地政学リスクは相変わらず落ち着かず、このところは地震が岩手県沖や熊本県でも発生しています。「うちのBCPは本当に大丈夫だろうか」と、ふと危機感を抱いた方もいるかもしれません。
BCPの実効性を左右するのは、最終的には「人」、すなわち有事の当事者です。判断する経営層、業務を担う現場、そして両者をつなぎながら取り組みを前に進めるBCP事務局です。そのBCP事務局には「BCPを動かす力」「組織を動かす力」「BCPを仕組みとして根付かせる力」の3つが求められます。
BCPを動かし、組織を動かし、仕組みとして根付かせる力
BCP事務局には、BCPに関する知識だけでなく、活動や組織を実際に動かす力が求められます。こうした力量が不足すると、BCPは整っているように見えても、実際には機能しないものになりかねません。例えば、「経営や現場の手をできるだけ煩わせない方がよい」と考え、BCP事務局だけで整備を進めてしまうケースがあります。しかし、BCPの主役は、実際に判断し、行動する経営と現場です。当事者の参加を減らすほど、実態から離れた、事務局の独り相撲に終わるBCPになってしまいます。
また、BCPの専門知識があっても、決められた分析や文書化の手順を踏むこと自体が目的になると、本当に重要な部分へ十分な時間を割けなくなります。例えば、代替拠点や代替業務を決めれば、対策を検討したように見えます。しかし、必要な人員、設備、情報、取引先などを本当に確保できるのか、実際にどのような手順で切り替えるのかを検証しなければ、その実効性は分かりません。代替策は、決めるだけでなく、実行できることを確かめて初めて意味を持ちます。
さらに、初年度に質の高いBCP活動ができたとしても、責任者、会議体、訓練、見直し、引き継ぎなどの仕組みがなければ、担当者の異動とともに活動が止まるおそれがあります。
BCP事務局に求められる3つの力
1.BCPを動かす力
BCPの構築、訓練、見直し、改善といった一連の活動を、体系的に組み立て、適切な方法と順序で進める力です。
BCPでは、会社、事業、製品・サービス、業務、経営資源といったさまざまな単位を捉えながら、人命保護と事業継続の両面を考える必要があります。想定する事象も、地震、風水害、火災・爆発、サイバー攻撃など多岐にわたります。
そのため、何から、どこまで、どの順序で検討すべきかが分かりにくく、ともすれば必要以上に複雑に考えたり、反対に、通りいっぺんの分析や文書化で終わったりしがちです。
だからこそ、BCPの目的や全体像を体系的に理解し、自社に必要な範囲と進め方を見極める力が重要です。そのうえで、プロジェクトを計画し、BIAや経営資源分析、事業継続戦略の検討、訓練、課題管理などを進めます。
単に一連の手順を終えるのではなく、代替策が本当に実行できるのかを検証し、そこで見つかった課題を次の改善につなげるところまでが、BCPを動かすということです。
2.組織を動かす力
自社の事業や業務、組織、意思決定の実態を理解し、経営や現場から必要な協力と判断を引き出す力です。
BCPは、事務局だけではつくれません。経営、事業部門、管理部門、工場や拠点など、多くの関係者に、それぞれ異なる役割を担ってもらう必要があります。
まず重要なのは、現場の業務を理解することです。業務の流れや繁閑、必要な人員・設備・情報、他部門や取引先とのつながりが分からなければ、現場が答えられる問いを立てることも、現実的な代替策を一緒に考えることもできません。BCPの用語を一方的に説明するだけでは、現場との対話は深まりません。
一方、経営を動かすには、経営が何を重視し、何を懸念するのかを理解する必要があります。事業や顧客への影響、財務面や信用面の損失、代替策に必要な投資などを踏まえ、「何が問題で、どの選択肢があり、何を判断してほしいのか」を明確に伝える力が求められます。
さらに、BCPは巻き込む相手が多いため、段取りも重要です。誰を最初に巻き込み、どこで合意を取り、どの論点を経営に上げるのか。関係者の役割や影響力、意思決定の流れを踏まえて進めなければ、会議を重ねても結論が出なかったり、後から重要な関係者の反対で手戻りが生じたりします。
つまり、組織を動かす力とは、単なるコミュニケーション力ではありません。自社を理解し、相手の立場に応じて問いや説明を変え、適切な順序で合意と判断を引き出す力です。
BCPの手順を知っていても、人や組織が動かなければ活動は進みません。一方で、人を集めるだけでも、検討すべき内容が曖昧では成果につながりません。「BCPを動かす力」と「組織を動かす力」の両方がそろって、初めて実効性のあるBCPにつながります。
3.BCPを根付かせる力
BCPを一時的な取り組みで終わらせず、担当者や経営者が替わっても続く仕組みとして、組織に定着させる力です。
初年度は、経営の関心も高く、事務局にも専任の担当者がいて、一定の予算や時間を確保できるかもしれません。しかし、時間がたつにつれて優先順位が下がり、訓練や見直しが先送りされ、いつの間にか文書だけが残るということも少なくありません。
担当者個人の知識や熱意だけに頼っていると、異動や組織変更をきっかけに活動が止まりかねません。誰が責任を持ち、どの会議体で何を確認し、どのような場合に経営へ報告するのかを明確にする必要があります。
また、訓練、見直し、教育、引き継ぎなどを、担当者の自主的な努力ではなく、年間計画や定例業務に組み込むことも重要です。組織変更、新規事業、拠点移転、システム変更、主要取引先の変更など、事業の前提が変わったときにBCPも見直される仕掛けがあれば、計画と実態のずれが生じるのを防ぎやすくなります。
さらに、BCPを事務局だけの仕事にせず、経営や各部門が自らの役割として関与する状態をつくることも欠かせません。訓練や実際の事象から得た教訓を共有し、改善を積み重ねることによって、BCPは徐々に組織の日常へと根付いていきます。
5年後、10年後もBCPが回り続けるガバナンス、運用の仕組み、そして組織文化をつくることが、事務局の重要な役割です。
3つの力は、役割に応じて求められる深さが異なる
3つの力を、すべての事務局員が同じレベルで備える必要はありません。基礎的な理解が求められる人、自ら実務を進める人、活動全体をリードする人など、担当する役割に応じて必要な力量の深さは異なります。
表 BCP事務局に必要な3つの力
| レベル | BCPを動かす力 | 組織を動かす力 | BCPを根付かせる力 |
|---|---|---|---|
| 基礎 | BCPの目的、基本用語、構築・運用の全体像を理解する | 自社の事業、業務、組織、関係部門を理解する | 訓練や見直し、引き継ぎの必要性を理解する |
| 実務 | BIA(事業影響度分析)、経営資源分析、戦略検討、訓練、課題管理を進める | 関係者への説明・調整、会議やワークショップの進行を行う | 年間計画、教育、文書更新、引き継ぎを継続的に回す |
| リード | RTO(目標復旧時間)や事業継続戦略を設計し、実効性を検証する | 経営や部門長を巻き込み、必要な判断・人員・予算を引き出す | ガバナンスや組織を設計し、当事者意識と改善文化を定着させる |
出典 ニュートン・コンサルティング作成
力量はチームとして備える
ここまで挙げた力量を、1人の担当者がすべて持つ必要はありません。
BCPの専門知識に詳しい人、プロジェクト管理が得意な人、事業や現場に詳しい人、社内調整に強い人、訓練やワークショップの進行が得意な人、ガバナンスや仕組みの設計が得意な人など、それぞれの強みを組み合わせることが大切です。
重要なのは、優秀な担当者を1人置くことではなく、事務局チームとして「BCPを動かす力」「組織を動かす力」「BCPを根付かせる力」をバランスよく備えることです。どれか1つだけが優れていても、実効性のあるBCPにはつながりません。
例えば、BCPの専門知識が豊富でも、経営や現場を巻き込めなければ、実態を反映した計画にはなりません。反対に、社内調整が得意でも、BCPの進め方や実効性の検証方法を理解していなければ、議論を具体的な対応策に結びつけることは難しくなります。
また、特定の担当者だけに知識や経験が集中すると、その人の異動や退職によって活動が止まるおそれがあります。複数名で役割を分担し、検討の経緯や判断の理由を共有しておくことも、BCPを組織に根付かせるうえで重要です。
まずは3つの力の観点から、チームが現在どのような力量を持っているのかを可視化してみましょう。そのうえで、不足している力を、社内での育成や配置、実務経験の付与、外部研修、専門家の活用などによって補っていきます。
外部専門家を活用する場合も、単に分析や文書作成を委託するだけでは、社内に力量が残りません。事務局が一緒に考え、進め方を学び、次回は自ら取り組めるようにするなど、知識移転や担当者の育成につなげる視点が大切です。
BCPを継続的に機能させるために、まずは自社の事務局チームが3つの力をどの程度備えているか、確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。