-事業内容を教えてください。
情報通信システムの開発・保守を日本のみならず世界で行っています。情報通信システムというのは、インターネットの通信技術をベースにした通信ネットワークをさしますが、顧客は通信業者を始め、一般企業から最近ではケーブル会社などもサポートさせていただいております。電話やテレビなどすべての通信技術がIP経由になるにともない市場は拡大の一方で、当社もお蔭様で成長を続けています。
とは言え、競合も多く、価格競争の激しいこの業界で当社がご評価いただけているのは、当社の社員が世界でも一流のホスピタリティでサポートをさせていただいているからです。これを導入しているIT企業は他にはないと自負しています。当社の社員は多くが元ニートやフリーターなのですが、全員を正社員として採用し、徹底教育していることが強みになっています。
-今回BCP構築に取り組まれた理由を教えてください。
株式会社アイエスエフネット
代表取締役 渡邉 幸義 氏
当社は2年前からBCP的な取組を行ってまいりましたが、何しろ無手勝流で進めておりました。まずはリスクの洗い出しを行い、地震と新型インフルエンザへの対応を決定しました。
地震の対応としては食糧の備蓄や連絡手段の確保としての社員へのiPhoneの配布などを行いました。ただ、定期的な見直しやブラッシュアップができていなかったので、先日食糧備蓄を調べてみたら賞味期限切れのものが多々あるなど、運用面で問題がありました。次にインフルエンザ対策としては、業務の二重化を進めるために属人化をやめるよう業務改善を行いつつあります。
それでも対応が散漫であることは否めません。私は、歴史に学ぶということを大切にしています。過去の人が作ったもの、スタンダードになっているものは必要且つ既に確立しており、それは学んだ方がいいと思っているので、ISOの認証なども積極的に取得しています。そういう意味で今回はコンサルタントのご指導のもと、BCPに取り組めるのは非常に良い機会であると考えました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社の業務は多岐に渡るのですが、今回は全社員の安否確認及び受託業務として行っているITサポートサービスを対象に地震を想定したBCPを策定しました。具体的には、東京湾北部地震を想定して東京地区以遠のITサポートを受託している企業の「リモートコントロール」・「ヘルプデスク」機能の継続を目指しています。
まず全社員の安否確認については、全国各地に勤務する1600名の社員の安否確認をどのように行うのかについて、体制を整えました。災害時に自動発信するセコムの安否確認メールを基点として、部署別に各責任者による徹底的な安否確認を実施する手段と体制を再確認しました。特に当社は障がい者を積極的に雇用しているので、彼らの安否確認や、社員の家族や取引先とのコミュニケーションについても運用体制を再確認しました。
事業継続策としては、災害時に想定される電源供給の遮断に対し、モバイルPCを用いて直接ユーザー網にアクセスすることで、「リモートコントロール」・「ヘルプデスク」機能を継続サポートするBCPを策定しました。
【BCPの概要】
対象事業 | 全国に跨るITサポートサービス |
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対象リスク | 地震 |
被災シナリオ | 午前10時 東京湾北部地震M7.3 ・ISFnet本社被害 サーバ 免震 正常シャットダウン 電話、ルーターハブ、PC電源オフにより不通、エレベーター不動 電源供給24時間後 ・対象業務 本社 管理・営業・技術 担当 委託者 地方通信ネットワーク 保守 |
事業継続策 | ・重要顧客に対しては24時間以内に当社の被災状況、復旧見込みを報告し、顧客の意向を確認して代替案を連絡する。 ・電源供給不可のため、本社経由のネットワークは使用不可、モバイルPCによる直接ユーザー網にアクセスして、「リモートコントロール」・「ヘルプデスク」機能を継続サポートする。 |
-苦労されたポイントを教えてください。
BCP策定に当たっては、最初に中核事業を選定しなくてはなりませんが、ここでまず悩みました。当社は全国17か所に拠点があり、海外にも進出しているのですが、売上の中で一番大きな割合を占めるのは、派遣事業です。ただ、派遣事業は派遣先の指揮命令に従うことが基本ですので、当社で統制をかけることが困難だということで、今回はITサポートサービスを対象としました。
ITサポートは通常時でも24時間365日のサービスですが、ここが止まるとお客様の業務もとまってしまう危険性があり、まさにBCPが求められる事業分野です。また、情報通信のネットワークは全国にまたがっているため、東京湾で起きた地震で、実は全国のネットワークに被害がおよんでしまうという点において、非常に重要です。
-策定に当たって、何か気付きはありましたか?
当社は以前から社内でリスクマネジメントの取組を行い、様々なリスクを洗い出して考えたつもりでいましたが、今回コンサルタントの方の支援のもと検討作業をしてみると、対応が浅かったと認識しました。
ただ、今回以前から導入していた安否確認システムを初めて全社員を対象としてテスト運用してみたのですが、社員からのレスポンスも早く、通常の教育が活きていることも確認することができました。
また、今回このプロジェクトには法務部の担当者も参加し、この取組をお客様とのSLAにどのように盛り込めるかなども併せて検討しておりますので、当社のサービス力向上につながればと考えています。
-今後の運用計画について教えてください。
まずは今回策定したBCPの内容を改善していくことと、運用ベースに乗せることを進めます。その後は、今回対象外とした派遣事業や中国、韓国、シンガポールへの展開を進めている海外拠点に横展開していく予定です。
-取組を検討中の企業へメッセージをお願いします。
多くの企業では起こるかわからないリスクにはなかなか積極的に取り組めていないのではないかと思います。しかし企業としては、リスク分までをコストに含めて利益を出す努力をしなくてはならないと私は考えています。
今、企業は様々なリスクにさらされています。当社では鬱病対策のチームやリスクマネジメントのチームを編成し、ここにかかるコストの分まで社員が汗をかくことで、逆に不景気になっても強い会社、社員が尊敬できる会社を運営できているのだと考えています。