コンサルタントコラム

「失言もリスク管理のひとつ?」

2010年05月12日

執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント

内海 良

執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント 内海 良
はじめまして。ニュートン・コンサルティングの内海です。

この度、英国のNewton ITより日本のニュートン・コンサルティングへ移り、
初めてコラムを担当させて頂きます。

英国での生活は丸6年。日本へやって来てみるとやはり浦島太郎状態に
陥ることが多々あります。

簡単に実例を挙げるだけでも、Suica、PASMOの使い方に四苦八苦し、
お財布ケータイを使う勇気もなく、女性専用車両に驚く自分がいます。
他にもどうでもいい事ですが、エスカレーターのスピードにイライラしたり
(イギリスは1.5倍くらい速いのです)と、日本と英国のギャップに驚いて
ばかりですが、それはそれで新鮮な毎日を過ごしています。

違いばかりではなく、似ている部分もあります。
その最たるものが政治です。特に両国とも最近、政権交代がありました。
日本では民主党が与党となり、英国では1997年から与党であった労働党が
保守党にその席を譲っています。

他にも日本の政治は英国をお手本にしている点が多く、
2大政党制や小選挙区制度、脱官僚・政治家主導という
現在の民主党が推し進める政策も英国が先駆けて実践しています。
政策の良し悪しは凡人の私には論ずるにおこがましいですが、
英国の政権交代の流れを決定的にしたのが、ブラウン元首相の失言です。

日本でも大きく取り上げられたのではないでしょうか?

この失言直後、英国のメディア報道はこれ一色でした。
失言直後にブラウン首相をゲストに招いていたラジオ局は、
ブラウン首相がいる前でこの失言を放送するなんていうキツ~イ対応も
しています(ブラウン元首相はこのとき初めて自分の失言に気づきました)。
うなだれて終始無言のまま自分の失言に耳を傾けるブラウン首相に
私は同情しました。

では、この失言を未然に防ぐ、もしくは影響を最小限に留めることは
できなかったのでしょうか?

リスクには様々なものが存在します。
自然災害やテロ・戦争、インフラ・システム障害、風評・評判などのリスク
などが挙げられますが、今回の失言は風評・評判にカテゴライズできます。

風評・評判リスクというものはコミュニケーションが発達した現代では
よりケアが必要な分野となってきており、実際、この失言から約2時間後には、
首相の発言した「Bigot」という単語がTwitter上を駆け巡り、
トップスリーのキーワードに入りました。
もちろん、テレビのニュースもブログもこの話題で溢れ返りました。

通常リスクに対して対策を打つべきか否かを検証するには、
リスク分析が有効です。

リスク分析の際にはリスクを数値化するのが一般的ですが、
「脅威」と「脆弱性」、「影響度」等を計数化してその総合値をリスクの
大きさとしてとらえます。対策の必要性を客観的に判断するためですが、
今回の失言は脅威が「高」、脆弱性は「低」、影響度は飛びぬけて「高」、
というところでしょうか。

もちろんこのリスク値の高さを考慮すれば、なんらかの
リスクトリートメントが必要となるでしょう。

こういった風評、評判のリスクトリートメント手法として
今注目されているのがレピュテーション・リスクマネジメントです。
英国では一般的で、日本でも大分浸透し始めています。

レピュテーションリスクとは無形の財産である企業や組織の評判が落ち、
経営にダメージを与えるリスクを指します。

具体的にはCSR格付けや就職人気度ランキングなどがあげられますが、
こういったリスクに対して、教育や訓練などを実施する体制を整備しておく、
ソーシャルメディアなどの対応策をまとめておくなど、
レピュテーションリスクに対する手法が体系化されています。

実際ブラウン元首相の失言が発覚したあとの対応は見事でした。
ラジオ局から出るなりすぐに被害者女性に電話で謝罪を試み、
電話での会話を拒否されるや、そのまま彼女の家へ直行し
直接謝罪しています。結果はどうあれ、レピュテーションリスクの
事後対応はしっかり対応できた例と言えるでしょう。

多少毛色はかわりますが、過去わが国でも風評に端を発して
大きな被害を被った例があります。

古くは1973年の豊川信用金庫。単なる女子高生の「信用金庫は危ない」
という会話に端を発し、それが「豊川信用金庫は危ない」という噂に
膨れ上がり、預金者が殺到して取り付け騒ぎが発生した例。 
ほかにも2003年12月には佐賀銀行でも「26日に倒産する」という
事実無根のメールが広まり、預金者200人が殺到。
前年同日と比べ引き出し金額は180億円増加という結果に至っています。

これからのリスク管理には、時代に即したソーシャルネットワーキングや
メディア対応も含めたレピュテーション・リスク管理が
より一般的になっていくでしょう。

と、ちょうどこのコラムを書いている最中に、ブラウン首相が
労働党党首を辞任するというニュースが入りました。

こうならないためにも、しっかりとリスクを見極め、
リスクマネジメントを実施することをお勧め致します。

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