-事業内容を教えてください。
当会計事務所は、1993年設立以来、会計・税務、財務に関する専門性の高いコンサルティング・サービスを提供し、社員の約半数の60名以上が、公認会計士、税理士、司法書士等の資格を持つプロフェッショナル集団です。
証券化などの仕組を利用して資金調達を行う新しい金融商品を開発し、資金調達者と銀行や投資家等の資金提供者を仲介するストラクチャード・ファイナンス事業を主力事業としております。現在では、数千の案件を担当し地方銀行の資産残高レベルの預かり資産から生ずる資金業務処理をしており、この分野においては国内のパイオニア的存在となっています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
東日本大震災の時、当社では多くの帰宅困難者を抱え、社員の統制を取ることができませんでした。
多額の資金を管理する私どもの業務が滞り、継続できなくなれば、関係先に多大なご迷惑をおかけすることになります。金融仲介機能の一翼を任う関係上、発災後に新たに対応策を検討することは極めて困難であり、事前準備の重要性を痛感いたしました。
そこで東京都主催のBCP策定研修(OneDayセミナー)に参加し、その後、社内でBCP策定に取り組みましたが、納得のゆくものができず、今回、東京都の事業に参加しました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
社会的責任及び売り上げ構成比からみて、当事務所の主力事業であるストラクチャード・ファイナンスをBCP対象事業とし、その事業の中でも社会的インパクトの大きい資金決済業務に焦点をあてました。
当初、「大阪での代替事務所の立ち上げありき」でスタートしましたが、検討が進む中で、長期間の準備と多額のコストが必要になることがわかってきました。そこで、再度、東京都の新たな被災想定や取引先の銀行のBCPを確認し、各種BCPの第一歩としてより現実的な東京事務所で業務を継続する計画を取りまとめる方向に転換しました。
対象業務として資金決済業務には、まず資金決済権を持つ担当者からの決済指示とその指示詳細内容を記したDB情報、実際に銀行に振込みに行く当社の振込担当者、そして印鑑や通帳などが必要不可欠となります。
これに対して、発災時に資金決済権を持つ担当者と連絡が取れなくなるというリスクには、期中管理業務を計画的に前倒しして処理することで、万が一の時に時間的な幅を持てないかを軸に考えました。そして、ITシステムは、ノートPCへのバックアップと蓄電池の購入を行い、当社の振込担当者と通帳・印鑑などは、平時取引している銀行と緊急時対応策のあり方を予め交渉しておくことを検討していきました。
対象事業 | ストラクチャード・ファイナンス事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 社長、システム責任者、資金決済業務責任者不在時に発災 ・ 停電によりシステム使用不可 ・ 資金決済指図者の3~4割と連絡取れず |
予防・低減策 | ・ サーバとデータベースのノートPCによるバックアップ ・ 緊急時の資金振込み業務についての銀行との事前協議 ・ 平時からの期中管理業務の計画的な前倒し処理 |
代替策 | ・ 安否確認システムの利用 ・ ノートPCとポケットWiFiによるデータ処理 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
今回策定していく中で、非常時にはいかに社員の安全を守りながら、いかに事業継続のための指示を出すかという、トップマネジメントの判断力・責任の重さを痛感しました。
これまでは、資金決済においては、何があっても絶対に止めてはならないという切迫感だけがあり、具体的な時間の指標などは持っていませんでした。しかし、今回、日銀が市中銀行を対象として行ったBCPに対するアンケート調査結果を参考に、目標復旧時間が定めて対策を取ることにしたことで、より自社の業務に対して客観的な見地を取り入れることができました。
また、業務の棚卸しをし、その影響度を分析するなかから、一種の副産物なのですが、業務処理期間の短縮など、かえって今後取り組む業務改善の課題が明確になってと思います。
-BCPを策定した感想をお願いします。
防災計画は、以前より作成していましたが、今回の策定作業で、防災計画もシームレスにBCPに取り込むことができました。もう少し検討する時間が欲しかったというのが率直な感想ですが、反面、集中して作業を進めることができました。
今回BCPの対象とした事業は、急速に業績が拡大したこともあり、業務の標準化や改善の余地があることも認識できました。その結果、全体としては、社員相互の日常の業務改善にもつながるBCPを策定することができたと思います。次のステップとしては、災害時にコアとなる社員へのBCPの早期定着が重要だと思います。