-事業内容を教えてください。
当社は1901年に科学機器の製造・販売会社として創業しましたが、1950年代後半からは石油類品質試験器に特化した専門メーカーとして、産業界の技術水準向上に貢献してまいりました。
石油類の品質は、生産工程のみならず流通や消費の際にも確認試験されますので、世界中の石油関連施設で試験器は使用されます。当社は早くから実施頻度の高い品質試験の自動化を進め、JIS規格など国内外の標準制定委員会へ積極的に働きかけた結果、当社独自の自動試験法が標準として採用されるなど、その技術力を高く評価して頂いております。当社の技術を生かした代表機種「自動引火点試験器」等は、日本ほか世界70ヶ国のお客様にご使用いただいております。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
当社は業界のリーダーという立場上、社員、お客様ひいては世界の石油産業という基幹産業そのものに対する社会的責任の遂行を目指しております。しかし、東日本大震災では、製品の組立工程を委託している福島のパートナー会社が被災し、一時期製品の製造・出荷ができなくなり、お客様に多大なご迷惑をかけるという異常事態を体験しました。
2007年には、中小企業庁のBCP策定運用指針に則り、「事業継続計画」を自分一人で策定しましたが、社内へ展開しなかったため大事な時に活用ができませんでした。この経験を生かし実効性のあるBCP策定の為、東京都BCP策定支援事業に応募させていただきました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社は石油類品質試験器の専門メーカーですので、迷うことなく「石油類品質試験器の製造・販売」を重要事業と定めました。本事業では、見込生産方式を取り、仕掛り在庫を維持していることから、最終仕様調整を含めた受注から出荷までの一連の業務と、保守部品供給業務を重要業務と設定し、検討を開始しました。
これらの重要業務には、製品・部品出荷前の調整・検査及び出荷のための「技術者及び営業メンバー」、「温度計等の検査器具及び標準試薬」、「受注・出荷業務用データ保管用PC」などが必要と判明しました。
当社社屋は既に耐震化構造となっておりますので、被災は人(出社率30%)・設備(データ保管用PC破損)・製品/部品在庫(20%破損)などを中心に想定しました。
検討を進めるにつれ、組付工程を外部に委託し、見込生産方式を取っていることが当社のリスクを分散、低減してくれていることがわかってきました。
また、人に関しては生産部・営業部内でのチーム間クロストレーニングの推進で比較的容易に代替要員を確保でき、設備に関しては破損したPCの代わりに使えるPCを自社技術者がセットアップして代替使用するなどの対応が可能なことがわかりました。そのことから、特に重要な経営資源である”人”の安全確保及び”製品/部品在庫”に対して徹底した転倒防止策と飛散防止策を打つことにより、重要事業を継続しようと考えました。
対象事業 | 石油類品質試験器の製造・販売事業 |
---|---|
対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | 出社率30%、帰宅困難者70%、負傷率10% PC、データ保管用PC約半数落下・破損 製品・部品20%破損 |
予防・低減策 | 棚・キャビネット等の転倒防止、複合機・PC等の落下・暴走防止 温度計・試薬などの破損防止 製品・部品在庫の転倒・落下・飛散防止 |
代替策 | 部門間のクロストレーニングの推進による代替要員対応 データ保管用PCの代替使用 パートナー会社協力のもと一部破損製品の早期修理による出荷対応 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
BCPの検討を進めるに従い、製造工程を福島のパートナー会社に委託していることが、逆にリスク分散になっていることに気付き、当社としては“人”を重点としたBCPを策定することが出来ました。反面、そのパートナー会社は非常に重要な経営資源であり、東日本大震災時の苦い経験もありますので、その際の対応策を軸にした、パートナー会社と連携したBCP策定の必要性を痛感しており、これは次ステップでの課題としました。
また、東日本大震災の際、多くの製油所の試験設備が被災し、石油があっても試験ができないために出荷できないという事態に陥り、当社の試験器類を貸し出したことがありました。今回のミーティングの中で、東京湾北部地震による湾岸のコンビナートの被災を想定した時に、当社が果たすべき役割などを考え、その責任の重大さを改めて認識し気を引き締めております。
-BCPを策定した感想をお願いします。
非常に盛りだくさんの内容で、宿題も多く大変でしたが、提供いただいたツールが良かったのと、事務局及びプロジェクトメンバーが頑張ってくれたおかげで何とか完成することができました。大変感謝しております。また、社員が東日本大震災を経験していたこと、被災による事業の混乱から立ち直った後だったことなど、タイミングも非常に良かったと思います。
この勢いを活かし、福島のパートナー会社ともども、より実効性の高いBCPにしていくことにより、当社の社会的責任を果たし、産業界に貢献し続けたいと考えております。