ISSA5000とは?適用時期・要求事項・関連制度との違いと企業が確認すべきこと
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
サステナビリティ情報の開示拡大に伴い、その信頼性を担保するための保証業務への関心が高まっています。こうした中で策定されたのが、サステナビリティ保証に関する国際基準「ISSA5000」です。今後は企業の開示や第三者保証にも影響を与える可能性があるため、その内容を理解しておくことが重要です。本記事では、ISSA5000の概要や適用時期、要求事項、関連制度との違い、企業が確認すべきポイントを解説します。
1. ISSA5000とは?概要と策定背景
ISSA5000(International Standard on Sustainability Assurance 5000:サステナビリティ保証業務の一般的要求事項)とは、企業が開示する様々なサステナビリティ情報の信頼性を担保するため、保証実施者(監査人など)が満たすべき実務プロセスや一般的要求事項を定めた第三者保証の国際基準です。
ISSA5000は、これまでISAE3000やISAE3410といった国際的な保証基準を設定してきた国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって策定されました。本基準は、企業の報告が事実に基づき誤解を招くものではないことを保証することで、近年問題視されている「グリーンウォッシュ(環境配慮を装い消費者を欺く行為)」などの不正行為を防止するための有効な手段として期待されています。
ISSA5000が策定された背景には、企業によるESG(環境・社会・ガバナンス)などのサステナビリティ情報開示が世界的に進んでいることがあります。様々な情報が開示されるようになった一方、投資家などのステークホルダーからは、開示された情報の信頼性の保証を求める声が高まっていました。このため、サステナビリティ情報に対する保証業務のグローバル基準として、ISSA5000が策定されました。
ISSA5000は、従来のISAE3000や温室効果ガス(GHG)排出量に特化したISAE3410の枠組みを統合し、GHG排出量を含むサステナビリティ情報に関する全ての保証業務に適用できる独立した基準(他の基準などの参照は不要)となっています。また、ISSA5000は、監査法人や会計士に限らず、全ての保証業務実施者が使用可能な基準です。ただしその適用にあたっては、一定の専門的能力を備え、基準が要求する品質管理体制や職業倫理(独立性を含む)の要件を満たすことが前提となります。
いつから適用されるのか
ISSA5000は、2024年11月に最終版が公表され、適用開始日として2026年12月15日が設定されています(早期適用も可能)。この公表を受け、各国ではISSA5000を踏まえた制度整備が進められています。日本国内においては、日本公認会計士協会(監査・保証基準委員会)が、ISSA5000を踏まえて策定したサステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」を2026年3月に公表しました。
日本ではサステナビリティ開示・保証制度の導入として、2027年3月期よりサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の適用が開始され、時価総額の大きな企業から順次、SSBJ基準に準拠した有価証券報告書の作成が義務付けられます。
- SSBJ基準の適用開始時期:
- ①時価総額 3兆円以上の企業:2027年3月期
②時価総額 3兆円未満1兆円以上の企業:2028年3月期
③時価総額 1兆円未満5千億円以上の企業:2029年3月期(引き続き検討)
※時価総額の算定方法については、2026年3月31日を基準とした「5事業年度末」の平均時価総額を参考に検討される。
出典:金融庁「サステナビリティ開示基準の適用及び保証制度の導入に向けたロードマップ」
2027年4月1日からは、時価総額3兆円以上の企業を対象に、日本公認会計士協会が策定した実務指針5000に基づく保証業務の適用が予定されています。これはISSA5000を踏まえた国内実務指針に基づく制度であり、早期適用も可能となっています。
IAASBは、ISSA5000導入の準備期間として一定の猶予を設けつつも、早期適用を奨励しています。早期適用の実施が奨励される理由としては、サステナビリティ情報に関する報告や保証を法令などで義務づける国や地域が増加しており、国際的なベースラインとなる保証基準の必要性が切迫していることがあります。
2. ISSA5000における要求事項
前述の通り、ISSA5000はサステナビリティ情報に対する第三者保証の包括的な国際基準です。ISSA5000での主な要求事項は以下の通りです。
- 保証実施者に求められる対応の前提:保証実施者には、業務の全過程を通じて、職業的専門家としての判断を行い、情報の誤りや不正を見逃さないよう懐疑心を保持し続けることが求められます。
- 合理的保証と限定的保証:ISSA5000は「合理的保証」および「限定的保証」の2種類の保証水準を規定しています。合理的保証は限定的保証より水準が高く、財務諸表監査と同様に高いレベルの保証を提供する枠組みです。データが作られる「仕組み(内部統制)」が正しいかをチェックするなどの手続きが含まれます。他方、限定的保証は手続きの範囲が限られ、保証水準は合理的保証より低くなります。企業は状況に応じて合理的保証もしくは限定的保証を選択します。
- 重要性の判断:企業が開示するサステナビリティ情報に虚偽表示があった場合、「その虚偽表示が、投資家などの意思決定に影響を与えるほど重要かどうか」を判断することです。保証実施者は、定量的な情報について数値的な重要性を決定するだけでなく、定性的な記述情報の重要性も考慮して、手続きの計画や結果の評価を行います。
- リスク評価:企業が開示するサステナビリティ情報に虚偽表示が潜んでいるリスクを識別し、判定するプロセスです。ISSA5000では「リスク評価手続き」と呼ばれています。保証水準によって評価の深さに違いがあり、限定的保証では、開示情報について重要な虚偽表示が生じる可能性が高い事項を中心にリスクを評価し、その範囲で保証手続きを実施します。一方、合理的保証ではより細密な「アサーション(監査要点)・レベル」での評価が求められます。
- 証拠収集と報告:保証実施者は、評価したリスクに対応するため、質問、観察、分析的手続き、詳細テストといった追加の手続きを立案・実施し、結論の基礎となる十分かつ適切な「証拠」を収集します。最終的に、入手した証拠を総合的に評価し、サステナビリティ情報が適用される規準(報告フレームワークなど)に従って適正に作成されているかについての結論を形成し、書面による「保証報告書」として対象企業やステークホルダーに報告します。
3. ISSA5000と関連基準・制度との関係や違い
サステナビリティ報告を巡る関連基準や制度には、欧州のCSRD、ISSBによるIFRSサステナビリティ開示基準、国内のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)のほか、ISAE3000のような保証基準など様々なものがあります。ISSA5000と各規準・制度の違いは下表の通りです。
【表1】ISSA5000と関連基準・制度の比較
| ISSA5000 | ISAE3000 | CSRD | IFRSサステナビリティ開示基準 | SSBJ基準 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 分類 | 保証基準(国際) | 保証基準(国際) | 法規制(欧州) | 開示基準(国際) | 開示基準(日本国内) |
| 位置付け | サステナビリティ情報の保証に特化した、包括的な国際保証基準 | 過去財務情報の監査・レビュー以外の保証業務に適用される国際保証業務基準 | EU(欧州連合)における企業サステナビリティ報告指令 | グローバル投資家に向けたサステナビリティ開示基準 | ISSB基準をベースに作られた、日本国内のサステナビリティ開示基準 |
| 策定主体 | 国際監査・保証基準審議会(IAASB) | 国際監査・保証基準審議会(IAASB) | 欧州連合(EU) | 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB) | サステナビリティ基準委員会(SSBJ) |
| 主な役割 | サステナビリティ開示情報の信頼性を、財務監査並みに高める | 財務諸表監査以外の幅広い情報(非財務情報など)の信頼性について保証する | EU域内(および関連する域外)企業のサステナビリティ情報の透明性を高め、グリーン投資を促進する | 投資家が企業の気候変動リスクやサステナビリティ関連リスクを世界共通の基準で比較できるようにする | 日本の上場企業などが、国際的に通用する水準でサステナビリティ開示を行えるようにする |
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表1の「分類」で示した通り、これらの基準・制度は「開示基準」と「保証基準」とに大きく分けられます。企業はIFRSサステナビリティ開示基準やSSBJ基準といった基準に従って開示情報を作成・公表します。その開示情報に問題がないかを、監査人などの保証実施者がISSA5000やISAE3000といった保証基準に基づいて、評価および保証業務(第三者保証)を実施します。
CSRDはEUの法規制であり、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に基づく開示と保証要求を含む制度的枠組みです。一方、ISSA5000はサステナビリティ情報の保証業務に関する国際的な基準であり、ESRSに基づいて作成された開示情報に対する保証業務において参照される枠組みとして位置付けられます。
なお、これまでサステナビリティ情報の保証業務には、汎用的なISAE3000が使用されてきました。しかし、よりサステナビリティの実務に即した包括的な基準としてISSA5000が誕生したため、同基準を適用すればISAE3000を追加で参照する必要はありません。今後はこのISSA5000が世界的な保証基準の主流となることが見込まれます。
4. 日本企業がISSA5000に備えて確認すべきこと
日本国内においては、ISSA5000を踏まえた実務指針5000に基づく保証業務の適用が、2027年4月から予定されています。大企業から順次、サステナビリティ情報の第三者保証が義務化されます。情報収集プロセスの高度化や監査対応などの実務負担が生じるため、適用開始に向けた早期の準備が必要です。具体的には、以下の3点を確認しておくことが望ましいといえます。
- 保証の対象範囲の確認:GHG排出量や気候関連など特定の情報のみを保証の対象とするのか、あるいはサステナビリティ開示全般を対象とするのかなど、自社に求められる保証の範囲を法令やステークホルダーのニーズに基づいて確認します。
- 第三者保証に応じた社内体制の構築:自社内での虚偽表示を防ぐ内部統制システムの整備・運用が必要です。また、保証実施者への全情報の提供や、保証業務で用いる情報へのアクセスを確保する協力体制が求められます。
- 国内外の制度動向の把握:ISSA5000のみならず、欧州ではCSRDによる開示・保証の義務化、国内でもSSBJのサステナビリティ開示基準の適用時期が迫るなど、サステナビリティ情報に関する様々な動きが出ています。特にグローバル企業や大企業は最新の制度動向を確認しておくことが必要です。
サステナビリティ情報の開示と第三者保証への対応は、単なる義務化への対応にとどまらず、市場からの信頼獲得と企業価値の向上に直結します。国内外の動向を注視し、段階的かつ早期に体制整備に着手することが重要です。