BCP担当者必読!「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を踏まえ、企業に求められる対応とは?
| 執筆者: | チーフコンサルタント 田中 駿介 |
2025年3月に内閣府は「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を公表しました。本ガイドラインでは、富士山の大規模噴火時の降灰によるインフラ停止や交通麻痺を見据え、「できる限り降灰域内に留まり生活を継続する」という新たな基本方針と、降灰量に応じて被害の様相を区分した4つのステージが示されました。本記事では、ガイドラインの概要や企業に求められている4つの対応策のほか、BCPの策定・見直しから実践的な訓練手法まで、詳しく解説します。
「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」の概要と策定の背景
富士山は、過去に幾度も噴火を繰り返してきた活火山です。大規模な噴火が発生した場合には、首都圏を含む広い範囲に火山灰の降下が予想され、国民の暮らしや経済活動に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。
こうした背景から、内閣府の「首都圏における広域降灰対策検討会」での議論を踏まえ、2025年3月28日に公表されたのが「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」です。本ガイドラインの目的は、広域降灰対策の基本方針を提示し、その方針に基づいて具体的な対策を検討する際の参考となる考え方や留意点を示すことにあります。この基本方針や考え方を基に国、地方公共団体、関係機関などが連携して大規模噴火に備えていく必要があります。
具体的な被害想定としては、神奈川県や東京都を中心に東北東方面へ降灰する状況を想定しています。これは、中央防災会議の検討会で示された3つのケースのうちの1つ、ケース2(降灰の影響を受ける人口・資産が大きくなる西南西風が卓越する場合)に当たり、1707年の宝永噴火と同規模の噴火を想定しています。つまり、主に降灰の影響のみが想定される遠隔地域の首都圏などにおける対策に焦点を当てて作成されたものとなります。
ガイドラインでは、このモデルケースはあくまで一例であり、将来の富士山噴火の状況を示したものではないことと、実際の噴火時には風向きや噴火の規模、継続時間などにより降灰の状況が変わることを理解することが重要であるとしています。
ガイドラインの基本方針と想定被害を区分した4つのステージ
本ガイドラインでは、具体的な対策の指針として、新たに以下の2点が示されています。
- 広域降灰対策の基本方針「できる限り降灰域内に留まって自宅等で生活を継続する」
- 降灰量に応じて被害の様相を区分した4つのステージと、各ステージにおける影響と対策の基本的な考え方
まず、「できる限り降灰域内に留まって自宅等で生活を継続する」という基本方針が示されました。これは以下の3つの前提に基づきます。
- 緊急的・直接的な命の危険性は低い、という降灰の特徴
- 首都圏の人口が非常に多い
- 予測の不確実性から、噴火前から社会活動を著しく制限することは現実的ではない
これらの前提を踏まえれば、自宅などで生活を継続することが現実的だと考えられると、ガイドラインでは示しています。だからこそ、日頃からの十分な備蓄や火山灰の性質への理解が重要になります。しかし、降灰により命の危険が及ぶ場合には避難が必要です。その避難基準を示す指標となる枠組みが、降灰量に応じて降灰による被害の様相を区分した4つのステージです。
表1は、ガイドラインが示す、4つのステージに応じた被害の様相と広域降灰対策の基本的な考え方です。ステージごとに住民の基本行動や物資供給などの優先度、ライフラインの応急対応などがまとめられています。
【表1】ステージに応じた被害の様相と広域降灰対策の基本的な考え方
表に記載の通り、ステージ1~3では、できる限り降灰域内にとどまり、自宅などでの生活継続を基本とします。ただし、ステージ3であっても自宅などでの生活継続が困難な場合は、ライフラインが機能している生活可能な地域へ移動することも考えられるとしています。また、ステージ4に関しては、噴火が起きた直後は自宅や堅牢な建物に一時的に退避し、その後、降灰状況を踏まえた上で原則として避難行動をとることが推奨されています。
ガイドラインにおいて想定されている、各ステージの被害の様相は、以下の通りです。
- ステージ1(降灰量 微量~3cm未満)
- 大きな混乱には至らないものの、生活に多少の不便が生じるような段階です。走行速度や視界に留意した上での車の走行や物資の供給、復旧作業は可能ですが、鉄道や航空機などの運行停止、ライフラインの一時的な停止が想定されています。
- ステージ2(降灰量3cm以上~30cm未満・被害が比較的小さい)
- 徒歩以外の全ての移動手段に影響が及びますが、比較的早期に主要輸送手段の確保と維持が可能な段階です。ライフラインには大きな影響がありますが、除灰により輸送手段が確保されれば復旧でき、生活・社会経済活動は維持可能とされています。
- ステージ3(降灰量3cm以上~30cm未満・被害が比較的大きい)
- 輸送手段は大きな道路などの確保にとどまるため復旧作業に時間を要し、徒歩以外の移動は困難な段階です。直ちに命の危険性はないものの、物資供給が不十分となり、生活の維持が限界に近づくため、状況に応じ生活可能な地域への移動も視野に入る段階です。ライフラインは、大規模な電力障害、停電、上水道の断水、電力不足による下水道施設の稼働停止などが想定され、社会経済活動への甚大な影響が想定されています。
- ステージ4(降灰量30cm以上、または降灰後土石流の危険がある)
- 全ての移動手段が利用不可能となり、ライフラインの復旧にも長時間を要するため、避難が必要となります。降雨時には火山灰の重みで木造家屋の倒壊が懸念されるような危険な状況となり、降灰量が30cmに満たなくても、降灰後の土石流が想定される地域では命の危険があるとしています。
この各ステージにおける降灰の状況を踏まえて、企業に求められる対応を見ていきましょう。
企業に求められる広域降灰への対応策
本ガイドラインを踏まえると、企業には以下の4つの対応策が求められます。
- 1. 基本方針の周知
- 従業員への広域降灰対策の基本方針の周知です。前述の通り、「できる限り降灰域内に留まって自宅等で生活を継続」を基本とすること、降灰量に応じた4つのステージごとの基本行動など、災害時の対応を従業員へ周知します。平時からこれらの方針を社内で共有し、発災時の混乱を防ぐことが重要です。
- 2. 事業継続計画の策定
- 従業員や施設利用者などの安全確保のため、事業継続計画(BCP)を策定します。具体的には、交通機関の停止による従業員の出社・帰宅が困難になった場合の対策として、災害や交通などの情報提供、一時滞在施設などの開設、出勤抑制・テレワークの推進など、災害時の対応を整理し、有事に備えておく必要があります。
- 3. 備蓄品の準備
- 従業員などを一定期間事業所に留めておくことを想定した備蓄品の準備が必要です。広域降灰時には鉄道などが運行を停止することが想定され、首都圏では自力で帰宅することが困難な住民が大量に発生するおそれがあります。移動が困難な従業員に対しても安全を担保できるよう、1~2週間程度の備えが求められます。
- 4. 代替拠点の検討
- 噴火災害は不確実性が非常に高い事象です。万が一、降灰域外に避難する必要がある場合に備えて、代替拠点の確保なども検討しましょう。
企業のBCP担当者が実施すべきBCPの策定・見直しと訓練
では、本ガイドラインで示された方針を基に、企業のBCP担当者は何をすべきでしょうか。具体的な対応事項を下記にて解説します。
【大規模噴火対応BCPを未策定の場合】BCPの策定
ガイドラインで示された降灰や土石流などの直接的な噴火現象が、自社の拠点にどれほどの影響を及ぼすのか。災害シミュレーションなどを通じて被害リスクを把握し、その上で基本方針に沿った具体的な対応策を検討していきましょう。
BCP策定時のポイントは下記の2点です。
- 既存BCPで活かせる箇所がないかを確認し、大規模噴火へも対応できるようBCPを改訂する
- 対応を判断するトリガーを明確にする
新たにBCPを策定することは、多くの時間と労力を要します。火山災害は進行型災害となりますので、風水害対応のタイムラインなどがあれば、同じフォーマットでの作成を検討することを推奨します。自社の重要経営資源に対する対策も、既存BCPを踏襲できるものがないか確認するとよいでしょう。
一方で、火山災害は不確実性が高いという特徴があります。特に富士山噴火のように社会的影響が大きい災害の場合は、大きな混乱が生じることが想定されます。そのため、「噴火警戒レベル3への引き上げと同時に対策本部機能の移行を開始する」など、判断のトリガーを明確にすることが重要です。
大規模噴火対応BCPの策定には、下記の記事も参考となりますので、ぜひご覧ください。
【大規模噴火対応BCPを策定済みの場合】基本方針や4つのステージに合わせたBCPの見直し
自社で策定済みの大規模噴火対応BCPが、基本方針「できる限り降灰域内に留まって自宅等で生活を継続する」に則しているかの見直しが必要です。従業員が降灰域内にとどまる前提で出社の基準や営業方針などが定められているか、具体的にどのタイミングで、どのような指示を出すのかが明確になっているかを確認しましょう。
次に、自社の重要拠点における降灰予測を基に、それぞれの拠点がステージ1~4のどの段階に該当するかを調べましょう。ステージ1~4の被害の様相に合わせて必要な事前・事後対応策が整備できているかを改めて見直すことが求められます。
【共通】大規模噴火を想定した訓練の実施
BCPの策定、あるいは見直しを行った上で、訓練での検証を行いましょう。噴火は不確実性が極めて高いからこそ、継続的な訓練を実施し、対応力を上げることが重要となります。ここでは、大規模噴火を想定した机上訓練例を2件ご紹介します。
対策本部訓練
対策本部メンバーを対象とした訓練です。対策本部の設置・機能移転判断や社員の安全確保に向けた指示、営業方針の判断などが重要な論点となります。また、訓練に入る前に内閣府が公開している広域降灰の影響を示したイメージCGを視聴することで、訓練参加者内で共通の被害イメージを持ちやすくなり、より効果的な議論ができるでしょう。
- 内閣府「富士山の大規模噴火と広域降灰への対策 ―日頃からの備えを日常に―(15分27秒)」
- https://wwwc.cao.go.jp/lib_012/taisakumovie.html
サプライチェーン連携訓練
溶岩流・火砕流などによる幹線道路の断絶、広域にわたる降灰による調達先や倉庫の被災などを想定したサプライチェーンに特化した訓練です。被害・需要予測、代替調達、配送停止判断などが主な論点となります。噴火の推移や降灰範囲が不確実な状況下で、何をトリガーとして調達・生産・配送の判断をするのか、サプライチェーン関連部署だけでなく、物流委託先や倉庫、工場、調達先などを交えてディスカッションしておくことも有効です。
富士山噴火のような大規模噴火は、社会的・経済的に大きな被害をもたらす一方で、地震や風水害に比べて実例が少なく、これまでの経験値だけで対応するには難易度の高い災害といえます。火山災害こそ、事前の備えが事業継続の可否を左右する大きなポイントとなりますので、ガイドラインを基に実行可能な範囲で対策を打っていくことが重要です。