-事業内容を教えてください。
流体制御に特化した理科学機器・医用機器・省力化機器等を自社開発、製造、販売しています。装置の高度化と小型化を得意とし、医療機関や研究機関で多く利用されているほか、ユニットとしても多くの機器に組み込まれ、国内外数十カ国で採用されています。その中でも主力製品であるマイクロポンプは、検査や分析時の検体の少量化を可能とし、採血時の患者の負担軽減や薬品等廃棄物量軽減等、医療現場を通じ社会へ貢献しています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
東日本大震災が直接の動機です。発生当時、全社員参集の下、こんな持論を話しました。「有事にこそ普段どおりに働かなければ日本の産業は衰退する。被災された方に申し訳ないという気持ちはもちろんあるが、立ち止まるわけにはいかない。我々が働くことこそ間接的支援につながるのだ」と…。
自社製品の多くはお客様であるメーカーにユニットとして納品されています。それは弊社の供給が止まるとお客様の製造が止まり、ひいては我々の製品・技術を欲しているエンドユーザーの皆様に、重大な影響を及ぼすことを意味しています。
医用機器は人の命を支える製品です。社会的な供給責任があるゆえに、危機感を持ってBCP策定に取り組みました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
東京湾北部地震を想定し、最も社会的な供給責任が高い医用機器製造事業を対象としました。
災害に対する懸念事項としては、「社員の出社不能による生産性の低下」と「仕入先からの資材供給停止」です。しかしながら弊社の立地は、多摩西部の比較的地盤の固い地域にあることから、自社内については予防・低減策や事業継続策を万全に講じることによって、前者のリスクはある程度回避できることが判明しました。
一方、製造に必要不可欠な重要部品については、高い技術とノウハウを共有した特定の企業様への依存度が高く、サプライチェーンの寸断は大きな脅威となり得ます。『1カ月以内にマイクロポンプの生産・出荷量を95%のレベルで再開させる』ことを目標設定した場合、最大の鍵は資材の継続的調達にあり、仕入先の立地条件や保有する機械設備等を検討しつつ、災害時においてもサプライチェーンという生命線をつなぎとめる方策を多角的に考えました。
対象事業 | 医用機器製造事業(資材調達業務/製造業務) |
---|---|
対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・社会インフラ(電気、水道、通信、交通網)の停止 ・社屋の一部倒壊、機械・設備・部品・ITインフラ等の破損 ・社員の出勤困難 |
対策 | ・災害時における重要仕入先との連携推進 ・部品在庫量及び発注サイクルのさらなる適正検討 ・社員の多能工化 ・資材調達の代替交通手段の検討 ・非常用電源の配備 ・正確な情報収集(災害時に有効な通信手段の活用) ・重要仕入先への災害復旧助言/支援 |
-苦労されたポイントはありましたか?
多品種少量生産のため、弊社の製造工程では多くの製品が時間差で流れています。災害発生をどの時点と想定するか、何をもって復旧とするのかの決定が難しく、目標復旧時間や目標復旧レベルの設定に苦労しました。
また、弊社の場合、製造に必要な代替手段が比較的容易に得られることが判明したことから、災害発生直後よりもむしろ、部品在庫量の減少する1カ月目以降が本当の意味での脅威であることが再認識できました。このような波が通常復旧パターンと異なることも、提示されたツールにそのまま事例を当てはめることが難しい要因の一つとなりました。
従来の防災計画とBCPの違いや、災害発生から収束までの各ステージ(災害時緊急対応 → 危機対応 → BCP発動 →事業復旧計画)への移行のタイミングもイメージがつかみにくく、全体フロー図を作成するなどの工夫をしながら理解を深めました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
弊社では以前より自家発電機の購入等、防災対策を進めてきましたが、重要性を認識しつつも、納期のないBCP策定業務の優先順位は低くなりがちであり、あと一歩を踏み出せずにおりました。東日本大震災直後の計画停電等、直面した現実的苦労が原動力となり、さらにはコンサルタントの皆様の情熱に後押しされ、ここにBCP第1版が完成しました。自社だけでは到底成し得るものでなく、ご支援ご協力いただいたすべての皆様に深く感謝申し上げます。