【コンサル対談・前編】食品業界のBCP再構築――「食を止めない」ための考え方
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
本記事は、食品業界のBCP再構築・改善支援に携わった当社のコンサルタント5名による対談記事です。前編・後編の二部にわたって、業界特有の課題やBCPの実効性を高めるノウハウを深掘りします。
前編では、有事でも「食を止めない」という業界共通の使命感や、経営層の本気度を引き出すトップインタビューの重要性など、BCPの根幹となる考え方に焦点を当てます。
対談者
| ニュートン・コンサルティング | シニアコンサルタント 辻井 伸夫 アソシエイトシニアコンサルタント 山本 真衣 チーフコンサルタント 荒川 卓也 チーフコンサルタント 日野原 小春 チーフコンサルタント 田中 駿介 |
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食品業界はなぜ今BCPを再構築するのか
――東日本大震災をきっかけに多くの企業でBCP(事業継続計画)が策定されましたが、なぜ今改めて「再構築」が必要とされているのでしょうか。企業の現状や課題を教えてください。
辻井:一つは、当時のBCPは現場が関与せず、また経営の意思も反映されないまま策定されることが多かったため、実態と乖離し形骸化してしまっていることがあります。2011年頃は大災害が起きた直後だったため、特に「とにかく策定を」という雰囲気になっていた可能性も否定できません。
山本:策定に携わった担当者が異動や退職でいなくなってしまったことも大きいですね。ルールの背景にある「思い」を知る人がいないので、なぜこのルールがあるのかという本質もわからない。その結果、形式的な防災訓練をこなすだけで実質的な意味をなさないまま時間が過ぎてしまった、というのが実情だと思います。
荒川:特に外資系企業などは人の入れ替わりも激しいですからね。属人化の問題は多くの会社が抱えていると感じます。
――策定プロセスや体制の問題以外では、何が再構築を後押ししているのでしょうか。
日野原:社会環境の変化も関係していると考えられます。以前は「地震対応」を主眼としたBCPが主流でしたが、今は感染症など様々な危機を想定した「オールハザード型」が一般的になり、ここ10~15年で想定すべきリスクが増えてきました。
田中:災害の激甚化、危機の多様化の影響は大きいですよね。コロナ禍などを経て既存のBCPを引っ張り出してみたものの、「実際はあまり役に立たない」、「備えが足りていない」と改めて気付かされたことも再構築の大きな契機となったのではないでしょうか。
「食を止めない」使命。供給責任のその先へ
――以上の背景を踏まえ、ここからは「食品業界」の話を掘り下げていきます。食品業界は、有事の際にも食を提供し続けるという重要な役割を担っていますが、これに関して、今までの支援経験の中で印象的だった取り組みはありますか?
辻井:ある食品メーカーは、「災害時でも食を止めない」という使命のもと、日本のみならず海外での災害に対しても支援物資を提供しています。この考えが会社のDNAのように深く根付いている点はとても印象的でした。
田中:このメーカーさんは、サプライチェーン強化にも積極的に取り組まれていますよね。2024年9月、九州を中心に被害を出した台風10号で供給が間に合わず大混乱となった経験から、訓練の方向性が転換されました。
荒川:その訓練では、営業・生産・配送とサプライチェーンに関わる部門が同時に参加して、意思決定のフローや連携の仕方を確認しました。参加者を特定の層に絞ることでレベル感や粒度を揃えやすく、意義があったと感じています。
――「食品」には食事だけでなくお菓子も含まれますが、違いはありますか。
日野原:お菓子は食事に比べると一見不要不急のものに見えますが、エネルギーを補ったり、被災した人々の心のケアになったりするという社会的意義もありますよね。
辻井:はい。発災直後はやはりごはんやパン、カップ麺などのニーズが高いですが、少し時間が経つと、避難されている方々にとってお菓子などの甘いものも非常に役立ちますし、求められるようになります。そうした意味での地域貢献という側面も、食品業界の重要な役割です。
トップインタビューが変えるBCPの実効性
――各社に食を止めないための強い思いがあることがわかりました。では、食品業界のBCP再構築において、当社の大事にする「トップインタビュー」はどのような役割を果たすのでしょうか。
辻井:トップインタビューは、経営者の思いを確認することが最大の目的です。経営層の思いや姿勢は、BCPの基本方針を考える上で根幹となります。
山本:全社目線での「優先順位付け」ができるのも経営層だけですよね。
あるケースでは、有事の際にどの製品から優先生産すべきか現場が迷わないよう、経営層・役員が中心となって「A工場はこの製品、B工場はこの製品」とトップダウンで決定しました。食品業界では24時間稼働している工場も少なくないので、現場は有事でも「とにかく製品を作らなきゃ」という気持ちになってしまうかもしれません。経営層の明確な意思が示されることで、現場がパニックになるのを防ぎ、従業員の安心安全にもつながります。
日野原:経営層がBCPの活動に関与することで、会社として活動の重要度も上がります。それが現場のモチベーションや、「何かあったときこそ、自分たち=現場の対応力を期待されている」という積極的な姿勢を引き出すのだと、支援する中でも感じます。
田中:そして前提として、BCPは経営戦略の一つです。供給責任や売上など会社としてのスタンスに大きく関わる部分なので、経営層が関わって初めて、本当に実効性のあるBCPを実現することができる、というのがとても重要な部分ですね。
――経営層の明確な意思があることで、組織全体が同じ方向を向く。これこそが、形骸化を防ぎ、BCPに実効性を持たせるための第一歩と言えますね。
思想と戦略が定まったところで、BCP再構築はより具体的な「実務」フェーズに入ります。続く後編では、食品業界特有の勘所をさらに深掘りしていきます。
【コンサル対談・後編】食品業界のBCP再構築――実効性を高める実務と組織体制
https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/column/food-industry-bcp-reconstruction-02.html