-事業内容を教えてください。
がんをはじめとする多くの病気の診断と適切な治療のための最終診断として大きな役割を果たしている病理診断は、人体から採取された組織を様々な工程を経てスライド標本にし、顕微鏡での観察により病変の有無や病変の種類について判断するものです。
当社は、病理診断、病理学的検査の一端を支える“パソロジー・トータル・ソリューション・プロバイダー” として、この病理診断に欠かせない病理標本作製のための機器・器材、試薬ならびにその他関連商品の製造、販売、輸出、輸入及びアフターサービスを行っています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
当社の商品やサービスの供給が止まると最終的に患者さまへご迷惑をお掛けすることになり、最悪の場合は命に関わる問題となる場合もあります。医療の一端を担う企業として社会的責任を果たすためにBCPが必須であると以前から認識をしていました。
3年前、新型インフルエンザが流行した際に中小企業庁のガイドラインなどを参考にパンデミック対策のBCP策定を開始しました。しかし、目先の対応と机上の計画ができた段階で新型インフルエンザの流行が終息に向かい、実効性のあるものとして完成させることができませんでした。そんな折、東日本大震災が発生し、災害対策も含めてしっかりとしたBCPを策定しなくてはならないと再認識をした次第です。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
BCPの策定対象事業の選定は少し迷いました。売上や収益の維持、また、万が一の場合にお客様が一番困ることを考慮する必要があり、その二つは一致するものではありませんでした。しかし「有事の時こそお客様を最優先し社会的責任を果たす。それが信頼につながり結果として当社を選んでいただけるのだ」との基本姿勢から「メンテナンス事業」を選択するという答えはすぐに見つかりました。
通常、私どものグループが製造・販売した病理学的検査機器のメンテナンスのご依頼は全国から本社(東京)のヘルプデスクにいただき、本社より各エリアのグループサービス会社の担当者に派遣依頼しております。そのため、東京が被災した場合でも対応を止めるわけにはいきません。
非常時に大阪からの遠隔操作によりヘルプデスクの接続先を東京から切り替え、大阪から本社同様に指揮を執ることにより、震災時にも継続して全国のお客様への対応を行うことを考えました。
対象事業 | メンテナンス事業(病理学的検査機器) |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ノーツ・ファイルサーバの故障 ・IT情報資産データの破損 ・固定電話10日不通 |
対策 | ・ノーツサーバの多重分散、情報資産の分散化 ・フリーダイヤルオプショナルサービスの追加利用 ・遠隔操作にてフリーダイヤル接続先(着信地)切替 ・遠隔地(大阪)より災害時用HPトップページ切替 ・遠隔地(大阪)への顧客対応指揮権限の委譲 |
備考 | PBX設置場所を変更予定 |
-自社で策定したものとの違いは?
かつて自社でBCPを策定した際との最も大きな違いは実効性の視点でした。自分達だけでは検討が困難な箇所はシナリオを変えるなどして逃げてしまったり、逆に作りやすい箇所は、とっさの判断に任せるべき部分まで時間をかけて決め事を作り込んでしまったりして、少しずつ現実から離れていったように感じます。
さらには文書ができあがった時点で完成したつもりになってしまい、その後の検証や訓練を十分に行わずに終わっていましたので、そのままでは有事の際には十分に機能しなかっただろうと思います。
-BCPを策定した感想をお願いします。
策定過程において得るものがたくさんありました。対象事業の選定では改めて各事業のポジショニングができ、業務影響度分析ではメンテナンス事業の主業務を再認識しました。また、事業継続策では通信手段が絶たれることでできなくなることの多さに驚くと同時に、それゆえ、しっかりした計画と事前の周知・訓練が一人一人のその時の行動に影響してくるのだと痛感しました。パートナー企業との協力の重要性も再認でき、良い機会をいただけたと感謝しております。
社会的責任を果たすためのBCPの存在が、社員達に「自分達は継続すべき仕事に従事しているのだ」という誇りとしてつながれば嬉しく思います。