-事業内容を教えてください。
タマチ工業株式会社の起源は祖父が1912年に設立した太田工場で、100年間一貫して自動車業界に携わってきました。レーシングカーのエンジン部品(シリンダヘッド、カムシャフト等)の生産には高い技術力が要求されますが、最新鋭の工作機械を駆使し、経験とノウハウで超精密加工を追及しています。最近は、自動車部品に加え、ロボット、航空宇宙機器、半導体製造機器、医療用機器などの部品も製造しています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
災害が起きた場合でも大手自動車企業のサプライヤーとして部品供給や技術開発を止めてお客様にご迷惑をおかけしてはいけません。3.11の後、富士宮直下型地震で社員の自宅が被災しましたが、今後より大きな災害が発生しても社員100人の生活と安全を守るために、「まずは人、次に組織と設備」を守り事業を継続したいと考えています。
今までは、会社としてISO9001を取得し品質管理に取り組んできましたが、防災対策はこれからです。個人の判断ではなく、会社としての災害時の行動基準を定め、組織の判断で行動するようにしたいと考えています。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社にとって地震を想定した場合の一番の懸念事項は、お客様からの受注を受けられない状態が続くこと、また自社の状況をお知らせできないために注文を逸注してしまうことです。また仕掛品の納期調整が迅速に行えない場合、納期が遅延し、お客様に多大なご迷惑をおかけしてしまいます。
そのため今回は、中核事業である自動車部品精密加工の中でも、品川本社内の工場で行っている受注業務、生産管理業務、設計業務、東京地区での製造業務(外注)を対象にBCPを策定しました。
これらの業務に欠かせない経営資源としては社員、本社設備、資材、情報システム、外注業者(加工を依頼)等があります。今回事業継続の大きな方針として、この中の情報システム、本社設備、外注業者の被災状況によって、本社で対応する、あるいは代替拠点で製造する、外注する等の対応のレベルを決めました。そしてそれに付随する設計データの搬送や社員の移動、材料の配送などについても併せて検討しました。
対象事業 | 自動車部品精密加工 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・社長・常務、営業2名外出中 ・レーザマーカ作業者孤立 ・PC半数落下により使用不可、NAS破損 ・加工機械全数使用不可 |
対策 | ・機器の転倒破損防止策を5S活動の中で検討 ・CADバックアップデータ(NAS)の保護 ・非常電源の確保検討 ・被災時の社員生活、宿泊先の想定 ・緊急時のお客様、西富士工場との連絡方法確立 ・加工、仕入れ先、物流業者との緊急時協力体制確立 |
-何か新たな気付きはありましたか?
社員の多くは、誰かが作った規則に協力するという意識はあるものの、BCPを自分の問題として考えてもらうのに時間がかかりました。最初は、被災想定の幅が広いのでどう設定するかが難しく迷いましたが、設定した内容で対策を決めておけば、状況が違っても、その場の判断基準になることがわかりました。BCPもISO取得と似ており、これからいかに浸透させ、改善していくかが大切と考えます。
新たな気付きとしては、いろいろな弱い点が浮き彫りになりました。富士山地震への対応として「西富士工場のBCPも至急に策定が必要」、本社で当たり前と考えていた「機械加工するためには水が必須」、「キーマンへの依存度が高く代行者がいない業務がある」、「外注協力会社のBCPの意識はまだ低く、連携が必要」などです。
また、平時は2拠点が離れていることに不便を感じていましたが、BCPでは逆に利点として生かしたいと考えます。
-BCPを策定した感想をお願いします。
BCPは「あってしかるべきもの」との感想です。他の会社には、「社員の命を守り会社の存続を考えるBCPがないとおかしい」と伝えたいと思います。過去に防災組織を検討した時は範囲が狭かったのですが、BCPでは検討範囲のひな形が示されたことで、会社の個性を反映しながら自分の言葉で策定できました。会社や個々人の動きがはっきりし、社員全員が連帯して事業継続することの重要性を改めて認識しました。今回策定したBCPは、他の災害や停電等の緊急事態にも使えると思います。今後、委員会活動や5S活動で定期的にBCPを継続したいと考えます。