日本取締役協会のスタートアップ委員会は2026年6月9日、日本のベンチャー・エコシステムの国際競争力向上を目的とした「ベンチャー・エコシステムの高度化に向けた提言(改訂版)」を公表しました。
2023年以来となる今回の改訂は、初版が公表されてからこれまでのベンチャー・エコシステムの実態および動向を踏まえたものとなっています。改訂版では、規制緩和を基調とする量的拡大に偏重したスタートアップ支援策が限界を迎え、様々なリスクが顕在化していることに警鐘を鳴らしています。
現に、事業基盤が十分に整わない段階での早期上場(スモールIPO)の量産や、上場を境とする成長の停滞、一部のスタートアップにおける会計不正といった重大な事案の発生が、結果としてベンチャー・エコシステム全体の信認を毀損する事態を招いていると指摘しています。
現状、日本のスタートアップは約2.2万社(2025年時点)あり、大学発のスタートアップも年々増加傾向にあります。しかしながら、スタートアップをはじめとする新興企業群の代表指数である「東証グロース市場250指数」は2022年より下落基調となっています。政府が同年「スタートアップ育成5か年計画」を打ち出し、ユニコーンの創出目標数を将来的に100社と掲げたものの、2025年時点で米国750社、中国157社、英国56社に対し、日本はわずか8社にとどまっているのが実情です。
同協会は、日本でユニコーンが生まれない原因は、グローバルレベルでスタンダード化されたエコシステムが整備されていない点を挙げています。特に、あらゆるユニークさを賞賛する日本社会の価値観がエコシステム自体をガラパゴス化させ、スタートアップの成長を阻害する一因になっていると分析しています。加えて、創業初期から成熟後期に至るまでの10年以上にわたり、スタートアップに長期伴走できる国内ベンチャーキャピタルが不在である点にも言及しました。
さらに、国内ベンチャーキャピタルが、国内外のアセットオーナーから投資対象先として十分に認められていないという課題があると指摘しています。背景には、日本のベンチャーキャピタルの多くが、投資契約や公正価値評価、ファンド運営の規律といった実務において、グローバルスタンダードに準拠していないという現状があると分析しています。
本提言では、国内のベンチャー・エコシステムを高度化するためには、規制緩和ではなく、正しい規律を伴う実務の高度化が不可欠であるとして、「規制緩和フェーズ」から「市場規律の確立フェーズ」への転換を強く求めています。具体的には、独自性や創造性などを発揮する「競争領域」とグローバルスタンダードに準拠した規律の下で標準化される「協調領域」を明確に区別した上で、制度と市場環境を整備しなければならないとしています。
改訂版で新設された「制度設計の視点」(第1章)ではこのほか、スタートアップやベンチャーキャピタルの質を評価する際に重視すべき観点が提示されています。また、スタートアップの不正会計を防止し、市場の信認を確保するための規律徹底と制度的対応などについても提言を行っています。
なお、同協会は、全6編・約120分のオーディオ解説コンテンツも併せて公開しています。