-事業内容を教えてください。
昭和10年の創業以来、主に商業印刷分野のプロフェッショナルとしてお客様の高い評価と信頼を頂いております。当社は「印刷を核としたコミュニケーションサポート事業」を企業理念としており、ITを中心とする技術革新が進みコミュニケーションスタイルが大きく変化する中、その流れを捉え、印刷物に限らず3DCGの制作等様々なコミュニケーションサポートを提供し、お客様の問題解決を図っております。
最近では、効果的なデザインの提案力、高い品質が求められる中、長年培ってきた表現力やノウハウ等での強みを活かし、社名にあるとおり美術印刷にも力を入れております。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
当社は、外資系企業のお客様も多く、以前から災害対応についての照会を受けることがありましたが、これまでは自信を持ってお答えすることができずにいました。また、東日本大震災では、20人ほどの社員が帰宅困難となり本社ビルに泊まりましたが、備蓄品の用意をしていなかったため、急遽、食糧や水などを買いに走ることになりました。
こうした経験から、BCPを策定し、有事の際にも社員や設備を守り、同時にお客様への義務を果たしたいという気持ちが強くなりました。印刷業は日頃から業界内の横のつながりが強く、東京都BCP策定支援事業は昨年度の参加企業から薦めていただきました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
お客様からのBCP策定要求が高く、売上の9割超を占める印刷事業を対象とし、特に平時から短納期での対応が求められる東京本社のデジタル印刷を早期再開、次いで埼玉工場のオフセット印刷を再開することを目指しました。
震度6強の首都直下型地震で、人員の出社困難、東京本社の印刷設備が故障、埼玉工場の印刷設備は不調、ファイルサーバの破損により印刷データの使用不可という想定をしました。
これに対して、既に受注している確定案件の印刷・出荷を確実に行うための重要な業務として、生産計画見直しから印刷、加工、出荷、請求明細作成までを優先して復旧するための対策を検討しました。
デジタル印刷は埼玉工場にも予備設備があり、東京での再開が難しい場合は埼玉工場にデータを転送して、一時的に工場で対応します。また、印刷データはクラウド上にバックアップしておいたものを利用します。
印刷機械は通電後すぐに修理や保守ができるよう、依頼体制を整備します。修理に時間を要する場合には、被災していない協力会社に外注することにしました。通常業務でも印刷、加工、製本等、多くの協力会社に外注をしていますが、近隣の協力会社は同様に被災すると考えられるので、平時より地方の協力会社との連携を図るように決めました。
対象事業 | 印刷事業(デジタル印刷、オフセット印刷) |
---|---|
対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 印刷・加工機械の故障 ・ ファイルサーバの故障による印刷用データの使用不可 ・ 電力の3日間停止 |
予防・低減策 | ・ 機械の固定(主に本社設備で固定が可能なもの) ・ サーバへの免震対策 ・ 資材の複数調達先への分散発注及び在庫量見直し |
代替策 | ・ 他地域の協力会社への印刷・加工外注 ・ クラウド上のバックアップデータの利用 ・ 簡易型発電機又は蓄電池を使用し、携帯電話、PCを起動、業務継続 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
プロジェクトメンバーが16人と多く、本来の業務との時間調整が大変でした。作成する資料も多く、部署が多いので、その取りまとめや情報収集で事務局の負担は大きかったと思います。しかしその苦労を重ね、皆で検討する中で、部門間の業務の連携がどのようになっているかを、各自がより明確に理解できるようになったと思います。
BCP策定したことで、業務の優先付けや経営改善の考え方の道筋が明確となった点も良かったです。毎回のセッションでは長時間、集中して討議を行い、時間を延長して討議を続けることもありました。体力的には厳しかったですが、毎回、その日決めるべき内容は必ずその日のうちに決め、合意書に明記し共有するというプロセスはとても参考になりました。今後、社内のプロジェクトにも多いに活用したいです。
-BCPを策定した感想をお願いします。
各自の業務を継続するという意識や責任感が高まったこと、人員を含めて経営資源の見直しができたことが、大変良かったです。これまでは、ここまで細分して資源を分類してはいませんでした。デザイナー等スキルが分かれており難しい部分もありますが、今後、部署間の相互バックアップを図り、有事において迅速に対応できる体制を整備したいです。
私が支部代表を務めている東京都印刷工業組合千代田支部は千代田区と災害協定を締結しており、有事の際には帰宅困難者の受入、輸送機器や物資の提供という形で地域貢献、社会貢献が求められています。支部代表としてこうした取組に積極的に関わるためには、まず自社が立ち上がる必要があります。BCPを策定したことでその基盤づくりもできたと自負しています。
当社は既に品質、環境、Pマークのマネジメントシステムを運用していますが、社会的責任(CSR)という観点から今後BCPも含めて統合することを視野に入れて運用していきたいと思います。