-事業内容を教えてください。
当社は1917年(大正6年)に芳澤鉛管製造所として創業しました。当初は鉛加工品を供給しておりましたが、その後化学プラント遮蔽設備の設計、製作施工へ業容の拡大を図ってまいりました。
近年は、ニーズの広がりと共にX線・放射線の遮蔽を主体に医療関連・半導体・ 液晶装置・電子線照射装置等、X線検査装置以外の用途にも事業を展開してきました。1981年よりその役割をグループ会社に譲り、会社の形態を持株会社として、子会社管理と弊社所有施設(本社ビル、柏倉庫、柏・大東・名古屋工場)を活かした不動産賃貸業を行っております。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
これまでにもグループ会社を含めて、インフルエンザの予防対策や有事の際の従業員とその家族も含めた安否確認訓練や防災訓練などは実施していました。しかし、グループ会社の経営陣と弊社で行っていた会議中に発生した東日本大震災の時は、電話の輻輳や公共交通機関の停止など想定外のことが重なり、期待していたレベルの対応ができませんでした。
当社のグループ会社全体で、鉛板販売量のシェアは業界の中で大きな地位を占めています。そのため、弊社を含めたグループ会社の被災は、お客様に多大なる影響を与えてしまうことは容易に推察できます。また、不動産賃貸業においても、当社の施設が使用不能になるとテナント企業の事業継続に支障をきたします。そのため、早期復旧を実現する体制を構築する責任を強く感じており、東京都BCP策定支援事業に参加することを決めました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
今回は地震を想定し、子会社管理と不動産賃貸の両事業を対象に検討しました。
子会社管理では、グループ会社の取引先への支払い、支払手形発行、税金管理等の資金管理をします。すべての業務を洗い出し検討した結果、業務遅延の影響が大きい支払手形発行、子会社資金繰り等の業務を3日で復旧することに決めました。
停電のため情報機器が使用できないことを想定し、月次明細や請求書などの文書ファイルを印刷しておいてバックアップとして活用することにし、必要な経営資源を絞り込んでいきました。その結果、他の事業所を代替拠点とする際に、持ち出すべき帳票類と通帳・印鑑など重要物が明確になりました。不動産事業においては発災後、当社の施設の被災状況を正確に把握するため、まず各管理会社に診断を依頼します。正確な被害状況を把握したうえで、復旧工程表を作成してもらい、テナント向けに説明会を実施します。また、状況によっては管理会社を通さずに各設備会社に直接修理を依頼することも検討し、そのための、管理会社、テナント、設備会社の緊急連絡先リストを作成しました。さらに、簡易トイレや一部備蓄品の供給、避難所や緊急病院の案内など施設オーナーとしてできることを洗い出しました。
不動産賃貸業務と、子会社管理業務の一部の担当者に業務が集中しており、その社員が被災した際には、業務が停止する可能性が高いことがわかりました。そのため、業務手順マニュアルを作成して災害時には対応していくことに決めました。
対象事業 | 不動産管理業・子会社管理 |
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対象リスク | 地震 |
被災シナリオ | ・ ビル施設内のインフラ停止及び破損 ・ 従業員の被災及び通勤不可 ・ 情報機器の破損、使用不可 |
予防・低減策 | ・ 自社所有施設の建物耐震診断及び補強 ・ 重要書類等の金庫保管 ・ 情報機器の固定、レイアウト変更 |
代替策 | ・ 各設備機器会社への修繕直接依頼(管理会社被災時) ・ 代替要員による対応(子会社からの派遣及び業務手順マニュアル対応) ・ 印刷保管しておいた月次の明細等紙文書の代替使用 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
経営資源と業務内容を細かく洗い出し、相関関係を整理していく作業は大変でした。自分達が思っていた以上に、社内や外注先に確認し検討しなくてはならない項目が多くありました。また、平常業務に加えて新たなプロジェクトを進めるに当たり、計5回のミーティングやその前後の作業内容の確認時間など、メンバーのスケジュール確保に苦労しました。
また、限られた期間内に策定しなければならず、早いペースに感じましたが、全5回という数少ないミーティングで要点を洗い出し情報を集約する方法は、平時の業務にとって非常に参考になりました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
自社でも防災計画を中心に対策を講じてきましたが、今回の支援事業を通じて、今までの安否確認の方法や経営資源の洗い出しでは不十分であったと改めて感じました。代替の効かない一部の情報資産などは、自分達だけでは気付くことができなかったと思います。詳細に検討を重ねていくことで、漠然としていたことが明確になり、非常時においても機能すると思えるBCPに仕上がったと思います。
当社にとってBCPは直接売上に貢献することはありませんが、事業の継続は雇用の継続につながり、ひいては従業員の安定した生活を維持することを意味します。大切な従業員にこの取組を会社として行うことを理解してもらい、会社に対する愛社精神を高めてもらう事ができたのは一番の収穫でした。