事例紹介: 株式会社原工業所

株式会社原工業所 BCP策定プロジェクトメンバーの方々。企業価値を高め差別化を図るためのBCP。社員の安全だけでなく地域復興に資する活動。原工業所 ロゴ

-事業内容を教えてください。

当社はアルミニウム合金鋳物の製造を行っています。創業は古く、戦時中に祖父が航空機用アルミニウム鋳物工場で働いていた経験を活かし、昭和20年に荻窪で設立し、昨年65周年を迎えました。当初は戦後の需要で鍋釜を作っておりましたが、現在は自動車関連製品が全体の90%を占めます。

アルミニウム部品製造は競合が多い業界ではありますが、当社は以前から金型鋳造(グラビティ鋳造法)という特殊な工法に取り組んでおり、ご評価をいただいています。金型鋳造は量産性が高く品質の良いものができる一方で、連続鋳造が基本であるため昼夜での温度管理や量産体制の維持など難しい管理をともなうため、関東でも数社程度しかやっておりません。最近は多品種小ロット化の傾向もありますが、その代わり部品数も増えておりますので、優位性を維持していけると考えています。

-今回BCP構築に取り組まれた理由を教えてください。

当社の主要顧客は大手自動車部品メーカーで、世界中で当社しか作っていない部品などもあるため、部品の安定供給を求められています。そんな折、新潟中越沖地震の際に、当社が部品を供給しているお客様が被災され、何か月も製造がストップする、という事態を目の当たりにしました。

原工業所代表取締役社長 原 敏也氏
原工業所
代表取締役社長 原 敏也氏

当社は炉を持っていますので、火災に対する予防は徹底してまいりました。65年の歴史の中で一度も消防が出動するような大きな火事がないのも、社員教育の賜物です。しかし、事業継続ということに関しては未整備であったため、3年前に中小企業庁のステップアップガイドを元に策定を試みました。

正直な感想は、こんなの難しくて作れない、ということでした。それでも、自社事業のアキレス腱の分析やサプライチェーンの棚卸しまでは行ったのですが、その後リーマンショックで本業の受注が減ったり、その他の業務との兼ね合いの中でプライオリティが低く、完成には至れませんでした。その際、自社だけでできることには限りがあり復旧は大変困難であることが明確になりましたので、都や市区町村、損保会社、金融機関などに援助の仕組みの有無を早速問い合わせました。回答はいずれも企業は自助努力だとのことで、当時はそこで頓挫してしまった次第です。今回、羽村市産業活性化推進室から東京都BCP策定支援事業の案内があり、再度取り組むことに決めました。

-策定されたBCPの内容を教えてください。

当社は、神明台工業団地内にあり水害のリスクは小さいと考えられますが、他方、立川断層が近くにあることもあり地震による工場の被災が心配でした。そこで今回は、地震を想定したBCPを策定しました。

当社は自動車部品の安定供給を実現するために、社員の安全確保と、生産体制の早期復旧を行います。そのためには、災害時にも有効な緊急連絡網の整備、得意先・協力会社との連絡手段の確立が重要です。また、被害を最小限に抑えるために、工場内のブタンガス関連設備破損防止や天井クレーン落下防止、事務所の棚固定などの耐震対策を行います。

災害後の事業継続については、被災状況に基づく生産計画の見直し手順を策定しました。また、ブタンガス供給再開まではフォークリフト用ガスボンベを用いた予熱と電気保持炉によるアルミインゴット溶解により鋳造を再開します。ガス溶解炉が破損した時の緊急修復や、中子の緊急調達についても協力会社との連携方法の検討を行いました。

【BCPの概要】

対象事業 自動車用アルミ合金鋳造事業
対象リスク 地震
被災シナリオ 2011年7月11日(月)午前2:00頃、多摩直下地震(震度6弱)発生。溶解炉が破損、中子が6割破損。仕掛品が棚から落下。事務所の棚が倒壊、室内が乱雑化、室内ガラスが破損。電気が1日間停止、交通機関が2日間停止、幹線道路が3日間の車両通行止め。固定電話が7日間輻輳、ブタンガス供給が2週間停止。
予防・低減策 ・ブタンガス管破損防止策の実施
事業継続策 ・携帯電話・メールによる社員・得意先・協力会社との連絡網の構築
・携帯電話非常用充電器の配付
・ブタンガス供給会社による緊急復旧
・ガス漏れ応急処置材の用意/過流出防止装置作動時の緊急復旧体制の確立
・フォークリフト用ガスボンベでの代用
・電気保持炉による代替溶解
・炉メーカーによる緊急修復

-策定に当たって、何か気付きや苦労したポイントはありましたか?

最初につまずいたのは、従来の通信手段が使えない場合の連絡方法がなかったことです。社員用の連絡網は固定電話しか掲載されていませんでしたし、得意先も普段は電話やメールがメインです。今回の見直しの結果、できる限り携帯メールのアドレスを取得することや、得意先との代替連絡手段を整備するなど、今まで考えたことのなかったことに取り組みました。

また、当社の作業工程を分解してみたところ、大きな課題が二つあることが明確になりました。原工業所 代表取締役社長 原 敏也氏

一つは、炉の熱源であるブタンガスの供給がボトルネックであることです。平時は定期的に一定量が配送されており、タンクは満杯で3日分を備蓄しているのですが、今回検討に当たってガス会社に問合せをしたところ、災害時には最低2週間は供給がストップする見込みであるとの回答でした。復旧の優先順位が病院、避難所、配送業者、一般住宅、事業所の順番であることが国の方針で決められているからです。そうなると、ブタンガスを利用した生産復旧はできませんので、代替手段として、電気の炉でできる部分だけを先に復旧させる方針を取ることにしました。

当社はブタンガスの炉と電気炉の両方を利用しているのですが、今まで企業経営の観点からすると初期投資が安価なブタンガス炉を迷わず選んでいました。しかし、今回の検討でこうした新たな事実が判明しましたので、設備投資の条件にBCP的な要素も考慮しなくてはならないと感じています。

二つ目の課題は当社のサプライチェーンの脆弱性です。鋳造する際に、中子という副資材が必要で、現在はすべてを協力会社に発注していますが、この協力会社は家内工業が殆どで災害対策が十全とは言えません。解決策としては一部内製化、中子メーカーのBCP導入要請、中子メーカー間でのネットワーク構築による転注などの緊急移管体制の確立を検討していますが、どれも一朝一夕には実現できないので、長期的な取組が必要となります。

ただ、今回の検討でこうした課題が明確になったことは当社事業にとって、大変有意義でした。

-BCPを策定された感想をお願いします。

今まで考えてもみなかったことを多く考える貴重な機会となりました。有事の際の意思決定代行者を8番目まで定めたり、今までなかなか情報共有がうまくいかなかった海外から受け入れているベトナム人の技能実習生にもベトナム語の携帯BCPを渡せた等、企業全体としての組織力が増強できたと感じています。

 

関連サービス詳細

プロジェクトメンバー

代表取締役社長 原  敏也 氏
取締役副社長 工藤 順一 氏
取締役品質管理部長 深山 幹男 氏
総務部 課長 高橋 康弘 氏
営業部 課長 樋上 隆之 氏
製造部 係長 德永 浩幸 氏
会社情報
称号: 株式会社原工業所
本社所在地: 東京都羽村市神明台4-10-1
設立: 1945年12月
資本金: 3,000万円
従業員数: 53人
代表者: 代表取締役社長  原 敏也
事業内容: 自動車用アルミ合金鋳物
URL: http://www.harakogyosho.com/

(2011年1月1日現在)

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