-事業内容を教えてください。
当社は発泡スチロールから作る模型を使用した銑鉄鋳物業を行っています。主な製品は、自動車用プレス金型と工作機械等のベッドやベースに使われる鋳物の二つに大別されています。
発泡模型による製法は、従来の木型による鋳物製造に比べ低コストで加工時間も少なく、複雑な形状にも対応できるという特徴があります。しかし、高い技術力が必要とされるため、全国で限られた数の企業しかこの製法を採用しておりません。この高度で希少な技術力が当社の強みとなっています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
以前から地震に対する危機感を持っていました。特に、東日本大震災における同業者の被災事例を、日本鋳造協会のセミナーで聞いて危機感が高まりました。
当社の場合、もし銑鉄を溶かしている最中に停電が起きて冷却水が循環しなくなると、最悪の場合は電気炉内で溶けた鉄が固まってしまいます。その時には、屋根を壊してクレーンで電気炉を持ち上げて交換しなければならなくなります。また、都市ガスが止まると耐熱コーティングの模型乾燥ができず、鋳物製造がストップしてしまいます。
このような操業停止にまで至るような事態を避けるために、BCPの必要性を強く感じ、今回取り組むことにしました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
鋳物製造をBCPの対象としました。当社の製品は、種類を問わず製造工程も重要な経営資源もほぼ同じため全製品を対象にしました。
当事業の特徴として、比較的競合が少なく、顧客への納品期日はあるものの当社の鋳物から最終的な商品が完成するまでには1年以上かかります。本格的な復旧は、インフラの回復を待つことができるため、今回の対策は緊急対応の検討に焦点をあて進めました。
鋳物の製造工程は、まず発泡模型をつくり耐熱コーティングをします。それに砂をまぶし、固めて鋳型をつくります。その鋳型に鉄を流し込み、鋳物を取り出し、出荷という流れになります。この工程を支える経営資源の中で特に大切なものは設備と電気、水道などの社会インフラです。大型の設備・装置はある程度強度があり、中小型のものは社内で修理ができるため、特に社会インフラの停止に対しての対策を考えました。
まず、停電に対しては電気炉を傾動するためのエンジンポンプによる緊急処理策を検討し、その具体的対応を含めた社員講習を電気炉メーカーに依頼して行うことにしました。上水道が停止することで発生する冷却水の補充には、貯水槽からの補給方法を検討しました。さらに、都市ガスの停止には、灯油を使用するジェットヒーターを購入し仕掛品の鋳物製造を継続し、万が一にでも突然の停止による事故が起こらないようにしました。
そのほか、重量物や薬品など危険物の多い社内を点検して、機材の転倒や落下を防止するための対策や避難通路の確保等の対策を決定したり、原料や副資材の代替供給元の確保を進めたりすることにしました。
対象事業 | 発泡模型による鋳物製造 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 昼勤・夜勤者とも出社中の火曜日の朝礼直後に発災 ・ クレーン、コンプレッサー、ミキサー等設備の一部破損 ・ 電気は6日、上水道は30日、都市ガスは50日間の供給停止 |
予防・低減策 | ・ 事務所・工場内の落下・転倒防止 ・ 電気炉冷却水の老朽管の交換 ・ 電気炉内コイル、砂再生系のベルトなど予備品の在庫確保 |
代替策 | ・ 灯油燃料のジェットヒーターによる塗型乾燥 ・ 貯水槽からの緊急時ポンプ使用による電気炉冷却水の補充 ・ タンクから砂を送るために、予備のコンプレッサーを使用 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
事前の予防策や低減対策が大切で、転倒防止や備蓄、サプライヤーとの日頃からの良好な協力関係が、いざというときの事業継続につながることに気付くことができました。
また、平時からメンテナンスや修理を社内で行っているため、設備メーカーのサポートが期待できない緊急時にも社内で対応できそうだとか、自転車・バイク通勤者が多いので発災時にも出勤可能な社員が多いとか、当社の強みが多くあるということを再確認できたのが嬉しい気付きでした。
一方、当社は京浜島に立地しているため、社会インフラの復旧に時間がかかるという想定をせざるを得ませんでした。電気、上水道、都市ガスのどれか一つが欠けても鋳物を製造できないため、代替策の検討に大変苦労しました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
今回のプロジェクトを通して、当社の事業や経営資源についてメンバー全員が一生懸命に考えたということが、大きな財産になって今後に役立っていくと思います。
BCPプロジェクトのメンバーは、これから会社の中心となっていってほしい人たちです。ISO9001のQMS活動と同調しながらBCPの施策を具現化し、当社の発展につなげていってほしいと感じています。