噴火警報は、火山噴火によって人命に危険を及ぼす火山現象の発生が予想される場合に発表される防災情報です。居住地域に重大な影響が及ぶと予想される場合には、気象業務法上の特別警報に位置づけられます。本記事では、噴火警戒レベルとの関係や予報・速報との違いを踏まえ、企業に求められる対応ポイントを解説します。
1.噴火警報とは
噴火警報とは、生命に危険を及ぼす火山現象の発生や、その危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」を明示した上で、気象庁が発表する防災情報です。
気象庁は、全国111の活火山を対象に、観測・監視を行い、その成果を用いて火山活動の評価を行っています。「噴火警報・予報」はそれらの結果に基づき発表される情報で、「噴火警戒レベル」が運用されている火山については、噴火警戒レベルを付して発表されます。
図1:噴火警報の定義と対象となる火山現象
噴火警報は、「警戒が必要な範囲」がどこまで及ぶかによって種類が分かれます。
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- 「噴火警報(居住地域)」または「噴火警報」
- 警戒が必要な範囲が居住地域まで及ぶ場合に発表されます。この居住地域を対象とした噴火警報は、重大な災害の危険性が高まっていることを示す「特別警報」に位置づけられています。また、「噴火警報」という名称で発表されることもあります。
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- 「噴火警報(火口付近)」または「火口周辺警報」
- 警戒が必要な範囲が火口付近に限られる場合に発表されます。「火口周辺警報」という名称で発表されることもあります。
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- 「噴火警報(周辺海域)」
- 警戒が必要な範囲が周辺海域に及ぶ海底火山を対象として発表されます。
発表の基準となる火山現象には、主に「大きな噴石」、「火砕流」、「融雪型火山泥流」があります。これらは発生から到達までの時間が極めて短く、避難までの時間的猶予がほとんどないため、生命に危険を及ぼす可能性が非常に高い現象となっています。気象庁は、地震計や監視カメラなどを用いた観測・監視により火山活動の評価を行い、居住地域や火口周辺に危険を及ぼすような事態が予想された時点で、速やかに警報を発表します。
企業は、自社の事業所が火山の近くにある場合、発表された噴火警報が「火口周辺」に限られるものなのか、特別警報にあたる「居住地域」まで及ぶのかを正しく理解し、それに応じた従業員の避難行動や業務停止の基準などを事前に事業継続計画(BCP)に定めておくことが重要です。
噴火予報と噴火速報との違い
噴火に関する防災情報には、噴火警報のほかにも「噴火予報」、「噴火速報」などがあります。それぞれの違いを正しく把握しておくことが、企業の適切な初動対応につながります。
以下の表1は、「噴火警報」と「噴火予報」、「噴火速報」のそれぞれの目的や発表条件、警戒対象の違いを比較して示したものです。
【表1】噴火警報・噴火予報・噴火速報の違い
| 噴火警報 | 噴火予報 | 噴火速報 | |
|---|---|---|---|
| 目的 |
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登山者や周辺の住民に対して噴火の発生を知らせ、身を守る行動を促す |
| 発表条件 |
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| 警戒対象と噴火警戒レベルの有無 | 常時観測火山のうち49火山(2024年3月現在)を対象に、「噴火警戒レベル」を付して発表 | 常時観測火山のうち49火山(2024年3月現在)を対象に、「噴火警戒レベル」を付して発表 | ― |
気象庁「噴火警報・予報の説明」、「噴火速報の説明」を基にニュートン・コンサルティングが作成
「噴火予報」は、火山活動の状況が静穏である、または噴火警報には及ばない程度と予想される場合や、噴火警報が解除された際にも発表されます。つまり、火山活動の兆候の有無に関わらず、活火山であることに留意した上で、平常状態あるいは比較的穏やかな状態であることを知らせる情報です。
一方、「噴火速報」は、登山者や周辺の住民に対して噴火の発生を知らせ、身を守る行動を促す防災情報です。「噴火が発生した直後」という非常に切迫した状況において、速やかな情報伝達を目的としているため、「火山名」と「噴火した時間」のみに限定した情報が発表されます。
これら3つの防災情報のうち、企業として最も優先して対応すべきは「噴火速報」です。噴火速報が発表された場合は、すでに噴火が発生していることを示すため、周辺に事業所がある、または従業員が近くにいる場合には、直ちに身の安全を確保する行動を指示しなければなりません。「噴火予報」に関しては、日常的に火山の平常時の状態の把握に努め、「噴火警報」が発表された段階でBCPに基づいた警戒体制を敷く必要があります。
2.噴火警報と噴火警戒レベルの関係とは
噴火警報は「警戒が必要な範囲」を明示し、警戒を促す防災情報ですが、「噴火警戒レベル」はその範囲に加えて、「とるべき防災対応」を5段階に区分して発表する指標のことです。火山活動の状況に応じて、自治体や住民、企業がとるべき防災対応をレベル1~5に区分しています。噴火警戒レベルは、同レベルが運用されている火山を対象に、噴火警報に付して発表されます。現在、24時間体制で監視・観測が行われる常時観測火山のうち、49火山(2024年3月時点)で導入されています。
以下の図2では、火山現象(火山活動の状況)に応じて、噴火警報・予報と「警戒が必要な範囲」に沿った噴火警戒レベルが発表される流れを示したものです。
図2:火山噴火に伴う噴火警報・予報・噴火警戒レベルの発表例
レベル1は「噴火予報」、レベル2~3は「噴火警報(火口周辺)または 火口周辺警報」、レベル4~5は「噴火警報(居住地域)または 噴火警報」に付され、発表されます。
レベル4~5に関しては、重大な災害発生のおそれが著しく高まっていることを示す「特別警報」に位置づけられています。最大級の警戒を呼び掛けるものとなっているため、警戒が必要な範囲(地域)からの避難や避難の準備が求められます。
気象庁では、噴火警戒レベルに応じた、火山活動の状況や住民の行動、登山者・入山者への対応を、次のように示しています。
- レベル1(活火山であることに留意)
火山活動は静穏。通常の生活が送れる - レベル2(火口周辺規制)
火口周辺に影響を及ぼす火山現象。火口周辺の立ち入り規制を実施 - レベル3(入山規制)
居住地域の近くまで影響を及ぼす火山現象。登山禁止・入山規制を実施 - レベル4(高齢者等避難)
居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が予想される。高齢者等の避難、住民の避難の準備が必要 - レベル5(避難)
大きな噴石、火砕流などが居住地域まで到達するような噴火が切迫または発生している状況。危険な居住地域からの避難指示が発令
レベル1は、通常の生活が送れる状況を示します。火山現象は火口内に留まり、静穏な状態とされています。レベル2は火口周辺の立ち入り規制、レベル3は登山規制や入山規制などが実施され、居住地域の近くまで重大な影響を及ぼす状況を示します。
レベル4は、居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生すると予想される段階です。高齢者などの要配慮者の避難や住民の避難の準備が必要とされています。最も危険度の高いレベル5は、居住地域に甚大な被害を及ぼす噴火が発生、または切迫している状態を示し、即時の避難が必要です。
気象庁は、噴火警報や噴火警戒レベルに加え、火山活動の詳細を補足する「火山の状況に関する解説情報(臨時)」と「火山の状況に関する解説情報」を発表する場合があります。「火山の状況に関する解説情報(臨時)」は、噴火警戒レベルの引き上げ基準には現状達していないものの、今後の推移によっては引き上げの可能性があると判断した場合、または判断に迷う場合に発表されます。対して、「火山の状況に関する解説情報」は、レベル引き上げの可能性は低くても、活動に変化がみられるなど、火山活動の状況を伝える必要があると判断した場合に発表されます。
火山災害は、発生から避難までの時間的猶予がほとんどありません。企業としては、平常時より自社の拠点がどの警戒範囲に含まれるかを確認しておくことが不可欠です。内閣府の資料では、火山防災は事前の避難が基本であるとしています(※1)。従業員の安全を最優先し、噴火警戒レベル別の対応基準の設定や避難誘導体制を確立しておくことが推奨されます。
(※1)内閣府「集客施設等における噴火時等の避難確保計画作成の手引き(第4版)」
3.富士山噴火に備える企業のリスク対策とは
富士山は、日本を象徴する山であると同時に、世界でも稀に見る「首都圏に近接した巨大活火山」です。1707年の宝永噴火以来、300年以上にわたって沈黙を保っていますが、将来的な噴火の可能性が指摘されています。
企業がこのリスクに対応するには、火山特有の被害(降灰や泥流)を考慮した従来の地震対策とは異なるアプローチが不可欠です。富士山噴火が企業に与えるリスクとして特に警戒すべきなのが、広範囲かつ長期間にわたって社会機能を麻痺させる「火山灰(降灰)」です。降灰が深刻化するにつれ、交通網の機能不全によるサプライチェーンの寸断や従業員の通勤困難を招くなど、社会経済活動に甚大な影響を及ぼします。
以下の図は、「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」で示されている、富士山噴火を想定した降灰の分布シミュレーションです。
この降灰の分布シミュレーション(宝永噴火と同規模、西南西風卓越ケース)によると、噴火が15日間継続した場合、首都圏の大部分で3cm以上の降灰が発生し、鉄道、道路、建物用地、農地などの一定の土地利用がされている地域(範囲)に約4.9億㎥の火山灰が堆積すると想定されています。これは東日本大震災の災害廃棄物量の約10倍に相当する量で、未曾有の広域災害の発生が懸念されています。
火山灰が広域に降り積もることで、企業活動には多岐にわたる深刻な被害が想定されます。微小な火山灰が電子機器や空調設備に侵入することによる通信・システム障害、送電線への付着やショートに伴う大規模な停電など、事業継続の基盤が根底から脅かされる事態となります。さらに、火山灰の吸引による健康被害も懸念されます。
このような事態に備え、東京都は「大規模噴火降灰対応指針」を取りまとめ、大規模噴火が発生した際の対応指針のポイントを3つ示しています。
- ハード・ソフト両面からの降灰対策の具体化
- 自助・共助の取り組みの推進
- 広域的な視点での中長期的な取り組みと国への要望
ハード面としては、資機材などの確保や優先除灰道路の指定、火山灰の処分先の選定などを進める一方、ソフト面として、情報システムによる降灰状況の一元的かつ迅速な把握体制や道路啓開体制の構築、ライフライン事業者による予防・応急復旧策の強化を図ります。また、行政の対応には限界があるため、自助として都民に降灰に備えた備蓄や車両の使用自粛などを促し、共助として企業に降灰対策の検討やテレワークの活用を推進します。
さらに、降灰被害は広範囲に及ぶことから、中長期的な取り組みとして他自治体と連携した広域的な相互連携体制の構築や迅速な物資輸送体制の構築を進めるとともに、国に対しては降灰の注意報・警報の導入や、海上投棄への柔軟な対応を含む火山灰の除去・処分指針の提示、多額となる処分費用の負担軽減策の設定などを要望しています。
企業の防災対策においては、「富士山ハザードマップ」(※2)の活用が有効です。同マップでは、大規模、中規模、小規模といった噴火の規模ごとに想定した火口範囲のほか、溶岩流、火砕流、融雪型火山泥流、大きな噴石、降灰・降灰後土石流について、影響の及ぶ範囲を想定し、地図上に示しています。企業はこのハザードマップを活用し、自社拠点が受ける影響をリスクアセスメントとして体系的に評価することが重要です。
企業が実効性のある「火山災害BCP」を構築するためには、これらのガイドラインやハザードマップなどと連動したリスク評価を行い、「降灰対応」を前提とした準備が不可欠です。
首都圏が広域降灰に見舞われた場合に備え、影響を受けにくい遠隔地へのバックアップ拠点の確保や、データのクラウド化、遠隔地保管を検討します。また、通常の防災備蓄に加え、火山灰の吸入や目への侵入を防ぐための防塵マスク・ゴーグルの備蓄、IT機器を守るための防塵フィルターや養生シートを準備します。加えて、出社が不可能な状況を想定したテレワーク体制の整備や、物流が停止した場合のサプライチェーン代替策を検討するなど、実践的な訓練を通じて想定外の事態にも対処できる実効性の高い事業継続体制を構築することが企業に求められています。
(※2)富士山火山防災協議会及び富士山ハザードマップ検討委員会(事務局:内閣府・総務省消防庁・国土交通省)が策定