-事業内容を教えてください。
当社は、50年前に創業され、アルミニウム合金や亜鉛合金によるダイカスト製品の製造をしてきました。ダイカストの強くて軽く精度の高い特性を評価いただき、自動車部品をはじめ、電動工具や映像機器、自転車変速機など精密機器にご利用いただいています。当社のダイカスト鋳造事業は、真空鋳込みをはじめ技術と機械・材料にこだわり、ISO取得などを通じ、その品質の精度を保つよう努めております。
企画開発力が当社の強みで、材料開発から生産技術にわたる細部をお客様と共に検討しながら、図面作成や金型製造及び鋳造等の一連の工程を進め、お客様の求める品質、価格、納期に応えられる精密加工部品を生産しています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
東日本大震災以降、売上げの35%を占める自動車メーカー様から事業継続に関する詳細な対策をたてておくことを要求されています。これをきっかけに、顧客やメーカーを限定せずに当社としてのBCPを策定しようと考え、東京都支援事業に応募しました。
地震への対策を取ることを考えておりますが、練馬本社は住宅密集地ではなく比較的安全な立地にあり、生産工場の秩父事業所は、硬い岩盤の上に建設されており地盤的に安定しているため、壊滅的なダメージを受けることはないと考えております。
取組の目的は、まず、社員の安全と生命を守ること。そして、QCD(品質、価格、納品)の要求に応えるため、協業する加工外注先と連携してお客様への品物の流れを止めないようにすることです。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
BCPの対象事業は、当社の企業活動そのものであるダイカスト製造とし、顧客対応とその製造工程をいち早く復旧するための対策を検討しました。
事業継続策の検討では、本社と工場と協力工場の「距離」と、当社業務の後工程として外注先にて要する「時間」に着目しました。一つの製品が、どこの拠点でどのような被害を受けたかによって、遡らなければならない工程と部材などの物流にかかる時間に大きく影響し、各拠点の業務の優先順位に大きく関わってくるからです。
まず、発災後、外出している営業と本社・事業所の従業員の安否確認・報告手順を定め、人員への被害状況を把握します。出社可能な社員による緊急対応体制をとり、工場施設・設備と顧客や加工外注先の被害状況の情報を迅速かつ正確に入手します。その上で、受注製品の納品日と工程進捗状況、顧客・加工外注先の状況を加味した新たな生産計画の作成を行います。
そのための緊急連絡先と情報収集質問リストを作成し、情報収集のための担当振分け、コミュニケーションツールである携帯電話の充電やPCと本社サーバ用の自家発電機の購入を決めました。また、工場施設・設備の損壊に対しては、修理業者と連絡がとれない時のために平時より社員による修復技術を強化し、社内で修理を進め、通電後の生産再開に備えます。
検討の結果を受けて、練馬本社と秩父事業所のそれぞれが何を守れば良いのか、何をすれば良いのかを明確にし、各部署の電気がなくてもできることと通電後に行う事に切り分けた事業継続策を決定していきました。
対象事業 | ダイカスト鋳造事業 |
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対象リスク | 地震 |
被災シナリオ | ・ 本社1名負傷、工場15名出社困難 ・ 鋳造、溶解設備、加工機の損傷 ・ 社内ITインフラの損傷 |
予防・低減策 | ・ 工場構内を整理・整頓 ・ 自家発電機、備蓄品整備 ・ サーバとデータベースの他拠点バックアップ |
代替策 | ・ 出社可能な社員による緊急対応体制 ・ 設備・機械の修復技術の強化による自社復旧 ・ 迅速な製造工程状況の把握による、工場での生産計画の更新 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
秩父事業所は地盤が安定しており地震の心配が少ないだけに被害想定のレベル設定にまず苦労しましたが、現場点検を改めて行うことで、工場内に潜む従業員が負傷する危険性に気付きました。
また、予防・低減対策のお金のかけ方の基準や対策範囲の設定が難しく、メンバーで検討を重ねながら必要な機材を調べました。転倒防止具や備蓄品に加え、二次被災の可能性も踏まえ線量計の購入も年間運用計画に織り込みました。
はじめは、慣れない資料作成に苦労しましたが、文書化を通じて課題が明らかになり、さらに深くBCPを検討することができました。ただ、従業員や協力工場など体制や状況は常に変わってゆくので、今後も引き続き情報の更新、対策の検討をしなければならないと思っています。
-BCPを策定した感想をお願いします。
コンサルタントとの正味5回のセッションで作成する取組を、最初は軽く考えていましたが短い時間で中身の濃い検討ができました。
プロジェクトメンバー全員で深く検討し、実効性の高いものができたと感じております。これからは取引先から問合せがあっても、「BCP策定済みです」と回答することができます。実際、プロジェクトの期間中に取引先との会話で、今回のプロジェクトを喜んでいただき、大変話が弾みました。