-事業内容を教えてください。
当社は1950年の創業以来、「技術立社」の企業精神のもとに、電気絶縁塗料というニッチ分野に特化し、各種エレクトロニクス分野の発展を支えてきました。世界的にも専業メーカーは当社だけで、主力製品はマグネット・ワイヤ(エナメル線)用の絶縁塗料でモーターなどのコイル用電線を製造している全国の電線メーカーに納品しています。その製品ラインアップの充実と品質は、国内のみならず、海外からも高い評価をいただいており、国内35%のシェア、海外16%のシェアを獲得し、生産拠点を、国内1か所と海外3か所に展開しております。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
東日本大震災以降、BCPに対する顧客からの要求、監査、問合せが増えたことを契機に、海外の子会社を含めたグループ全体として供給責任を果たしていきたいと考えています。グループ全体のBCPの足掛かりを作るためにも、まずは、国内のBCPを策定したいと思い、東京都BCP策定支援事業に参加しました。
また、当社は創立から63期を迎え、新任役員を含めて経営体制を見直しました。この新しい経営体制でBCPに取り組むことで、幹部の育成にも役立つものと期待しております。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
対象事業としては、顧客からの早期復旧ニーズが高いエナメルワニス事業を選び、その中でも自動車用途の塗料をBCPの対象としました。有事においては研究開発以外の一連の工程を優先的に復旧します。
これらの業務には生産設備や検査設備、基幹システム等が必須になりますが、震度6強の地震発生によって、原料タンクの亀裂・液漏れ、生産設備の計測装置故障、サーバの破損によるシステム停止、電力の7日間停止等の被害を想定し、実施可能な対策案を討議しました。
設備が破損しても在庫品の出荷は可能であることから、はじめに受注業務を立ち上げることにしました。受注や生産計画の見直しに必要なシステムは、バックアップデータを工場に保管しておき、工場で予備のシステムを稼働させて仮復旧させ、それまでは手書きによる対応を行います。生産設備の計測装置については、自社での調整を行い仮復旧での生産再開を目指します。原料タンクが破損した場合、液漏れによる二次災害が想定されるので、緊急抜き取りを行い、事故を防止します。
また、材料や製品の品質検査は生産工程において欠かせないものです。使用する検査設備が破損した場合は、他部署所有機器での検査、または被災していない子会社への検査委託で代替することにしました。
これらの活動に必要な照明やサーバ稼働、携帯電話充電等のために、既に導入している生産設備用自家発電機に加えて、施設用自家発電装置の導入も検討しました。
対象事業 | エナメルワニス事業(自動車用途の塗料) |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 計量装置破損、原料タンクに亀裂・液漏れ発生 ・ 検査機器の倒壊、破損 ・ 情報システムの停止 |
予防・低減策 | ・ 自社修理技術の強化 ・ 検査機器の固定・転倒防止 ・ データの他拠点バックアップと予備サーバ準備 |
代替策 | ・ 自社にて応急処置し、使用可能な設備を用いて部分再開 ・ 他部署所有機器での試験、または子会社への試験委託 ・ 工場の予備サーバにバックアップデータをリストアし仮復旧 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
これまでは、中期計画の中で、社員の育成、設備の故障など突発的な状況に対する対応をどのように行うかを検討してきましたが、今回BCP策定の取組をすることで、具体的な災害と被災状況を想定した上で、どのように経営判断を行っていくかを検討したことで、自社がどのように社員を育てていきたいのか、何を守らなければいけないのかを明確にできたと思います。
BCPの観点からも社内の安全衛生委員会により巡視を行った結果、材料や製品の落下や他にも多くの危険な個所が発見され、社員の危機意識向上に大変役立ちました。
また、利害関係者の分析では、競合他社が当社製品とは別の塗料を顧客に供給できない場合、顧客の生産はその塗料がないと停止してしまい、結果的に当社への製品も納品できなくなることがわかりました。私が理事を務めている電気機能材料工業会の取組としてもBCPを考えていく必要があると気付きました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
最初はそれぞれの部署が一生懸命取り組めば何とかなると思っていましたが、実際に検討を進めると、一つの業務が再開しないと他部署の業務が再開できないなど、部署間の連携が必要だと改めて考えさせられました。業務と経営資源の関係が整理され、幹部の育成にも役立ったと思います。
今回BCPの対象として選択した製品は、グローバルに生産される自動車用途の製品であり、決して国内だけの問題ではありません。今後は、日本で生産できない場合でも、事業継続できるよう、特殊な装置をグローバルに分散し、海外子会社との協力関係強化など対応を拡大していきたいと思います。