コンサルタントコラム

祖母が昔飛んだ

2018年09月12日

コンサルタント

高橋 篤史

コンサルタント 高橋 篤史

私には子供の頃大好きだった祖母がおりました。
年に1回程度、親の帰省に同行した折に会うくらいでしたが、詩吟や盤景(小規模なジオラマのようなもので、水盤の上に自然の景色のミニチュアをつくるという伝統芸術)の師範をしているような趣味人で、子供心にも大いにあこがれた存在でした。
祖母は会う度にいつもとても面白い話を聞かせてくれましたので、年1回の帰省を
いつも楽しみにしておりました。今回はその中でも強烈な印象を持って忘れられない
エピソードをご紹介したいと思います。

「世の中には不思議なことがあるんだよ」
と言って語り始めたのは、祖母がまだ小学生の頃の話でした。
ある冬のよく晴れた日、祖母は家人の言いつけで、隣町まで買い物に向かっていました。
隣町までは大きな池を迂回しなければならないのですが、直線距離で行けばかなりの
距離を稼ぐことができます。池が凍っていればその上を渡って近道ができるのですが
当然ながらそれは禁じられていました。
当時、池は完全に凍結しており、確実に渡れると判断した祖母は氷の上を歩くことにしました。
ところが池の半ばまで来た頃、足元が怪しくなり、ほどなくして氷に亀裂が入りました。
「戻らなければ」と思う間もなく、あっけなく氷が割れ、みるみるうちに沈んでいきました。
もがけばもがくほど、事態は悪くなり、あっという間に下半身が池の水に飲み込まれます。
あまりの冷たさに「もうだめだ」と思い意識が薄れつつあったその瞬間、
祖母は自分の部屋で濡れた着物を絞っている自分に気づいたのです。
部屋の前を通りがかった家人に「あら?いつ戻ったの?」と問われ、時計を見ると、
池に落ちた時点とほぼ同時刻であったといいます。
混乱していたため家人への説明は何とかごまかして逃れました。

そして同じ年の冬。天候は猛吹雪です。
祖母はいつもの通学ルートを一人で登校中でした。吹雪のせいで道は吹き溜まりとなり
非常に歩きにくいため、通行厳禁となっている線路の上を歩くことにしました。
ひたすら下を見ながら歩くこと数十分。雪と風の音で周りの状況がほとんど認識できなかった
のですが、ふと予感がして振り向くと、すぐ背後に猛スピードで黒い列車が迫っていたのです。
「今度こそもう終わりだ」
と観念した瞬間、気付けば自宅の部屋に立ち尽くしていました。

これが祖母の「不思議な話」です。
この話を聞いた当時、世は超能力ブームでしたので、私は学校に行くなり、会う友達全員に
この話を触れ回って歩きました。さぞかしみんな驚き、面白がってくれるだろうと思い、
一気にまくしたてたのですが、ほとんどが「夢でもみてたんだろう」と、素っ気ない反応で、
中には「お前のおばあさん、よくよく決まりを破るのが得意なんだな」
という者もおり、かなり拍子抜けした覚えがあります。

この時私が得た教訓は「自らの経験を伴わない話は伝わらない」ということです。
語彙の少ない子供なので表現が稚拙だったこともあるかもしれませんが、
聞く側の立場とすれば
「せいぜいいたずら好きのおばあさんにかつがれたんだろう」と思うことでしょう。
ところが祖母は決して、作り話で子供を騙して喜ぶような人ではなく、むしろ間違っても
嘘をつく事はありません。少女に戻ったような眼差しで語ってくれたので、私も真剣に
聞き入ったのです。
しかし、これを人に伝えるというのが非常に難しい。ましてや、ともすれば都市伝説にでも
なりそうな超自然現象がテーマです。
むしろ理解し、共感しろという方に無理があるのかもしれません。

コンサルタントという仕事の大きな役割の一つに「伝える」ということがあります。
ワークショップやセミナーで皆さんの前で話をする機会が多くありますが、
「今回、言いたかったことは十分伝わっただろうか」という反省は大なり小なり毎回あります。
特に「大災害が発生した時の対応」など経験もしていないのに、見てきたようなことを喋るわけです。
もちろん多くの証言や記録映像、データに基づいて自分なりに脚色をするのですが、
所詮は「また聞き」なのです。

これに反して当事者の体験談がいかに説得力を持っているかは説明するまでもありません。
自分の中にある危機感覚にはどこか甘えがあるのでしょう。
「一人ひとりが危機意識を持って」と話すときのどこか空々しい感覚は、いつまでたっても
拭えぬままです。
とはいえ、伝えなければならないことは山ほどあり、それを仕事にしている以上、
いかにリアルに伝えていくかということは、常に向き合わねばならない課題なのだと腹を括っています。
そして真剣に「伝えたい」という思いを込めることに一縷の希望があると信じています。

さて、今回の「祖母が昔飛んだ」話。どこまでリアルに皆さんに伝わったでしょうか。

当社のWebサイトでは、サイト閲覧時の利便性やサイト運用および分析のため、Cookieを使用しています。こちらで同意をして閉じるか、Cookieを無効化せずに当サイトを継続してご利用いただくことにより、当社のプライバシーポリシーに同意いただいたものとみなされます。
同意して閉じる