日本の防災を好事例と評価、報告書「Tracking Progress in the Governance of Critical Risks」を公表 OECD
経済協力開発機構(OECD)は2026年9月4日、大規模災害やパンデミックなどの「重大なリスク」に対する国家のガバナンスについて進捗状況を評価した報告書「Tracking Progress in the Governance of Critical Risks」を公表しました。報告書では、2014年に採択されたOECD理事会勧告の実施状況を分析し、各国の危機管理体制の底上げに向けた好事例や課題が示されています(評価対象期間は2017~2023年)。日本については、社会全体でリスクを分担する「全社会型アプローチ」の先進事例として評価される一方、突出した災害損失リスクを抱える国として、未知の複合リスクに対する予測モデリングや巨大災害に伴う財政リスクへの備えといった、OECD加盟国に共通する制度的課題への対応も求められています。
OECDは2014年の理事会勧告において、国家的な危機管理で各国が取り組むべき5つの原則を提示しています。具体的には、①災害の種類を問わず一元管理する「オールハザード・アプローチ」による総合的枠組みの確立②国家リスク評価や将来予測能力の強化③リスクコミュニケーションと事業継続計画(BCP)などの投資推進④想定外の危機にも対応できる「適応的な危機管理能力(コア能力)」の構築⑤意思決定の透明性確保と過去の災害からの継続的学習――の5項目です。
調査に応じた27カ国中23カ国(約85%)が第1の原則である「オールハザード・アプローチ」を国家戦略に組み込んで管理を行っていました。また、27カ国中21カ国(約78%)は第2の原則である「国家リスク評価」を実施しています。
日本については、原則を横断する重要テーマである、企業や市民が一体となって危機に対応する「全社会型アプローチ(Whole-of-society approach)」の面で優れていると評価されました。
民間の備え(第3の原則)に関しては、内閣府が「事業継続ガイドライン」を策定、改訂して企業の危機管理を後押ししており、2019年の実態調査ではBCPを策定済みの企業割合が大企業で68%(前年比4ポイント増)、中堅企業で34%(同3ポイント増)と増加傾向にあることが示されました。策定中の企業も含めると、大企業の約83%、中堅企業の53%が取り組みを進めています。さらに、BCPに積極的に取り組む企業を「国土強靱化貢献団体」として認証し、融資の金利優遇などを提供するインセンティブ制度も紹介されました。
リスクコミュニケーションや市民の責任共有の分野(第3の原則)でも、内閣府の世論調査を引用し、災害時に「自助」を最重視すると答えた住民が2002年の18.6%から2017年には39.8%へと倍増したデータを提示。リスクに対する市民側の責任共有が進んでいる好事例として評価されています。
このほか、自治体のニーズと民間技術をマッチングさせる「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」の設立や、日本の防災技術を海外展開するコンソーシアム(JIPAD)の活動、学校での全校的な避難訓練なども先進事例として挙げられています。
一方で、日本も多くのOECD加盟国と同様、まだ経験のないサイバーリスクや複数の危機が連鎖する事態への予測・研究(モデリング)について十分な投資や対応が追いついていないという共通の課題を抱えています。従来型の減災対策に加え、未知の複合リスクを先見的に予測・分析する取り組みへの投資拡大は、今や世界共通のテーマとなっています。
また、巨大災害が発生した際の財政リスクと透明性の問題も指摘されています。日本は年間の平均災害損失推計額が約615億ドル(約9兆円超)と調査対象国の中で最も高く、災害発生時に政府が負う財政負担(偶発債務)の客観的評価や情報公開、費用対効果分析のさらなる活用が強く求められています。