは、完全に本番を想定したものとなりました。みるみるうちにホワイトボードは刻一刻と変化していく状況で埋め尽くされ、役員の皆様も立ち上がって対策本部事務局ブースまで赴き、指示を出すなど、緊迫した雰囲気のまま予定のシナリオを終えました。多くの机上訓練では、状況付与と設問に基づいてシミュレーションが進行するのですが、今回は用意していた設問から派生して様々な状況が展開されました。いわば、訓練参加者が自らシナリオをつくり、課題を導き出したと言えます。このような一種ロール・プレイング的な手法は参加者(演者)がどれだけ自身の役に没頭できるかで成否が分かれますが、今回は緊急対策本部構成メンバーの皆様が当事者意識を持って臨まれたため、危機時の対応力向上を目指した訓練としては成功裏に終わったと言って良いでしょう。

特筆すべきは、社長の一言で休憩を挟まず振り返りに突入し、訓練の温度感を保ったまま、瞬時に課題抽出の議論に切り替わった点です。重要な局面での意思決定がトップダウンで迅速になされることは、有事において非常に重要です。訓練の場でこのような光景に遭遇することは、そう多くはありません。支援させていただいた我々にとっても、多くの気付きが得られた貴重な機会となりました。今後は訓練を通して検証の範囲を拡大していかれるとのことですが、今回のような高いモチベーションを参加者の皆さんが持ち続けることで、その成果は回数を追うごとに顕著になるであろうと確信しています。

お客様情報

名称: 古河電気工業株式会社
所在地: 東京都千代田区丸の内2-2-3 丸の内仲通りビル
設立: 1896年6月
代表者: 代表取締役社長 柴田光義
従業員数: 3,435名(連結46,134名)
事業内容: 情報通信、エネルギー・産業機材など
URL: http://www.furukawa.co.jp/

(2015年8月現在)

プロジェクトメンバー

お客様

取締役兼執行役員常務

天野 望 氏

総務・CSR本部 CSR推進部長

福田 隆志 氏

総務・CSR本部 CSR推進部 主席

山本 一郎 氏

総務・CSR本部 CSR推進部 主査

池谷 晃 氏

総務・CSR本部 人事総務部総務課長

阿部 剛 氏

ニュートン・コンサルティング

代表取締役社長

副島 一也

執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント

内海 良

シニアコンサルタント

高橋 篤史

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