2015年はコーポレートガバナンス元年と呼ばれました。同年に発行されたコーポレートガバナンスコードが一つのきっかけを与えました。コーポレートガバナンスの強化はアベノミクスの「第三の矢」を支える重要な施策の一つにもなっています。日経新聞でコーポレートガバナンスという文字を見かけない日はほとんどありません。世間の耳目を集めるこの「コーポレートガバナンス」・・・改めて、一体、何なのでしょうか?
コーポレートガバナンスのイロハ
本書には、コーポレートガバナンスのイロハが書かれています。イロハとは、具体的には次のようなものです。
- コーポレートガバナンスとは
- コーポレートガバナンスが必要な背景
- コーポレートガバナンスに関する要求事項と対応の要諦
- グループ会社へのコーポレートガバナンスの効かせ方と要諦
なお、「コーポレートガバナンスに関する要求事項」とは、コーポレートガバナンスにおいて企業がどう取り組むべきかを示した法規制やガイドラインなどのことを指します。本書では、この点について冒頭でも触れたコーポレートガバナンスコード※にスポットライトを当てています。
入門書ながら、痒いところにも手が届く本
本書の特徴は、分かりやすさです。良くタイトルだけ「わかりやすい」とか、「入門」と書いてありながら、中身は実は「わかりづらい」という本も無数に存在しますが、本書はその類ではありません。難しい言葉を噛み砕いて説明しています。では、具体的にどれほど分かりやすいのか一例を以下に示します。例えば、コーポレートガバナンスという用語の解説を次のように行っています。
『この「ガバナンス」を、企業について考えた場合が「コーポレートガバナンス」です。企業の舵取りを、関係者間でいろいろと考えていこうよ、ということです。「企業統治」などと訳されるコーポレートガバナンスですが、単に「株主の言うことを聞け」という上意下達的な支配をさすのではなく、関係者の間で企業の舵取りをどうするかを考えるということなのですね。』(出典:これなら分かるコーポレートガバナンスの教科書より)
また、やや失礼な言い方かもしれませんが、“意外に”痒いところに手が届く内容にもなっています。なんと言いますか、こう、昨今、企業経営をするにあたり、ありがちな壁や悩みについて、触れてくれています。「社外取締役を入れても、時間の限られた取締役会にすごく議題を詰め込みすぎてうわべだけの議論で終わってしまう」という話。「中期計画の策定と言いながら、実際は数字合わせや調整だけで終わっている」という話。「海外子会社を管理するにあたりついつい、海外事業統括部門に任せてしまう」という話。どれもありがちで、実際に企業が抱えている課題ばかりです。本書が単なるアカデミックの書ではないことの証明でもあります。
ただし、一点、課題解決のヒントは書かれていますが、課題解決のステップを事細かに書いてくれているわけではないという点にだけ留意が必要です。
会社勤め人なら知っておきたい世の中の仕組みの1つ
著者曰く、本書のコンセプトは「難しそうな論議ばかりが満載されているようにみえるガバナンス分野について 、法律や規則の詳細にこだわらず 、専門的な見地にも立たず 、社外役員などの経験も踏まえながら 、実務において直面する様々な課題を 、企業のミドル層と一緒に考える 」といったものだそうです。まさにその通りの印象を受けました。
コーポレートガバナンスを知っておくべき立場の人、すなわち、経営コンサル、会社経営者、その候補者、監査役・社外取締役になる人、買収のブレインになる部門の人(経営企画部や財務部など)、海外駐在する人などは、ぜひ目を通しておいたほうがいいでしょう。いや、特定の人に限定すべきではないかもしれません。会社勤めをする者であれば、会社の仕組みくらい知っておきたいものです。
(執筆:勝俣 良介)