-事業内容を教えてください。
当特許事務所は、所長が特許庁において審査長・審判長歴任後に創設し、当初はバイオテクノロジーの技術分野を得意としていましたが、現在では機械、電気、化学、バイオのすべての分野及び意匠、商標の権利化から訴訟関係に至るまで広く対応しています。さらに、総合特許事務所として、外国特許庁への出願及び外国から日本特許庁への出願の双方についても、内外の一流クライアントから多くのご依頼をいただいております。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
以前からビルや事務所での防災訓練を実施し、入居している高層階から階段で降りる機会を設けたりはしていました。しかし、東日本大震災の際に、事務所の建屋がかなり揺れ、停電はしませんでしたがエレベーターが翌朝まで停まりました。相当数の所員が帰宅を控えましたが、買い出しに出たところ、荷物を持って階段を上る際に苦労しました。さらに帰宅の途につくも、帰れず事務所に戻る者や徒歩帰宅を余儀なくされる者が出るなど、組織としての対応方針整備の必要性を認識しました。
また、特許庁の法定期限は結果的に延長されましたが、大地震発生時でも事業を止めることはお客様の利益を損ないかねないことを再確認し、危機感を新たにした次第です。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
対象事業については、権利化に至る各段階における、業務停止時の顧客損失の大きさを検討して選択しました。対象とする権利の種類は、同じ人員が顧客の知的財産の権利化を支援するという意味では共通するので、あえて絞り込むことはしませんでした。
予防・低減策としてオフィス安全化や備蓄品の再整備の実施、事業の要である所員一同の安否確認の仕組みの導入、工業所有権取得に係る書面などの電子データ保全策の強化を進めることとしました。
その上で、有事に行政からの救済を受けられない出願業務(国内・外国出願手続)を遅滞なく行うことを最優先します。具体的には、本社(または関西営業所)から重要顧客に緊急連絡をとり、その結果に基づき緊急性の高い案件については手作業にて対応し、その他の案件は電気及びシステムの復旧を待ちます。このような対応を取ることで、震災時の手続停止によりお客様の法的権利を権利化できないリスクから守ります。
対象事業 | 工業所有権取得代理事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・社内ITインフラ及びPCメール使用不可 ・被災当時所長、副所長2名が外出中 ・一部データ破損・書類の一部散逸の恐れ(預かり情報含む) |
対策 | ・所員安否確認システムの導入 ・オフィス安全化対策・備蓄品の再整備 ・関西オフィス担当者向け「災害時マニュアル」を作成 ・関西オフィスからの緊急時顧客連絡 ・早期の被災状況及び顧客連絡結果の確認により、緊急案件を切り分け、 緊急案件については手作業により対応 |
-何か新たな気付きはありましたか?
当初、当事務所は単一事業所で協力会社もあまりなく、業務内容や事業がシンプルなのでやることがないのでは、と思っておりましたが、いざやってみると、多くの検討すべき課題が出てきて、自らの業務を見直す機会にもなりました。
今回、対象事業を担当するグループのリーダーがほぼ全員フル参加しましたが、事前の打合せや討議を行う時間が取れない中で、会議の限られた時間内に多くのリスク要素の一つ一つを洗い出す大変さはあったと思います。しかし、工業所有権取得の相手方は国であるので、有事の救済の程度などについて不確定要素が否めないという特徴を反映してか、同じ仕事をしていても、立場によって重視するポイントや感じるところが違うということは新たな気付きでしたし、メンバーが一堂に会して行った討議によって得られた気付きは、平時の業務対応にも活かせると考えます。
-BCPを策定した感想をお願いします。
BCPを策定したことで、従来から実施してきた、点としての震災対応同士が線で結ばれた気がしています。また、BCP策定において、議論・検討に時間を多くとりましたが、これ自体が非常時の疑似体験となったと思います。総じて実際の震災時の対応が非常に客観的に分りましたので、災害時には想定通りにはならないでしょうから、すべてはできなくとも、少なくとも頭が白くならずに、的確に対応することができると思います。