コンサルタントコラム

負の空想力でパニックに備える

2013年04月10日

シニアコンサルタント

高橋 篤史

シニアコンサルタント 高橋 篤史

こんにちは。ニュートン・コンサルティングの高橋です。

もうずいぶん前の話になりますが、
観光旅行でソウルから帰国する時の出来事です。
我々の乗った飛行機は定刻19時に離陸し、
数十分後水平飛行に移りました

通常ですとシートベルト着用のサインが消え、
客室乗務員のサービスが開始されるわけですが、
いつまでたってもサインは点灯したままで、
何やらゴトゴトという異音と共に機体も微妙な揺れが続いています。

少し不安になり乗客の間にざわざわという動揺が
広がりはじめました。それから数分後、
突然機長からアナウンスが入りました。

「現在、軽微なトラブルが発生している。
安全性に問題はないが、念のために当機はこれから
出発地の金浦空港に引き返す。」とのこと。

軽微なトラブルとは何ぞや、そもそもこの時間から
引き返して今日中に帰れるのか等々疑問が湧きましたが、
ほどなくして客室乗務員から全員にサンドイッチが配られたのです。

不安な気持ちはありましたが、ともかく戻ることは
決まってしまったので、空腹だったこともあり、
おとなしく与えられた食事に手をつけました。
周囲を見回すと、皆不安そうではありましたが、
特に取り乱す者もなく食事を始めているようです。

やがて1時間もたたないうちに機は金浦空港へ
着陸しました。改めて機長からアナウンスがあり、
「車輪が格納できなかったため引き返した。
原因が特定でき、復旧したので再度離陸する。」
ということでした。

旅客機の飛行中のトラブルは乗客に大きな
心理的ストレスを与えるといわれますが、
今回の件に関しては、少なくともパニックを引き起こす
ような事態には至りませんでした。なぜでしょうか。
そもそもどのようなときに人はパニックを起こすのでしょう?

【パニック心理】
群衆パニックが起きやすい条件として以下の点があるようです。
1.緊迫した状況で危険が目前に迫っていると多くの人が感じている。
2.危険から脱出する方法があると皆が思っている。
3.脱出する方法はあるが、自分が脱出できる保障はないと皆が思い、
強い不安を持っている。
4.集団の中で、相談や協力ができるような普通のコミュニケーションが
とれなくなっている。

前述のケースでは1は漠然と感じつつも、
機長の説明により緊迫した状況は払拭され、
2、3にいたることはありませんでした。

そのため4についても、比較的冷静にコミュニケーションが
とれていたようです。
ただ、仮に説明がなく1の状況に陥ったとしても、
2、3はありえないわけですから、
いずれにしてもパニックは起きなかったかもしれません。

さらに、脳のメカニズムとパニックとの関連については、
次のような説があります。平時において、
前頭前野は人の感情や衝動を抑える働きを司っていますが、
急に強い精神的ストレスにさらされると、この力が弱まり、
原始的な脳領域の支配が高まるのです。

つまり思考や感情のコントロールができず、
極度な不安に襲われたり、普段押さえている衝動が
表に出てパニックを引き起こすのだそうです。

今回、タイミング良く食事が提供されたことで、
漠然とした不安が食欲という本能的な欲求の充足に
置き換えられたのではないでしょうか。

今回の例で、航空会社の対応が正しかったかどうかは
さておき、結果的に大きな混乱に至らなかったことには
それなりの理由があったと思われます。

【災害時のパニックを防ぐために】
突発的な災害に見舞われた時、群衆はパニックに襲われがちです。
これを防ぐためには、やみくもに「落ち着いて」と叫ぶよりも、
しかるべきリーダーが各自の役割を具体的に指示することで、
ストレスを軽減させることの方が効果的です。

これは、ストレスの原因となる事象よりも、
上位の存在の言動や自分の作業に意識が集中するためです。
平時から災害時の役割を明確にしておくことには
こういった意味があります。

最後に私自身のパニック対策について触れておきます。
一人でできる方法として日頃やっているのは「負の空想」です。

これは難しいことではなく、例えば
「今ここで災害が発生したらどうなるか」
「この人が居なかったらどうするか」
「いつも使っている生活必需品がなくなったら何が起きるか」

といった非日常的でどちらかといえば好ましくない空想力を
養う練習です。厳密な想定ではなく、
ぼんやり思い浮かべるだけで充分です。

あまり熱心にこれをやると疲弊して続かなくなります。
さらに一歩進んで、「負の空想」に対応する複数の選択肢を
挙げてみる習慣をつけると、よりパニックへの耐性は高まるでしょう。

こうして、正しい危機感を持ち、咄嗟の事態においても、
早い意思決定と行動を行うことで、場合によっては
自らがリーダーとなって、パニックを回避できる可能性が高まります。

冒頭に挙げた航空機の件は一例ですが、
みなさんも自分がパニックに襲われそうになった体験を思い返し、
その時の心理状態や自分がとった行動などを分析してみると、
自分なりの対策が見つかるのではないでしょうか。

当社のWebサイトでは、サイト閲覧時の利便性やサイト運用および分析のため、Cookieを使用しています。こちらで同意をして閉じるか、Cookieを無効化せずに当サイトを継続してご利用いただくことにより、当社のプライバシーポリシーに同意いただいたものとみなされます。
同意して閉じる