4つの事案とは
まずは、4事案を一覧で整理してみます。細かな違いはあるものの、いずれも長期間にわたり、複数の人や部門を巻き込みながら、内部の牽制だけでは止められなかったという点で、非常に示唆に富むケースです。
表 各社の不正内容と時期
共通項は何か
4事案を読み解いて、私がまず上位概念として置きたいのは、トップのコミットメント不全です。ここでいうコミットメント不全とは、単に「不正はだめだ」と口で言わなかった、という意味ではありません。不正を許さないという姿勢を、目標設定、牽制の設計、異論を許す文化づくりといった具体的な行動にまで落とし込めていなかった、あるいは自らそれを弱めてしまっていた、という意味です。
いわき信用組合では、そもそもトップ自身が不正の主導者でした。エア・ウォーターでは、過度な業績プレッシャーとトップの曖昧な対応が、内部統制を内側から弱めていました。ニデックでは、「正しいことがすべて」と言いつつ、実際には過去の問題処理や不採算事業の立て直しに必要なコストも、自力で利益を生み出して賄うこと(いわゆるセルフファンディング)が求められ、現場には「問題は処理しろ、しかし利益も落とすな」という矛盾したメッセージが届いていたように見えます。川崎重工業については、他の3事案ほどトップの関与が明示されていないものの、あれほど長期にわたり不正が続いていた以上、少なくとも不正を本気で断ち切るだけの強い意思と行動が十分ではなかったと考えるのが自然ではないでしょうか。
そのうえで、こうしたトップのコミットメント不全は、主に3つの歪みとして表れていたように思います。
図 構造的欠陥の解剖:経営トップの機能不全が招く「3つの構造的歪み」
1つ目は、目標の歪みです。トップが無理な達成圧力や矛盾したメッセージを出すと、現場は「正しく未達を出す」よりも、「何とか数字を合わせる」方向に追い込まれます。ニデックでは、高い成長目標と利益確保の圧力のもとで、是正策すら先送りや粉飾の誘因になっていました。エア・ウォーターでも、「当期の利益をよく見せる」「赤字を避ける」ことが不正の共通目的になっていました。川崎重工業では予算遵守や納期・コスト優先、いわき信用組合では焦げ付きや責任追及の回避が、不正の直接的な動機になっていたように見えます。未達や損失を健全に出せない組織では、不正は特別な逸脱ではなく、経営目標の裏側から生まれてしまいます。
2つ目は、牽制の歪みです。制度があることと、制度が機能することは別です。ニデックでは、社外取締役が過半数であっても構造問題は十分に共有されず、内部通報も「窓口」はあっても、調査・是正の機能としては弱かったように見えます。エア・ウォーターでも、取締役会、監査役会、内部監査、内部通報が十分な歯止めにならず、むしろ監査室トップが隠蔽を助言する場面すらありました。いわき信用組合では、理事会も監事会も通報制度も実権者に吸収され、牽制装置として機能していませんでした。川崎重工業でも、二線・三線が同化し、社内自浄だけでは不正を発見・是正できなかったと整理されています。問題は、「制度がないこと」ではなく、「制度がトップの意思や組織慣行に負けて、実質を失っていたこと」にあります。
3つ目は、文化の歪みです。トップに異を唱えにくい空気が広がると、違和感は封じ込められ、異常は日常に吸収されていきます。ニデックでは強い創業者に正面から異を唱えにくい風土が、エア・ウォーターでは叱責と恐怖が、いわき信用組合では院政的支配が、川崎重工業では心理的安全性の欠如や事なかれ主義が、それぞれ組織の沈黙を生んでいました。そして、その沈黙の上に、不正の正当化、慣例化、継承が進んでいきます。最初は例外だったものが、「みんなやっている」「前からそうだった」に変わっていく。この段階までくると、不正はもはや個人の問題ではなく、組織文化そのものになってしまいます。4事案に共通していたのは、まさにこの、声が上がらず、牽制が効かず、やがて不正が組織の通常運転に組み込まれていく過程だったのではないでしょうか。
結論
では、こうした共通項を踏まえると、不正を起こさない組織にするために何が必要なのでしょうか。私自身、特に重要だと感じたのは次の4点です。
1つ目は、「正しいこと」を断固として追い求めるトップの姿勢です。ただ「当社は正しいことを最優先する」と言うだけでは足りません。日々の言葉、判断、評価、メッセージの出し方を通じて、何よりも優先される価値観が本当にそこにあるのだと、全社に伝わるレベルで示し続ける必要があります。
2つ目は、売り上げや利益目標だけを一方的に下ろしていないかを見直すことです。何を目指すのかと同時に、どの場面でどこまでリスクを取るのか、すべてを達成できないと分かったときに何をあきらめる覚悟があるのか、どのリスクは絶対に取らないのか。そうした考え方のことをリスクアペタイトともいいます。こうしたリスクアペタイトとセットで示すことが欠かせません。細かなリスクアセスメント以前に、組織としての腹のくくり方が問われます。
3つ目は、そうしたリスクアペタイトをはじめ、リスクに対する組織としての基本姿勢、いわゆるリスクカルチャーを、醸成し、モニタリングし、浸透させるPDCAが回っているかを確認することです。浸透しているつもりでも、トップのちょっとした言動や姿勢によって、現場への伝わり方は簡単に変わってしまいます。だからこそ、発信して終わりではなく、どう受け取られているかを確かめ続ける視点が重要です。
4つ目は、仮に1つ目や2つ目が十分に機能しないトップがいた場合でも、不正を止められる仕組みになっているかを点検することです。トップの影響が及びにくい監督機能をどう持つか。監査役会や内部監査の独立性をどう担保するかは、やはり重要な論点だと思います。また、社外取締役が過半数を占めていても、情報が十分に届かなければ機能しません。だからこそ、社外取締役自身が受け身にならず、組織への理解を深め、違和感に対して踏み込んでいく姿勢も大切です。
こうしたテーマに少しでも関心を持たれた方は、ぜひ個別の記事(※)もご覧ください。他社の不祥事を知ることは、単なる知識のためではなく、自社の中にある似た芽に早く気づくためでもあります。そういう意味で、今回の4事案は、組織にとってのリスクマネジメントを考えるうえで、とても示唆に富む教材だったように思います。
皆さまの組織ではどうでしょうか。
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