Global Risks Report 2026(グローバルリスクレポート2026)を15分で読み解く
The Global Risks Report 2026は、世界経済フォーラム(WEF)により2026年1月に公表されました。本レポートは、世界各国の専門家や実務家を対象とした調査結果をもとに、超短期(2026年)・今後2年・10年の時間軸で顕在化しうるグローバルリスクを特定・分析することを目的として作成されています。地政学、経済、社会、環境、テクノロジー(技術)といった複数の観点から、リスクの相互関係性や構造的変化についても示唆が与えられています。
本記事では、このGlobal Risks Report 2026の内容をそのままなぞるのではなく、レポートの重要部分を要約しつつ日本企業の経営・リスクマネジメントの実務にとって特に示唆の大きいポイントにフォーカスし、約15分で全体像と要点を把握できるよう整理・解説します。
主としてこの記事をお読みいただくことで、以下の点を理解することができます。
・Global Risks Report 2026が示す「トップ10リスク」の全体像
・前年レポートとの比較から見えるリスク認識の変化とその意味
・日本企業の視点で見た場合に、特に注視すべきトップ5リスク
・こうした変化を踏まえ、企業として検討すべき具体的なアクション
Global Risks Report 2026における「主な発見」
Global Risks Reportの最大の特徴は、世界各国の識者の知見をもとに、超短期・向こう2年間の短期・長期という時間軸で主要なグローバルリスクを整理し、可視化して提示している点にあります(図1参照)。図中の色分けはリスクの種類を示しています。この図を見ると、短期では多様なリスクが幅広く認識されている一方で、時間軸が長くなるにつれて、環境リスクや技術リスクに分類される項目が上位を占める構造になっていることが確認できます。
また、一般にリスクは「影響度」と「発生可能性」の掛け合わせによって評価されますが、本レポートでは主に影響度(レポート内では「深刻度」)を順位づけの基準としています。これは、単に「起きるかどうか(確率)」を問うのではなく、ひとたび顕在化した場合に「どれほど大きなダメージを世界にもたらし得るか(深刻度)」に着目することで、意思決定者が検討すべき優先順位を示そうとしているためです。
表1 時間軸ごとのグローバルリスク(深刻度)トップ10
long term (10 years)」
※2025年のレポートでは「サイバー諜報活動およびサイバー戦争」という記載でしたが、2026レポートではそれを包括するより広い意味での「サイバー不安全リスク」に抽象化されています。
属性別にまとめられた表(レポートのFigure14および19)のうち、民間企業に対象を絞ると、グローバル全体とはやや異なる傾向が確認できます(図2参照)。短期(~2年)では、経済動向に加え、オンライン被害リスクなど、事業継続やブランド価値に直接影響を及ぼし得るリスクが上位に位置しています。一方、長期(~10年)については、順位に一定の違いはあるものの、ランクインしているリスクの内容自体はグローバルリスクと概ね共通しています。長期リスクは、社会全体にとっての課題であると同時に、企業にとっても中長期的に向き合うべき共通のテーマであることが示唆されます。
表2 時間軸ごとの民間企業におけるグローバルリスク(深刻度)トップ10
Figure 19「Global risks, long term (10 years), by stakeholder group」を基に作成
※2025年のレポートでは「サイバー諜報活動およびサイバー戦争」という記載でしたが、2026レポートではそれを包括するより広い意味での「サイバー不安全リスク」に抽象化されています。
2026年のレポートが示すグローバルリスク(図1を参照)を前年のレポートと比較しながら俯瞰してみます(図3を参照)と、現状は、相互関連性を持つリスクの震源地が、AIを中心としたテクノロジーと、国家間の地政学的・経済的対立であることがわかります。
テクノロジー分野では、制度整備の遅れと技術進化の加速がリスクを増幅させている印象です。特にAIが、誤情報や偽情報の拡散に加担し、サイバーセキュリティが不安定化。さらに選挙への介入を通じた社会的分断を引き起こし、個人の権利が制限されるといった人権・市民的自由の侵食へと連鎖する構図が浮かび上がります。
一方、地政学・地経学の領域では、国家間の衝突の手段が変化してきたことが見て取れます。その証拠に「武力衝突リスク」は前年よりランクダウンしたものの、地経学的対立リスクが8ランクアップと急上昇しています。経済制裁や輸出管理などの「経済的手段」が、戦略的ツールとして活用される傾向が顕著になってきていると言えるでしょう。単なる貿易摩擦にとどまらず、通貨政策、補助金、投資制限、サプライチェーンの“武器化”などが現実化しています。報告書ではこの動向を「競争の時代(The Age of Competition)」への構造転換と表現しています。
表3 短期(~2年内)・長期(~10年内)リスクの順位変動(2025年→2026年)
long term (10 years)」および World Economic Forum, Global Risks Report 2025, Figure G「Global risks ranked by severity over
the short and long term」を基に作成
※「2025年のレポートでは「サイバー諜報活動およびサイバー戦争」という記載でしたが、2026レポートではそれを包括するより広い意味での「サイバー不安全リスク」に抽象化されています。
さて、レポートで頻繁に登場する5つのリスク分類(地政学、経済、社会、環境、技術)に着目してみましょう。基本的にいずれのリスクも、短期・中長期の双方で重要性が高まっていることがわかります。より具体的には、どんなトレンドが見て取れるのでしょうか。ここではリスクの種類ごとの総括を以下に要約しておきます。
地政学的リスク:
「地経学的対立」(制裁、関税、輸出規制など)は、国家間の緊張が経済や貿易、技術分野へ波及するリスクとして繰り返し言及されています。
レポートでは、ロシア・ウクライナ戦争や米中関係の緊張を背景に、企業が政治判断の影響を受けやすくなっている点が指摘されています。今後は、特定地域や技術への依存度が高い企業ほど、事業継続や成長戦略に制約を受ける可能性が高まるとされています。
日本企業、特に特定地域や技術への依存度が高い企業ほど、影響の大きいリスクです。影響を受ける領域は、海外売り上げ、調達・生産拠点、重要技術や部材の利用可能性など多岐にわたります。突発的な規制変更や制裁発動といった短期的リスクであると同時に、サプライチェーン再編や経済のブロック化といった中長期の構造変化リスクとして捉えることもできます。そのため企業には、短期的な危機対応に加え、地政学リスクを前提条件として織り込んだ中長期の事業・投資戦略を検討する必要があると述べています。
経済リスク:
「経済低迷」「インフレ」「債務」といった項目は、多くの国やステークホルダーに共通して高く認識されており、世界経済が不確実性の高い状態にあると述べています。
レポートでは、インフレ圧力の長期化や高金利環境の継続、各国政府の債務負担の増大が、企業活動の制約要因になり得るとあります。加えて、経済リスクは、単独で顕在化するのではなく、社会的分断や地経学的対立、サプライチェーンの混乱など、他のリスクにも影響を受けやすい点が指摘されています。
売り上げの見通し、コスト構造、資金調達環境などに直接影響を及ぼす点で、日本企業にとっても影響の大きいリスクです。そのため企業には、短期的な景気変動への対応にとどまらず、経済環境の変化を前提条件として織り込んだ中長期の事業計画や投資判断を行う必要性があります。
社会リスク:
社会リスクとしては、「人材および労働力の不足」「不平等(富・所得)」「社会的分断」「健康と福祉の低下」といった項目が、多くの国やステークホルダーで共通して重視されています。レポートでは、少子高齢化の進展や労働市場の逼迫、生活コストの上昇、価値観の分断といった要因が相互に影響し合うことで、社会全体が不安定化するリスクとして整理されています。
また、社会リスクは単独で存在するものではなく、経済リスクや技術リスクと密接に結びついています。例えば、労働力不足は企業の成長を制約する要因となる一方、不平等や分断が進むと、組織や市場が「公正に機能している」という前提への信頼が揺らぎ、組織内部での意思決定が遅れたり、取引コストが上がったりするなどのリスクが懸念されます。
こうした社会リスクは、日本企業にとっても、人材確保や人件費の上昇、従業員のエンゲージメント低下、組織の持続性といった領域に直接影響を及ぼします。そのため企業には、目先の人手不足への対応にとどまらず、社会構造の変化を前提条件として捉えた人材戦略や組織運営を、中長期の視点で検討することが求められていると示唆されています。
環境リスク:
環境リスクは中長期的に最も深刻化するリスク群です。短期(~2年)では地政学や経済リスクの陰で優先順位が低下する傾向が見られますが、中長期(~10年)では「異常気象(第1位)」「生物多様性の喪失」「地球システムへの致命的な変化」などが依然として上位を独占しています。これらはもはや将来世代の課題ではなく、現在進行形で経済・社会システムを脅かすリスクです。
レポートでは、気候変動による極端な気象現象が、老朽化した重要インフラ(電力、交通、水資源など)を直撃し、農業、生産活動、物流に連鎖的な混乱をもたらす点が強調されています。また、「重要鉱物」を含む資源制約や生態系の劣化は、食料安全保障や原材料調達の不安定化を通じて、地政学リスクを増幅させる要因として整理されています。
これらのリスクは、日本企業にとっても、操業の安定性、調達コスト、サプライチェーンの信頼性に直接影響を及ぼします(実際、日本の国別リスク認識では「異常気象」が第2位に挙げられています)。そのため企業には、短期的な危機対応や規制遵守にとどまらず、インフラの脆弱性や資源競争といった環境変化を前提条件として織り込んだ、レジリエンス(回復力)重視の中長期事業計画が求められています。
技術リスク:
技術リスクは、短期と長期でやや異なる様相を見せています。短期(今後2年)では「誤情報・偽情報(第2位)」や「サイバー不安全(第6位)」が全リスク中の最上位クラスに位置しており、技術の悪用が社会や経済に及ぼす即時的な影響が強く意識されています。
一方で、「AI技術の悪影響」は短期では30位と低いものの、長期(10年)では第5位へと急上昇しており、将来世代にとっての最大級の脅威になると予測されています。レポートでは、生成AIの普及が「真実」の概念を揺るがし社会的分断を助長する可能性や、サイバー攻撃が電力や交通などの重要インフラを物理的に破壊するリスクが増大している点が強調されています。また、中長期的にはAIによる雇用の消失や意思決定のブラックボックス化に加え、「量子技術」の実用化が現在の暗号セキュリティを無効化するリスク(暗号の危殆化)も新たな懸念材料として浮上しています。
これらの技術リスクは、日本企業にとっても、情報管理、事業継続、ブランド価値、組織への信頼といった領域に直接影響を及ぼします。そのため企業には、個別のセキュリティ対策にとどまらず、AIや量子技術を含む「破壊的技術」の変化を見据えたガバナンス体制を中長期の視点で整備する必要性があると示唆されています。
Global Risks Report 2026における日本企業が気になる「その他の発見」
グローバル企業としては経済に対する影響力の大きい国のリスクも認識しておきたいところです。リスク認識の違いは、国別に見ても明確に表れています(図4および図5参照)。本ランキングは、「今後2年間で、あなたの国にとって最大の脅威となる可能性が最も高いリスクはどれか。5つ選んでください」という設問に対する各国の経営層・有識者の回答結果を集計したものです。そのため、各国の社会構造や経済状況、直近の外部環境が色濃く反映されています。
日本やドイツのリスク認識を見ると、その多くが中長期にわたる構造的特徴に起因していることが分かります。日本では、少子高齢化の進展、自然災害の多さ、資源制約といった背景を踏まえ、人材不足や自然災害関連リスクが上位に位置しています。
ドイツも日本と同様にエネルギー分野で深刻な課題を抱えています。脱原発を掲げ再生可能エネルギーを急速に拡大する中でロシア・ウクライナ戦争の影響を受けたほか、第二次世界大戦後に整備されたインフラが更新期を迎え、事故や故障リスクの高まりが指摘されています。
一方、米国については、他の先進国と比べて社会における「情報の信頼性」と「分断」がより深刻な課題として認識されている点が特徴的です。その一例として、米国では主要なニュースソースとしてSNSを挙げる人の割合が2015年の4%から2025年には34%へと急増し、初めてテレビや従来のニュースサイトを上回ったと報告されています。こうした情報環境の変化が、誤情報や社会的分断への懸念を強めていると考えられます。
表4 日本・ドイツ・アメリカの経営者が認識する短期(~2年内)リスクトップ5
Table C.2 を基に作成
また近年、企業戦略の文脈では「Chinaプラスワン」の考え方が浸透しつつあり、日本企業にとってASEANの重要性は一段と高まっています。ASEAN主要4カ国が認識するリスクはそれぞれ性質が異なっており、企業は進出先ごとの情勢やリスク特性を踏まえた対応を検討することが重要と言えるでしょう。
表5 各国の経営者が認識する短期(~2年内)リスクトップ5 - ASEAN主要4カ国
Table C.2 を基に作成
図6に示されたリスク群は、企業が中長期の戦略を検討する際に、優先的に考慮すべきリスクであると言えるものです。というのも、このデータは「今後10年間で、どのリスクに対して企業戦略が最も有効な解決策となるか」という設問に対する回答者の認識を定量化したものだからです。短期的な対処にとどまらず、企業の中長期的な経営戦略や投資判断によって対応可能だと考えられているリスクを可視化しています。
表6 企業戦略レベルでの対応が必要なグローバルリスクトップ10
基に作成
※「2025年のレポートでは「サイバー諜報活動およびサイバー戦争」という記載でしたが、2026レポートではそれを包括するより広い意味での「サイバー不安全リスク」に抽象化されています。
Global Risks Report 2026を踏まえた日本企業のリスクマネジメント
Global Risks Report 2026を見ると、地政学、経済、社会、環境、技術という5つのリスク分類のいずれのリスク群も、短期・中長期の双方で重要性が高まっていることが示唆されています。
これは、どちらかといえば短中期に比重が置かれた取り組みになりがちな全社的リスクマネジメント(ERM)と、長期・超長期目線の活動としてサステナビリティ委員会などに委ねられていた活動を、これまで以上に高度に統合していく必要性を示すものと言えます。
こうした流れと軌を一にして、日本ではサステナビリティ情報開示制度の整備が進んでいます。サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年に我が国初となるサステナビリティ開示基準を公表しており、今後、2027年以降を目途に上場企業を中心とした段階的な適用が想定されています。企業は、有価証券報告書において、気候変動を含むサステナビリティ関連リスクや機会、その管理体制や戦略への影響を、より体系的に説明することが求められるようになります。
この制度対応を「新たな開示負担」として受け止めるだけでは、本質を見誤る可能性があります。SSBJ基準が求めているのは、単なる情報開示ではなく、企業がどのリスクを重要と捉え、それをどのように経営判断や戦略に反映しているのかという説明です。言い換えれば、サステナビリティ開示は、ERMの成熟度そのものを問う仕組みであり、企業が生き残るための経営基盤を見直す機会と捉えるべきでしょう。
また、日本が直面するリスクの特徴を見ると、自然災害や社会構造に起因するもの、例えば人材および労働力不足といったリスクが引き続き上位に位置しています。しかし、これらは脅威であると同時に機会でもあります。人材不足が深刻化するからこそ、AI技術の活用や業務プロセスの再設計が現実的な選択肢となり、日本企業の競争力強化につながる可能性があります。
さらに、資源に乏しくサプライチェーンへの依存度が高い日本は、地経学リスクや異常気象、自然災害の影響を受けやすい立場にあります。一方で、日本企業はBCPに真剣に取り組み、災害対応力を蓄積してきました。世界的に災害リスクが高まる中、この経験や実践知は、日本企業にとって重要な強みとなり得ます。
Global Risks Report 2026に登場するリスクは、決して新奇なものではありません。いずれも既知であり、日本企業がこれまで向き合い、現在も対応し続けているリスクです。だからこそ今、SSBJによるサステナビリティ開示への対応を契機として、ERMの高度化とBCPの実効性向上を一体で進めることが、これまで以上に重要になっていると言えるでしょう。





