-事業内容を教えてください。
当社は東京都下水道局水再生センター等、主に公共施設における電気設備工事や、下水道設備の水処理機械を設置する機械器具設置工事を請け負っております。電気設備工事では設計・監督を担当し、実際に工事作業を行う協力会社とともに公共インフラ事業を支えています。
専門特化されたプラント設備工事を受注から工事、検収、そしてメンテナンスまで一式で行うことができる高度なノウハウと、1957年の創業以来のプラント設備工事実績によって、日立系プラントメーカーの設備事業部門の認定会社となっています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
多くの企業と同様に、当社も東日本大震災を契機として安否確認の仕組み作りや事業継続計画策定の必要性を感じずにはいられませんでした。
1971年に本社を豊島区目白に移転しましたが、当時は地震対策まで考慮していませんでした。その後の老朽化により、災害発生後に本社事務機能が稼働しなくなる可能性も高く、安全優先で災害時対策を考えなければと気にかかっていました。震災前から仙台に出張所を構えていましたが、復興需要に対応するとともにBCP拠点としての利用も検討したいと思いました。本社施設に関わる事業継続並びに、都内各所の現場にて日々作業する従業員の安否確保も課題です。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社の主力事業である電気設備工事事業と機械器具設置工事事業は、実際の作業において分離できないため両事業を対象事業とし、公共インフラとしての重要性から、3週間以内の復旧を目指します。ただし、被災後はすでに手掛けた現場での被害調査業務などの緊急工事の方が優先され、作業依頼を受けてから2日以内に対応する必要があります。これらの現場は湾岸地域も含めて都内都外に複数箇所あります。
緊急工事、自社業務の再開ともに、人員、道工具や機械機器、電線等の資機材の各経営資源は欠かせません。これに対して、人員は現場に出勤できず、必要な道工具は現場の液状化の影響で使用できず、資材は調達できないか埼玉県岩槻の機材センターに保管され使えない、と被災状況を想定しました。これらへの対策として、人員は他の現場から調達する、道工具は他の現場等に取りに行く、資機材は他の現場や協力会社から調達することで代替することにしました。
老朽化した本社が損壊し立ち入り禁止となった場合については、岩槻機材センターを災害対策本部として稼働させることとし、担当者の徒歩移動による参集手順を決めました。
対象事業 | 電気工事事業及び機器設置工事事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 本社11人中5人負傷、作業現場19人中9人負傷。 ・ 本社倒壊、岩槻倉庫一部損壊、作業所 足場50%、プレハブ倒壊。 ・ 資機材発注不能、協力業者20%稼働 |
予防・低減策 | ・ 整理整頓・定期点検、適正保管(本社倉庫の備蓄品保管含む) ・ 車両、発電機の燃料満タン確保 ・ 避難訓練等の演習(地震警報器を設置しての演習含む) |
代替策 | ・ 本社が立入禁止の場合、岩槻機材センターで本部立ち上げ ・ 災害伝言ダイヤル、メールでの連絡と他拠点からの人員調達 ・ 他現場や協力会社からの道工具、資機材の手配 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
当社の業務の中心は「現場生産」、すなわち現場での工事業務のため、本社にもまして現場での業務復旧が重要です。緊急時初動対応については、工事発注元である大手プラントメーカーの指揮に従いますが、首都圏複数拠点に分散している現場での業務再開について考えることに難しさを感じました。
また、本社建屋は脆弱ですが、耐震ビルへの建替え等はコスト面から難しいため、事前に付近の賃貸耐震オフィスを調査しておくことにしました。一方、東北出張所や機材センターといった本社の代替施設を有していることはBCPを策定する上で利点と再認識しました。特に機材センターは都内からの移動や宿泊が可能な施設であるため、災害対策本部の第二候補拠点として今回の事業継続計画の柱としました。
検討の過程では、地震により実際に東京がどのような状況に陥るのかを実感として想定できず、例えば大規模な火災が起きた場合、どちらから火の手が迫ってくるか等の予想は困難でした。
4名足らずのプロジェクトメンバーによるBCPの検討は、その場で即時に対策を決定できて良かったのですが、今後は、策定した仕組みを全社的に浸透させて共有することが大切だと感じました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
このような対策を策定しておくことは本当に役立つと感じましたし、やって良かったなと思っています。このBCPに基づく演習等を重ねて自分たちのものにしていくとともに、同業他社や協力会社にも今回の経験を紹介し、伝えていきたいと思っています。
また、今後は、最新の情報に随時データ更新を継続していくことも大事だと考えています。社員データ一つとっても、家族データの変更や引越しにより住所が変わることは頻繁にありますので、それらを常に新しいものにしていくことだけでも大変だと思います。