-事業内容を教えてください。
当社は建物や橋梁をはじめとするインフラ等の維持保全・改修補修などの建設工事管理を営んでおります。主に目黒区、中央区内にある学校などの公共施設をはじめ、ビル、マンション、一般住宅、道路・橋等のコンクリート構造物の調査診断、コンクリートの劣化・防水対策、耐震補強等を行い、長寿命化のための工事をしています。昭和33年に創業してから、50年以上営業しておりますが、当初は工業接着剤、建設用補修材、防水・止水材等の開発、販売をしていました。昭和53年に起こった宮城県沖地震を契機に補修・補強工事の需要が増えたことから、建物の改修事業に着手し、地域に密着した事業活動を行っています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
首都直下地震が起こると、相当な建物の被害が出ると考えております。建物の補修・維持・保全活動を通して建物の安全を保ち、人命を守る業務に携わる当社としては、災害が起こった後でも、滞りなく事業継続できる体制を築くことが、当社の使命と考えます。東日本大震災時にも、当社が工事を行った建物が無事かどうか自主的に40件ほど確認を行いましたが、幸い構造的に大きな損傷はありませんでした。
BCPについては、周囲の関心も高くなっていると感じたことから、策定に着手しようと思いました。東京商工会議所開催の危機管理講習会に出席し、地震等が起こった時に初期活動等を適切に行う体制がほとんどできていないことがわかり、愕然としました。そんな中で、東京都のホームページで東京都BCP策定支援事業を知り、専門家の指導のもとBCPを構築したいと考えて本事業に応募いたしました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
今回のBCPでは、当社の中心事業である建物の調査診断・補修事業を対象事業としました。震度6強の地震により40%の人員が負傷、倉庫内資材の散乱、通信環境の損傷、建物の出火といった被害を想定しました。
まず、初動の緊急対応として、施工現場の被災状況確認をはじめ、当社が関わった既存建物の調査診断にとりかかります。顧客からも緊急点検の要望があるとは思いますが、地震によって急増する建物補修の工事依頼に備えて、自主的に状況を把握し、顧客に適切に回答をすることが必要だと考えました。
この緊急対応に必要なのは、人員と施工現場の情報です。稼働できる人員のうち、工事・工務を中心とした技術社員が調査診断を行います。電力インフラのダウンにより業務システムから施工現場情報を取り出すことができなくなると想定し、今後は平時より建物リスト・地図を作成しておき、また簡易な緊急建物診断チェックリストの様式を作成し、それを用いて効率的に業務を行うことにしました。
また、初動の調査結果を踏まえ、顧客との協議の上で、チームを編成し、施工管理の業務にとりかかりますが、この業務には本社倉庫内の防水材や塗料等の在庫品が必要になります。この在庫品を守るため、缶の積み方等を再検討し、発災時の倉庫確認も臭気・火災の発生を考慮したルールを作成することにしました。被災のために在庫が使用不能になった場合には早期に業者への手配を行います。
対象事業 | 建設構造物の再生事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・工事部社員9名中、5名連絡なし、3名負傷 ・倉庫内物品の飛散、建物より火災の発生 ・電力インフラダウン |
予防・低減策 | ・本社及び施工現場での防災対策の徹底 ・資材保管倉庫の安全対策 ・システム機器の耐震策 |
代替策 | ・平時の詳細な診断報告書に代えて緊急時の簡易なチェックリストを用いて調査・報告を効率的に行う ・自家発電機による診断用機器、社内PCの稼働 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
何もできていなかったスタート地点からここまでできあがってうれしく思っていますが、短期間での策定では検討が足りない点もあるので、社内での検討をさらに深める必要があると思っています。
当初は専門用語の理解に苦労しましたが、策定が終わる頃にはそれを使ってメンバー間でようやく情報共有ができるようになりました。危機管理を考える際に、専門用語の理解が取組に大きく影響すると実感しました。
今まで、将来訪れる危機に対して、わかっていながらなかなか手をつけることができませんでしたが、BCP策定を通して日常には思いもかけない危険が多くあるということを再認識しました。
取組前に漠然と考えていた様々な予防策や事業継続対策が、策定作業を通して具体的に明らかになり、今後取り組むことがたくさんあることがわかりました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
今回策定したBCPを少しずつお客様・地域と連携した体制作りにつなげていきたいと考えます。小規模事業所においてもBCP策定の必要性が高いことを周りに発信していきます。
地震に耐えうる建物を維持することは人命の保護に直結します。当社の使命に対する社員のモチベーションを向上させる上でBCPへの取組は大いに役立つと確信しました。BCPは単なる防災対策ではなく経営戦略の一つであると改めて思いました。
東日本大震災によって喚起された危機意識を風化させないためにも、若手社員ならではの変化への対応力とベテラン社員が持つ経験によって社内をまとめ、策定したBCPを維持していきたいと思います。