複合災害とは?二次災害との違い・東日本大震災などの事例と企業の備え
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
複合災害とは、地震や豪雨、感染症など複数の災害が同時または時間差で発生する事象を指します。東日本大震災や令和6年能登半島地震などを契機に、そのリスクは広く認識されるようになりました。本記事では、複合災害の定義や二次災害との違い、主な事例、企業への影響と備えについてわかりやすく解説します。
目次
1.複合災害とは?
「災害」とは、自然現象や人為的な原因により、人命や社会経済活動に重大な被害が生じる現象のことを指しますが、近年では、複数の性質の異なる災害事象が密接に関わり合うことで発生する「複合災害」への備えが重要視されています。
国土交通省は、この複合災害について、南海トラフ巨大地震発生の切迫性と、気候変動による水害や土砂災害の発生頻度が高まっている現状を踏まえると、発生頻度が高まることが想定されるとして対策の検討を行っています(※1)。
複合災害とは、「同時又は連続して2以上の災害が発生し、それらの影響が複合化することにより、被害が深刻化し、災害応急対応が困難になる事象」であると、内閣府の防災業務計画において定義されています。
異なる災害が同時に発生するケースのほか、先発の自然災害の影響が残っている状態で後発の自然災害が発生するケースもあるため、単発の災害時に比べて被害が著しく拡大し、人員や資機材などが分散することで、災害対応の困難性が増すのが特徴です。
複合災害の発生パターンは「同時発生型」と「時間差発生型」の2つに大別されます(※2)。前者の例としては、大雨や豪雨といった水害と地震が同時に発生するケースなどが考えられます。一方、後者の例では、感染症がまん延し対応に追われている中で、大規模地震や津波が発生するといったケースが想定されます。
図:複合災害の代表的な発生パターン
埼玉県の「地域防災計画」では、複合する可能性のある災害の種類について、以下の事象が想定されています。
- 地震災害
- 風水害(風害、水害、土砂災害、雪害)
- 大規模事故災害(大規模火災、林野火災、危険物等災害、航空機災害、鉄道事故、道路災害、放射性物質事故)など
※引用:埼玉県「埼玉県地域防災計画」
また、具体的な複合災害による被災シナリオについては、国土交通省が資料の中で示しています(※3)。
- 地震に伴う河道閉塞→洪水の発生による土砂災害
- 火山噴火に伴う降灰の堆積→比較的規模の小さい降雨による土石流や氾濫
- 地震に伴うゼロメートル地帯における堤防の沈下・損傷や排水機場・ダムの機能不全→洪水による水位・潮位の上昇による被害 など
複合災害は、災害事象の組み合わせが多岐にわたります。さらに、先発の災害の影響により、単発の災害と比べ小さな外力であっても、新たな被害の発生や被害範囲の拡大を招くおそれがあるとしています(※4)。
国土交通省は、単発災害による被害防止のためのハード対策(堤防・砂防堰堤の整備、耐震化など)や、ソフト対策(浸水想定区域・土砂災害警戒区域の公表)に加え、先発災害が発生した際の状況変化に応じ、速やかに応急対応が実施できるよう、事前に体制を確立しておくことが重要としています(※5)。
近年、激甚化する自然災害リスクや感染症によるパンデミック、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の被害想定など、社会が抱えるリスクは多様化しています。こうした中、内閣府などの防災関係機関は複合災害を現実的な脅威として認知し、備えを充実させるための検討を進めています。
(※1)(※2)内閣官房「第1次国土強靱化実施中期計画について」
(※3)(※4)(※5)国土交通省 能登半島での地震・大雨を踏まえた水害・土砂災害対策検討会「『能登半島での地震・大雨を踏まえた水害・土砂災害対策のあり方について』提言」
複合災害と二次災害の違い
複合災害と混同されがちな用語として「二次災害」があります。気象庁は、二次災害について「大規模な災害の後に、ある時間間隔をおいて副次的に発生する災害」と定義しています(※6)。
どちらも複数の災害が発生するという点は共通していますが、発生のメカニズムが異なります。二次災害は、一次災害(主災害)を原因として連鎖的に発生するもので、一次災害と二次災害の間には明確な因果関係があります。例えば、地震の後に発生する津波や火災、豪雨に伴って起きる土砂災害などが挙げられます。
対して、複合災害は、独立した別の発生原因を持つ複数の災害が同時期または時間差で発生する事象のことで、地震と豪雨の同時発生などがあります。地震により堤防や建物が損傷し、地域の防御力が低下した場合、通常の豪雨では想定していない甚大な被害を引き起こすリスクが高まります。
(※6)気象庁「気象災害に関する用語」
2.複合災害の主な事例
近年の主要な複合災害の事例としては、東日本大震災での津波や原子力災害、令和6年能登半島地震より時間差で発生した豪雨災害のほか、コロナ禍における水害などがあります。いずれも複数の災害が同時または時間差で発生し、被害が広域に及んだこともあって災害対応が長期化しました。
東日本大震災(地震・津波・原子力災害)
2011年3月11日に発生した東日本大震災はマグニチュード9.0の大きな揺れに加え、津波が広範囲に襲来し、死者・行方不明者が2万人を超える未曽有の大災害となりました。さらに、福島第一原子力発電所の事故も重なり、近隣住民は広域避難を余儀なくされました。2026年時点でも避難生活を続ける人が残るなど、対応は長期化しています。
これは、「地震と津波」、「津波と原子力災害(爆発など)」が同時期または連続して発生した複合災害の典型例です。東日本大震災での被害と教訓を受け、防災に関わる様々な機関が災害対応に対する提言などを発表しています。
令和6年能登半島地震と豪雨
複数の災害が「時間差」で発生した複合災害として記憶に新しいのが、2024年1月1日に起きた令和6年能登半島地震とその後の豪雨災害です。1月の地震ではマグニチュード7.6の揺れで10万戸以上の住宅が被害を受けました。
その後、復旧作業が進められていましたが、同年9月20日から23日にかけて被災地を観測史上最大の豪雨が襲います。地震で崩壊した山腹に記録的な豪雨が降り注いだことで大規模な土砂災害が発生し、建設されたばかりの仮設住宅を含む多くの家屋が被害を受けました。
コロナ禍における水害・避難所運営
2020年に始まったコロナ禍は、感染症流行下における災害対応の難しさを浮き彫りにしました。同年に発生した、令和2年7月豪雨や令和2年台風第10号は、「感染症のまん延」と「豪雨」・「台風」が同時期に重なった複合災害の事例です。
この豪雨や台風により多数の住民が避難する事態となりました。避難所内の職員・避難者には新型コロナウイルスの感染者が確認され、クラスター発生が強く懸念されるリスクに直面しました。避難所では感染拡大を防ぐため、徹底した感染防止対策とこれまで以上の配慮が求められることになりました。
3.複合災害が企業に与えるリスクと備え
複合災害は企業活動にも影響を及ぼしかねません。想定されるリスクとしては、事業所の直接被災のほか、パートナー企業の被災に伴うサプライチェーン寸断などがあります。また、首都直下地震や南海トラフ巨大地震、富士山噴火の被害想定では被害が広域にわたる可能性も指摘されており、支社など複数拠点での同時被災や、復旧の長期化による経済損失も懸念されます。
こうした事態に備えて、企業にはBCP策定をはじめとした事前防災対策が求められます。既にBCPを策定している企業であっても、継続的な見直し・改善を繰り返す「BCM(事業継続マネジメント)」の取り組みが必要です。その際、複合災害のリスクも含めて検討することで、今後の対策強化につながります。
4.まとめ
複合災害は発生原因の異なる複数の災害が同時、または時間差で発生するものであり、自然災害が頻発する昨今、現実味のある脅威として認識されています。今後、地震や水害、感染症などの対策を講じる際には、単発の災害への備えだけでなく、それらが複合的に発生した場合の被害拡大を考慮することが不可欠です。
同時に、大規模な複合災害に対しては企業単独での対応には限界があるため、平時から地域社会や他企業と連携し、相互支援の体制を構築しておくことも重要です。過去の災害の教訓が示すように、「想定外の事態は常に起こり得る」という前提に立ち、どのような危機に直面しても柔軟に判断・対応できる組織づくりを目指すことが、真の事業継続力につながります。