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書籍紹介

巨大災害のリスク・コミュニケーション: 災害情報の新しいかたち

2014年01月15日

「生き残る判断、生き残れない判断」の著者、アマンダ・リプリー氏は、その著書の中で、次のように述べている。

『911では生存者の少なくとも70パーセントが退去しようとする前に、他の人と言葉を交わしていたことが連邦政府の調査で分かった。生存者は何千本もの電話をかけ、テレビやインターネットのニュースサイトを確かめ、友人や家族にメールを送った。』

良い・悪いは別にして(おそらくこれがために避難が遅れ多数の死者が出た、という意味では良くなかっただろうが)、災害時のコミュニケーションが人の生死を分けるといっても過言ではない。まさにこの災害時のコミュニケーションのあり方にスポットライトを当てた本がある。

巨大災害のリスク・コミュニケーション ~災害情報の新しいかたち~ 著者: 矢守克也 発行元: ミネルヴァ書房
 

東日本大震災以後の災害時のコミュニケーションのあり方を考える

本のタイトルは「巨大災害のリスク・コミュニケーション」。「巨大災害」とは、地震と水害のことを指している。そして「リスク・コミュニケーション」とは、防災情報の伝達内容やタイミング、伝達手段のことだが、ここには2つの意味が込められている。1つは、災害が発生する前、または災害が発生したときに、とるべき人の命を守るためのコミュニケーションのことだ。もう1つは、それらコミュニケーション自体がもたらす弊害(コミュニケーション・リスク)のことだ。

あらためてまとめると、地震や水害が起きる前、または、起きた直後にとる、人の命を守るためのコミュニケーションの功罪を認識し、課題を特定し、解決策を追求したもの……それが本書である。

具体的にはたとえば、以下に示すようなテーマがカバーされている。

「なぜ、逃げないのか?」 「なぜ、逃げるのが遅れるのか?」 「なぜ、悲惨な体験が風化してしまうのか?」 「なぜ、ヒヤリハットが生かされないのか?」 「なぜ、想定外は起こるのか?」

意外と曖昧にされがちな課題に立ち向かう

本書最大の特徴は、「人の命を守るためのコミュニケーション」という、重要ではあるが、そう簡単に答えが見つからない・・・いや、誰も答えを持ち得ない”重いテーマ”に関して、逃げずに、掘り下げようと努めている点だ。たとえば、従来であれば、以下に示すような平易な答えに落としどころを求めるような本が多かったのではないかと思う。

「色々あるけど、要するにもっと避難基準を明確にして周知徹底しておくことだよね」 「避難指示の語気をもっと強めに変えるべきだよね」 「いやいや、結局は継続的な避難訓練につきるんじゃないかな」

著者は、そこからさらに一歩踏み込む。

『さて,たとえば,”昨夜からの大雨で,XX川は破堤の危険があります。早めに指定の避難所に避難してください”という情報を考えてみよう。このメッセージは,以下のような,さまざまなメタ・メッセージ(意図しない別の意味)を随伴しうるし,実際に伴っていると著者は考える。一つには,”避難というものは,このようなメッセージを受け取ってから,言い換えれば,メッセージを待ってするものだ”というメタ・メッセージ(意図しない別の意味)である。言うまでもなく,これが,”情報待ち”として指摘される問題群の元凶であろう。』(本書 「第Ⅰ災害情報の理論」より引用)

簡単に言えば、ここで著者が指摘しているのは「指示を出す側が頑張って、立派で明確な指示を出すように努力すればするほど、指示を受ける側がその指示なしでは動けないようになってしまう」ということだ。そしてそれが大きなリスクになるのだ、と。想定どおりの事態が起こってくれればまだマシだが、そうとは限らないし、常に想定通りに指示を受け取れるとは限らないのだから。もちろん、避難指示を出す人や警報装置、避難基準を示した防災マニュアルなどの一切を否定するわけではないが、こうした災害時のコミュニケーションがもたらすデメリットについて理解しておかないと、結局は、真の対応力の向上につながらない……そういうことらしい。

そして、そういったデメリットを穴埋めするにはどうしたらいいかて……。著者は、深掘りをすすめていく。ちなみに、著者が出している答えの一つは「指示を出される側……に、ホンモノの防災活動をさせること」だそうだ。常に「誰かが~してくれる。誰かに~してもらえる。」という意識をなくす活動をしていかなければ、どんなに立派なハードをそろえても、効果が半減する、ということなのだろう。

あるべきコミュニケーションを具現化するのは読者自身

本書を読んでいて感じるのは、前段で述べたように”深掘り”をしているだけに、人の命を守るための本質に迫った本である、ということだ。逆に言えば、”これ”といった答えがない。「○○のツールを入れればいい」とか、「○○訓練をすればいい」とか、「○○マニュアルを作ればいい」……といったような、分かりやすい答えは、どこにもない。

むろん、こうした活動に通り一遍の答えがあるほうがおかしいのだから、当然といえば当然だとは思うが、それにしたって「やはり、具体的な、解答例が欲しい」という方には、本書は向いていないだろう。本書が向いているのは、あくまでも、人の命を守るための本質を理解した上で、みずからの発想で、自分なりの答えを見つける用意がある人だ。

(文責:勝俣 良介

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