-事業内容を教えてください。
当社は、大正13年5月に創立してから今日にいたるまで、印刷紙器の設計から製函までの一貫体制のもと成長発展を続けてきた会社です。当社の強みは、一貫生産と地理的要素があげられます。都心から近いため顧客が製品を直に確認できること、変更が発生した際にも一貫体制のため誤版や誤型が生じにくく、短工期でレスポンス良く対応できる生産効率の良さにあります。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
主要顧客からBCPに関するアンケート調査を受けたことが、BCPを策定しようと思うきっかけになりました。当初は行政が提供しているガイドラインを参考にしたり、有料セミナーに参加したりして自力での策定を試みました。従業員の帰宅経路や緊急連絡網、取引先一覧などを整理したものの、事業継続策については正直何から手をつけていいかわからず、断片的なものにしかなりませんでした。またテンプレートを埋めただけでは実効性のあるものは作れないという実感をもちました。そんな折、組合から東京都BCP策定支援事業を紹介され、参加することを決意しました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
地震によって、完成品・仕掛品が破損、生産手配などを行う担当者が負傷、機械設備(印刷機等)が使用不可になり、原材料(紙・インキ)の仕入元や外注先の被災によって生産が止まり、当社事業を継続できなくなるという想定のもとに対策を検討しました。
当社の場合、「版」と「型」(それぞれデータと紙)さえ無事であれば、自社でも外注先でも生産を再開できるので、これらを守るためにサーバ等の落下防止策を講じるとともに、バックアップデータの保管場所、型の保管場所・保管方法を変更しました。
生産再開に当たっては売上比率の大きい顧客への納品・出荷を優先します。まず社員、機械設備、原材料の被災状況を定められた優先順位で確認し、自社内で対応可能か、外注先での対応が必要かを判断します。自社で対応可能な場合は、業務部門と研究部門をいち早く立ち上げ、タイムラインにもとづいて機械設備等の復旧を図ります。外注先で対応する場合には、型や版の移動準備に移ります。電力が復旧せず、版や型のデータが破損した場合でも、紙(図面)から生産を復旧できるよう手順を定めました。
生産手配の担当者が負傷した場合は、原価計算書を用いて他部門の人員が代行しますが、外注先・仕入先も被災した場合に備えて、代替先の情報を迅速に情報共有できるよう、ステークホルダー情報を再整理し、各担当の業務範囲にとどまっていた情報を関係部署相互で効率的に共有できる仕組みをつくりました。外注先については、組合を通じて関西などの企業と災害時における協力関係を構築中です。
対象事業 | 印刷紙器(設計から製函まで) |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 機械設備・OA機器の使用不可、電力ダウン ・ 生産手配担当者の負傷 ・ 外注先・仕入先の被災 |
予防・低減策 | ・PC・サーバ等の落下防止・レイアウト変更 ・ バックアップデータ保管場所の変更 ・ 型・版の保管場所・保管方法の変更 |
代替策 | ・ (データ破損時、電力のない状態での)紙による版の再設計 ・ 帳票類を用いた営業担当者による生産手配業務の代行 ・ 組合の紹介による、関東以外の外注先での代替生産 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
実質2か月程度でBCPを策定することができ、非常に早かったと思います。
プロジェクトメンバーの人選は今後の運用を考えて工夫を凝らしたつもりです。社長としてトップダウンで号令をかけ、皆で積極的に発言して具体的な行動に落としこんでくれましたが、話し合われた内容を文書にまとめ上げていく作業は事務局にとって容易ではなかったと思います。
自社だけでなく外注先や仕入先も被災する場合を想定することにより、自社事業全体を俯瞰してみる良い機会となりました。どの企業にも共通することですが、自社単独でビジネスを完結することはできません。外注先や仕入先においても、事業継続のための優先順位があることを考えれば、平時から協議しておくなどの協力関係を構築しておくことは改めて重要であると認識しました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
行政が提供しているガイドラインの雛形を埋めるだけでは、たとえBCPを策定できたとしても、文書を作ることが目的になってしまっていたと思います。今回の支援によって、災害時にも事業を継続できる実効性の高いBCPを策定することができました。しかし、現時点ではまだ絵に描いた餅と感じております。これから、全従業員が災害時にも主体的に行動できるように演習や教育に取り組んで、さらに実際に使えるものにしていきたいと思います。