-事業内容を教えてください。
当社は「道」のプロフェッショナルとして社会環境と交通の安全を守る交通安全施設事業を展開しています。事業内容は、東京都等の自治体をはじめ警視庁・国交省等の道路標識の設置、道路区画線の塗装などの交通安全施設工事です。また、派生事業として土木工事事業と、標識・塗装機材や各種情報システムの開発・販売も展開しています。
当社開発の道路区画線塗装車は一般的なプロパンではなく電気を融解熱源としており、また区画塗料も特殊反射素材を使用し停電時に照明がない道路でもヘッドライトの光に反射して視認性を向上させる製品で、高い安全性により関係省庁様から推奨をいただいております。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
東日本大震災時、施工現場で被災した社員がおり、在社していた社員も帰宅困難になるなど、社内が混乱しました。当社の事業で最も大事なのは人材ですので、有事の際には従業員の安否と安全の確保を図り、速やかに整理し業務を行いたいと思いました。また国交省や警視庁とは災害協定を結んでいるため、1日(指示があれば即時)以内に災害復旧要請に応える必要があると考え、BCPの取組を決意しました。
BCPの取組は、当社の経営方針である「顧客満足度の向上」「社会への奉仕」にも合致すると考えています。当社は一般社団法人全国道路標識・標示業協会において東京都協会会長、関東支部支部長を務めていますが、全般的には防災に対する協会会員の認識がまだまだ低く、また会員の大半が中小企業であるため、人手やBCPへの取組時間が不足しており、震災対策の意識も低いのが現状です。今回、自社が率先してBCPを策定し、協会内で啓蒙を図っていきたいと思います。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
災害協定による迅速な対応が必要となる当社中核事業の交通安全事業をBCP策定の対象としました。
まず発災直後に、関東一円の施工現場にいる従業員の安否を迅速かつ確実に確認する方法を検討しました。安否確認後は、災害協定で当社が担当する状況確認が優先業務となりますので、そのための要員の確保手順と、施工中現場で担当者が行う埋戻し等の養生・保安業務手順を決めました。
現地に移動するための足である社用車を、安否確認や状況把握で使用するパソコンや携帯電話の充電用電源とするため、常に燃料を満タンにすることをルール化しました。
人員については半数が出社困難という状況を想定しましたが、協力会社グループによる業務支援を受けることとし、連絡網と情報収集のためのマニュアルを作成して業務の標準化を目指しました。当社拠点や機材が使用不能となりデータが破損した場合などにおける代替手段も整理し、グループ組織力の強化を図りました。
また、施工現場に立ち会える技術者は建設業法によりに規定されており、属人的になりがちなので、担当者の出社困難の場合にも、従来から複数名のチーム編成で対応するとともに、当社社員教育方針(ISO9001)に基づく有資格者の育成及び増員を図り、他の有資格者によって業務を代行できるようにします。
施工管理では多くの書類を作成しますが、それらの紛失に備えバックアップデータの保管ルールを定め、重要データは広島にある関係会社と相互にバックアップすることで災害後の早期再復旧を目指します。
対象事業 | 交通安全事業 |
---|---|
対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・安否確認が困難、社員の50%が出社困難 ・基地倉庫の半壊により、資機材の約半数が損壊 ・サーバ、データベースの破損 |
予防・低減策 | ・事務所内の書類棚の固定 ・機材基地の5S励行 ・防災マニュアル整備と訓練の実施 |
代替策 | ・協力会社グループとの連携による業務支援 ・広島の関係会社バックアップデータを用いた業務遂行 ・出社困難者に代わる他の有資格者による業務の代行 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
最初に集合研修で行った災害演習では、あまりに何もできていない実態に愕然となりました。その後、時間が限られた中で衆知を集めて策定を進めた甲斐があり、参加メンバー以外も含め、社員の防災意識がワンランク上がったと実感できました。プロジェクト期間中に行った本社の一部移転でも、策定中に学んだことを新オフィスのレイアウトや棚・機材の設置に反映できました。
まさしくゼロから自分たちの仕事や職場を見直した結果、全社員があらゆる技能や資格を習得し、一つの案件に複数名のチームで対応している平時の取組が、有事における代替策につながっていることに気付きました。また、発災後ただちに出動しなければならない災害協定への対応と、平時の交通安全事業業務等とを明確に整理することができました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
今回、道路標識・標示業協会において先陣を切る形でBCPを作成することができ、会社として大きな自信を持つことができました。取り組んで初めてわかることが多く、始める前は「面倒くさい」と思っていたものが「やるべき」に変わりました。今年に入り、協会の全国会議でもBCPという言葉が聞こえるようになりました。協会の各メンバーがそれぞれ取り組んでいくことで、協会のメリットにもつながると思います。
当社は従来から品質(ISO 9001)と環境(ISO 14001)を取得しておりますが、BCPについても、今後は作成しただけで終わらず、検討を継続していきたいと思います。