-事業内容を教えてください。
当社は、石油化学や電気・電子、塗料・インキ、食品等のメーカーに、化学工業薬品と食用油脂、資材等を販売している卸売商社です。1965年の創業以来50年近くの間に培った仕入先や得意先との人脈を活かしながら、得意先の商品開発の段階から積極的に提案活動を行って受注に結び付けています。
従業員数が10名にも満たない小さな会社の利点を活かし、大手商社よりも小回りを利かして仕入先に深く入り込み、そこで得た商品の特徴や有用性をいち早く得意先に伝え、商品の拡販や新たなユーザー、ニーズを開拓していくことが当社の役割だと考えています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
数年前からある得意先との契約時に、新型インフルエンザに対するBCPの提出が義務付けられました。そのため、自治体の資料等を参考に、新型インフルエンザと地震を想定したBCPを自社で策定しましたが、実効力のあるBCPになっていないと感じていました。
そんな折、東日本大震災後すぐに、当社が商品を納めているある食品会社が生産したビスケットを、自衛隊が被災地に運んで被災者の支援に役立てているという話を聞き、当社の供給責任とBCPの必要性を再認識しました。また、東日本大震災では社外にいる営業担当と夜中まで連絡がつけられず、大変心配しました。このような経験が、今回の取組のきっかけとなっています。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社は、化学工業薬品と食用油脂の卸売という単一事業体であり、卸売商社としては受発注業務が根幹機能ですから、重要事業や重要業務の選択に悩むことはありませんでした。
得意先から見た当社の存在意義は、得意先が必要とする商品の注文を確実に受け、仕入先との強固な関係に基づいて、注文された通りの納期と数量で商品を納品するということにあります。大災害が発生したときでも、その機能を3日以内に復旧させなければ、商社としての供給責任を果たせないと考えました。
そこで、平時は受発注業務のすべてを担っている事務部の社員が被災・出社困難になることを想定し、会社に徒歩または自転車で通勤できる範囲に住む営業部の社員が受発注業務をこなせるように受発注マニュアルを整備・訓練し、発災時にも業務を遂行することを対策の一つとして決めました。
また、仕入先が被災し商品を出荷できなくなることを想定し、平時から重要販売品目のサプライチェーンの確認と分散在庫の依頼、他社同等品の探索、仕入先担当者との緊急連絡方法の確立、非常用関連物資の優先出荷の依頼などを行うことを決めました。
対象事業 | 化学工業薬品・食用油脂の卸売事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 社員の出社困難 ・ 仕入先メーカーの被災による出荷停止及び稼働率低下 ・ 社内外のITインフラ・設備の損傷 |
予防・低減策 | ・ 受発注マニュアルの整備と営業部員への訓練 ・ 仕入先へのサプライチェーンの確認と分散在庫・他社同等品の検討の依頼 ・ システム・データのバックアップの実行と落下・転倒防止策の実施 |
代替策 | ・ 徒歩・自転車での出社可能な営業部員による受発注業務遂行 ・ 顧客への他社同等品への切り替えの依頼または同業他社への優先出荷の依頼 ・ 携帯電話・PHS、ポケットWiFiで取引先との連絡手段を確保し受発注業務を遂行 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
当社の事業での重要業務は受発注業務しかないため、当初はマニュアルさえできていればいいという気持ちでいました。しかし、実際にBCPを作り始めてみると、受発注という単純に見える作業でも様々な被害が想定され、それに対しての事前対策や代替策をいろいろと考えなければならず苦労しました。
また、以前に自社で作ったBCPでは、災害対策の面だけしか見ておらず、商社としてやるべき事業継続の面が薄かったと感じました。仕入先との連携や、受発注業務を行うために必要な通信手段の確保等、まだまだこれから実施していかなければならないことが明確になり、行動目標をたてられたことが、一番のポイントであったと思います。
-BCPを策定した感想をお願いします。
全体としては、一本筋の通った、機能するBCPができ上がって良かったと感じています。
最終日に行った演習では、現状でできていること、まだこれから取り組まなければならないことがはっきりとしました。今後の日常業務に課題を落とし込んで、BCPをさらに自社のものとしていきたいと思っています。また、自社のメンバーがリストの作成や文書の修正等に自主的に取り組んでくれたのも大きな収穫でした。BCP策定が自社を強くし、そして他社との差別化にもつながっていくのではないかと期待しています。