事例紹介: 株式会社上島熱処理工業所

株式会社上島熱処理工業所 BCP策定プロジェクトメンバーの方々。洪水はあり得ない災害ではない。時系列の対策を意識したBCPを策定。

-事業内容を教えてください。

当社はソルトバス(溶融塩浴)や真空炉による高速度工具鋼等を中心とした金属熱処理加工を行っております。熱処理はそれ自体がマーケットとして縮小傾向にあるのですが、その中でもソルトバス熱処理は技術伝承が困難であること、作業環境が悪いこと(高温、危険)、生産性が低いなどの理由から取り扱える業者が数えるほどになってきています。ただ、真空炉加工では実現できない性能を可能にすること、少量を高精度に短納期で処理できることなどで、現在でも多くのお客様にお取引いただいております。

また最近では少量、高精度、多品種、短納期での熱処理が求められる研究室からの依頼や、航空機産業への参入なども視野に入れることにより、業務の幅を広げています。

-今回BCP構築に取り組まれた理由を教えてください。

株式会社上島熱処理工業所 代表取締役 上島 秀美 氏
株式会社上島熱処理工業所
代表取締役 上島 秀美 氏

当社が工場を構える地域は地盤が低いため、大田区のホームページによると平成12年発生の東海豪雨レベルの降雨が発生した場合には50cm~1mの浸水の可能性があるとされております。確かに創業当時は近くの河川が何度か氾濫したと聞いており、近年では都内でのゲリラ豪雨による水害のリスクも高まっていることから、当社も何らかの対策は必要だと考えていました。

それも踏まえて工場の敷地は路面よりも50cmほど高く造作しており、万が一工場内の冷却用の地下水層から水が漏れるような場合には汲み出すためのポンプなども備えてはいるのですが、正直なところ、洪水になってしまったら従業員には申し訳ないが廃業だなぁ、と思っておりました。

とは言え当社は、高熱に溶解したソルト(塩)の炉を所有しており、万が一水が入ると、急激な水蒸気発生による事故の危険性もありますので、何かしらの対策をしなくてはと思っていた際に今回の支援事業のご案内があり、取り組むことにいたしました。

-策定されたBCPの内容を教えてください。

今回はまずは水害を想定したBCPを策定しました。

まずは工場内への浸水を防止することが第一なので、予防・低減策として緊急防水堰またはスラリーポンプと発電機の導入や配電盤・外部トランスの嵩上げ、ガスボンベの固定が重要と認識し、現在具体的な対策を検討しています。磁気探傷機や記録帳票(紙)等の保管場所は1mの浸水にも濡れない高い所に変更します。

水害発生時の事業継続策としては、工場の床が工場前道路面から約50cmの高さにあるため、実際に浸水する前の道路冠水時点と実際に工場が床上浸水した時点の2時点を考えました。大雨が続いた場合は、周囲や上流にあたる世田谷区等の降雨状況の監視を始め、道路が冠水した時点において割れ止め(仕掛品の破損防止)対策を開始し、緊急防水堰の敷設またはスラリーポンプ・発電機の配備、お客様預かり品・紙帳票類の避難、ガスの大元栓及び装置類の元栓閉鎖を行います。

さらに増水が続き、工場床上浸水が間違いないと判断した時点において、2階に設置の炉による緊急割れ止め対策を実施し、高価なお客様預かり品の保全とピット内浸水時緊急対策を実施します。その上で万が一浸水した場合は、水が引いた後の迅速な清掃・洗浄・乾燥・点検・修理が重要であり、そのために全社員を動員した体制の確立と実施を行います。

弊社には営業がいませんので、緊急時における事務所と現場の役割分担を明確にしたお客様電話対応体制の確立も重要な点です。

【BCPの概要】

対象事業ソルト熱処理
対象リスク水害
被災シナリオ夏の勤務中に大雨による洪水が発生し、工場内が床上まで浸水。ピット内の焼入炉、焼戻炉及びブラストマシンが泥水に浸かり、製品及び資材にも浸水被害が発生。ガス配管とボイラーも破損。1階にある記録帳票類(紙)が泥水に浸かった。
予防・低減策・設備・装置・資材・帳票類等の嵩上げ
・割れ止め対策手順の周知・日常業務での徹底
・バーコードスキャンによる進捗管理システムの導入
事業継続策・緊急時の従業員連絡体制及びお客様電話対応体制の確立
・緊急防水堰またはスラリーポンプ・発電機の設置・運転
・割れ止め対策手順の実施

-苦労されたポイントはありますか。

当社の抱える課題は、重要機器の保全と炉内浸水による事故の阻止です。重要機器のうち嵩上げできるものはいいのですが、できないものについてどうするのか、また、実際に浸水した場合の対応に関しては追加投資が必要なこともあり、具体的な対策については現在継続して検討中です。

-策定に当たって、何か気付きはありましたか?

当社の利用しているソルトバスは1200℃と高温なため、万が一水が入ってしまった時には急激に発生する水蒸気による事故の可能性があり、それだけはあってはならない事だと常々考えてきました。今回策定したBCPのように、水害の状況を見極め、時系列の対策を予め定めておくことにより、そうした事故を未然に防ぐ体制も構築できました。具体的には、水害の動向を見据えつつ、できるだけ早く炉を停止し、内部の温度を下げることなどです。

今回BCP策定に当たって様々な検討をしていく中で、できていないことがたくさんあることに驚いたのと同時に、できることもたくさんあることがわかりました。このような検討の場は今まで持ったことがなかったので、良い機会になりました。水害になっても廃業せずに済みそうです。

-今後の運用計画を教えてください。

現在航空機産業における米国の品質管理認証(NADCAP)の取得などいろいろプロジェクトが立て込んでいる中で、BCPについても声高に発信していかないと、形骸化する危険性があると感じています。

やるべき事は日常の業務として皆が普通にできるようにしていくことが重要ですので、そうした運用を心がけたいと考えています。

関連サービス詳細

プロジェクトメンバー

代表取締役上島 秀美 氏
取締役工場長足助 清雄 氏
技術部長坂田 玲璽 氏
技術部部長九津見 啓之 氏
技術部課長上島 健 氏
製造係長(塩浴工場)文珠川 拓実 氏
製造係 (塩浴工場)安河内 秀樹 氏
製造係 (塩浴工場)熊井 雅幸 氏
製造係 (真空工場)澁澤 直哉 氏
摩擦圧接加工係長村上 恵 氏
会社情報
称号: 株式会社上島熱処理工業所
本社所在地: 東京都大田区仲池上2-23-13
設立: 1956年5月
資本金: 1,000万円
従業員数: 44人
代表者: 代表取締役  上島 秀美
事業内容: 金属熱処理加工、金属表面改質処理、摩擦圧接加工
URL: http://www.kamijima.co.jp/

(2011年1月末日現在)

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