-事業内容を教えてください。
当社はハーネス・ケーブル組立・配線や各種プリント板の実装・組立・配線といった部門で、情報・通信機器や制御機器などの産業用部品を製造しております。かつてより携帯電話の基地局の部品などを多く手掛けており、大手メーカーとの直接取引を行っています。ベーシックな製造技術ですので、当社にしか扱えないということはなく、競合も大変多いです。その中で、多種少量生産が可能な仕組み作りなど当社独自なものづくりの体制を構築し、①高品質、②短納期、③リーズナブルな価格等で、お客様にご評価いただいております。
-今回BCP構築に取り組まれた理由を教えてください。
日興製作所
代表取締役社長 久米 正資氏
当社はISO14001を10年前に取得しているので、その中で定められている消火器の設置や防災訓練は定期的に行っておりました。一方で、大手取引先より3~4年ほど前からBCPを策定するように、という指導があり、自社で策定しようと情報収集などはしていたのですが、入口でつまずいてしまい時間ばかりが過ぎている状況でした。そこへ今回東京都の支援事業の存在を知り、これは願ってもない機会だと申込みをいたしました。
今回のBCP策定に当たっては、自社の事業復旧が最優先課題であることは当然のことながら、自社の被災レベルを最小限に抑えることによって、有事の際に協力会社や地域の災害復興を支援する余力を確保することにあります。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社には事業所が3拠点あります。本社(東京都大田区)、明野工場(茨城県筑西市)、下仁田工場(群馬県下仁田町)本社では試験機の設計・製造、明野工場では各種情報機器・通信機器用ケーブル・ハーネス並びに装機関連の設計・製作、下仁田工場ではプリント基板の実装を行っております。今回は当社の主力工場である明野工場を対象とし、地震を想定したBCPを策定しました。
まず経営資源を洗い出し、代替の利かない経営資源は、予防・低減策を徹底することにしました。基幹サーバやバックアップ装置を強固な収納ボックスに格納したり、地震で転倒しやすい機械設備を固定したりという施策を行います。
また、事業復旧フェーズにおいては、タイムラインに基づいた担当者ごとの役割分担を明確にしました。たとえば、本社では主に外部(お客様・サプライヤー)への情報発信と重要関係先の通知を行い、明野工場が事業復旧に専念できる体制をサポートします。明野工場では、外部協力会社や本社からの応援人員とともに、復旧優先業務の再開に当たります。
この際、社員の中から出社要請人員を予め決定し、事前に教育も施すことで、有事の際の迅速な対応を可能にしました。
【BCPの概要】
対象事業 | 明野工場ケーブル製造工程 |
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対象リスク | 地震 |
被災シナリオ | 茨城南部に震度6弱の大地震が発生、被災翌日から目標復旧時間内(1週間)の出勤率は20%→90%で移行、工場内部のPC・半自動圧着機・試験機等が一部破損、サーバの破損により、社内受発注システム使用不能、部品破損、製品・仕掛品の一部が破損、製造委託先(外注)にも被害 |
予防・低減策 | ・書類棚・部品棚:書類棚・部品棚からの落下防止策 ・サーバ・バックアップの保護 ・設備機械の転倒防止策 ・発電機の移動(東京本社⇒明野工場) ・試験ジグの保管に関する規定整備 |
事業継続策 | ・代替要員確保 ・東京本社対策本部(営業部・総務部)の業務支援 ・組立・加工業務の外注対応 ・サーバ復旧時のステークホルダーの有効活用 |
-苦労されたポイントはありますか。
BCPとはどのような流れで策定するのか、という全体像をつかむのに最初時間がかかってしまいました。思えば3年前から自社でBCP策定を試みた際には、そもそも入口の被災想定で引っ掛かってしまっていたわけですから、全体像を描くことができなかったわけです。今回を通して策定をすることで流れが理解できました。
この入口の被災想定ですが、自社で検討したのでは、きっと判断ができなかったと思います。どの程度の想定とするのが妥当なのかという基準が自らでは決めきれないので、今回コンサルタントの方にある程度の前提を提示していただくことでスムーズに進めることができました。
また、事業復旧策にしても自社だけでは考え付かない方法をご教示いただきました。今回直線距離で50km離れた場所に位置する協力会社に、万が一の際には転注をお願いすることを選択肢の一つとしているのですが、これは50km離れていれば同時被災の可能性が低いから、ということです。こうしたこと一つとってもとても自分たちだけでは考え付かなかったと思うのです。
-策定に当たって、何か気付きはありましたか?
BCPを策定することは、災害というマイナスの要素をいかに軽減させるかという取組であると同時に、現在の経営資源を見つめ直すことでもあります。業務の内容が明確で適切であるか、人員配置が適当であるか、といった現在の業務の改善につながるポイントもあるわけです。
また、今回当社は有事の際の出社要請人員を定めたのですが、選ばれた社員は自らの社内での立場を明確に認識したことと思いますし、各社員のモチベーションが向上するとともに、工場全体の活性化にもつながっていると感じています。
-今後の運用予定について教えてください。
今回策定したBCPは、単独の規定として運用するのではなく、ISO14001の活動重点テーマの一つとして運用してまいります。何より重要なことは、P-D-C-Aのサイクルを回すことだと思います。ISO14001の活動に取り込むことにより、少ない負担で継続的により実効性の高いものに進化させていきたいと考えています。
今後当社の業容を拡大していくためには、こうしたリスク管理の取組は必ずや必要になってくると考えています。ISO14001(環境)を中心に、ISO9001(品質)・BCP(事業継続計画)・CMS(含有化学物資管理)・情報管理を有機的に統合する仕組みが社内にあることが取引の前提になってくるハズです。そうした傾向に先んじて取り組み、常に最先端の活動を行うことで、お客様に、「安心・安全・信頼」を創造し、企業価値を常に向上させていきたいと考えています。