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書籍紹介

東日本大震災 石巻災害医療の全記録

2013年07月22日

被災地の医療はどうなっていたのか?


本書は、石巻赤十字病院の一外科医師であり、発災1カ月前に委嘱された宮城県災害医療コーディネーターである石井正医師が、石巻医療圏の自治体、医師会や東北大学、自衛隊などの関係各機関と立ち上げた石巻圏合同救護チームの統括として陣頭指揮をとった東日本大震災発生直後から7カ月の全記録です。

本書の構成は次のようになっています。

第1章 発災
第2章 備え
第3章 避難所ローラー
第4章 エリアとライン
第5章 協働
第6章 人と組織
第7章 取り残された地域
第8章 フェードアウト
終章 「次」への教訓
 

災害救護活動において最も重要なことは何か

まず、発災直後の動きが綴られた序盤から手に汗を握らされます。発災直後、石巻赤十字病院内では、災害対策マニュアルにしたがってトリアージセンターや各救護所を設営しました。初日こそ受入患者数は99名と想定より少なかったものの(平時の救患受入数は60名)、翌日には一転して、津波による低体温症患者を含め779名、3日目は1,251名、4日目700名、5日目617名と、1週間で3,938名の救急患者が搬送されます。そして発災5日目、「石巻市に300カ所の避難所があり、約5万人が避難している」という情報が入ってきます。避難所に飲料水や食糧は行き届いているのか、ライフライン状況と衛生環境はどうなのか、どの避難所にどれだけの傷病者がいてどのような医療ニーズがあるのか、そういったことはまったく不明で、DMATもすでに撤収してしまっていました(災害発生から48時間の超急性期を既に過ぎていたため)。

マニュアルでは想定されていなかった事態への著者の対応は、石巻赤十字病院に残っている日赤救護班16チームのみで300カ所すべての避難所をローラー調査することでした。これが奏功し、避難所のアセスメントをわずか3日間で完了させることができ、飲料水や食糧がまったく届いていない避難所があることも判明し、行政が被災して機能しない中、救護チームが車に積めるだけの飲料水と食糧を配布することになりました。また、トイレが使用できない劣悪な衛生環境での腸炎や肺炎の蔓延が懸念されるため、それを防ぐために簡易トイレを避難所へ配給できるように民間企業と協議し避難所で使用できるようにしました。

このような臨機応変な活動は、宮城沖地震が99%の確率で発生するとの予測のもとに実施されていた消防・警察・自衛隊等によるリアルな合同訓練の効果も大きかったと思いますが、平時から著者が行っていた、民間も含めた「顔の見える人脈づくり」あってこそだったのではないでしょうか。また、大規模なローラー作戦を決行した著者の念頭にあったのは情報の大切さでした。「HELP」の声が聴こえない、見えないのは、そのこと自体が「HELP」のサインと捉えるべきだ、という言葉は災害救護における重要な姿勢だと思います。

発災から8日目以降、全国の公立病院、医師会や大学病院などから様々な救護チームが駆けつけましたが、石巻赤十字病院に参集するチームもあれば、宮城県の指示で直接現地入りするチームもあるという状況でした。著者は、各チームがバラバラに活動すると救護の「空白地帯」ができると危惧を抱き、医師会、自衛隊などの関係各機関を回って調整を重ね、石巻合同救護チームを立ち上げます。しかしチームを302カ所の救護所に割り振るのは困難をきわめ、石巻市内の救護活動を効率的に運用するため、石巻医療圏を14のエリアに分け、救護チームを継続的な救護活動を行ってもらえるように、派遣元であらかじめ現地入りする救護チームの班編成とその順番を決めるラインを作り救護活動を開始しました。

本書後半では、合同救護チームとしての災害救護の取組とは別に、地元の災害拠点病院である石巻赤十字病院の活動が紹介されています。そこに見られるのは「被災者が必要とすることならなんでもするという姿勢」であり、救護チームの活動は、行政や民間企業との調整や協働によって成立していました。そこでは膨大な事務処理と調整機能が必要になりますが、一外科医である著者が救護チームの統括に専念できたのもこうした後方支援(ロジスティック)あってこそで、こうした記録作業の支えがあってこそ、現状の把握や検証が可能になり、冷静に最善の対策をとることができました。著者は、災害救護活動で最も重要なのはこの後方支援だまで言いきっています。

強靭な意思とリーダーシップによる闘い

こうして、避難所のアセスメントデータを時系列ですべて保存しながら、被災地の広範な医療ニーズに応える、というかつてない災害救護をなしとげた著者たちの努力には強く感銘を受けました。著者は「僕を支えたものがあったとすれば、それは『意思』だ。とにかく石巻の再生のために全力を尽くす、という意思だ」と書いていますが、この強靭な意思とリーダーシップによって、著者は7カ月間を闘いぬいたのです。

今後、日本の各地で首都圏直下型地震、東南海トラフ地震といった大地震の発生確率が高まり、東日本大震災と同等、もしくはそれ以上の被災・被害が想定されています。本書から得られた災害医療の在り方だけではなく、避難所での対策や関係各機関との連携が今後の対策を検討する上でひとつの指標になればと思います。また、医療従事者だけでなくすべての方に読んでいただき、災害発生時に大きな意味をもつ、平時からの連携の大切さを認識してほしいと思います。

(文責:譜久村 岳彦

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