コンサルタントコラム

やってみて気づいた、BCPとコンプライアンス対応の共通点

2010年12月08日

コンサルタント

英 由佳

東京都BCP策定支援事業に携わらせて頂いております、英(はなぶさ)由佳と申します。

当プロジェクトは、中小企業様35社において、1社につき2か月以内でBCPを策定する、というもので、9月の開始から早や3か月、第1・2期を完了し、現在第3期のプロジェクトが始まったところです。

当プロジェクトでは、有事の際にもお客様の重要事業を継続できる体制を実現するためにはどんなことを考慮しなければならないか、その難しさを実感しながら、勉強の毎日です。

ところで、私は前職において、コンプライアンスに関する調査に関わっておりました。その際、師事していた先生からは常々「コンプライアンスを実現するということは、単に法規制を遵守することではなく、その背後にある目的・趣旨、すなわち『社会的要請に応える』ということである」と言われておりました。コンプライアンス対応とBCPとは、リスク・マネジメントにおいて必ずしも同時に語られる概念ではありませんが、BCP策定の現場に入ってみて、両者の間にはいくつか共通点があると感じましたので、以下述べさせて頂きます。

【共通点1】 顧客が自社に求めているものは何かと考えること

コンプライアンス上の企業不祥事には、目先の利益にとらわれて、自分が顧客の立場ならどう思うかという視点を見失った結果、社会的責任を問われる場合があります。

たとえば、某大阪の料亭の場合、消費期限切れ商品の販売、そして一度出した料理の食べ残し(いわゆる「手付かずのお料理」)の使い回しなどが発覚し、廃業に追い込まれました。

BCPにおいては、BCPを策定しなかったからといって、顧客の期待に著しく背くとまではいえませんが、サプライ・チェーンやアウトソーシングのように、企業活動が密接に繋がっている今の時代においては、自社の製品・サービスの供給が止まるということは、自社の損失のみならず、顧客、さらには顧客の顧客への広汎な損失につながりかねません。

新潟県中越沖地震の被害などを経験した今、顧客への影響を考え、有事の際の事業継続能力を備えることが企業の社会的責任を果たすことにつながると思います。

【共通点2】 自社の業務にリスクは必ず潜んでいるという危機感を持つこと

コンプライアンス上の問題になった事例として、食肉業者が「牛肉100%」の挽肉について食肉偽装を行っていたケースがありました。たしかに、取引先からの厳しいコスト抑制の要請があるなかで、利益を確保し、かつ「安くておいしいものを食べたい」という消費者のニーズにも応えるというバランスをとることは易しいことではありません。牛肉のパサつきを抑えるために豚肉を混ぜた合挽肉を調理に使うこと自体は日常よく行われていることでもあります。その会社の社長が日々の“商品開発”の中で牛肉に豚肉や鶏肉、そして調味料などを混入させることで、より安価でおいしい牛肉(風味の)製品を作り出した際には、意外と悪意や罪悪感は無かったのかもしれません。しかし、それを「牛肉100%である」と偽ることはやはり、明らかに消費者を欺くものであって、正当化できるものではないのです。

この事例はいささか極端ではありますが、BCP策定の作業を通じて感じたことは、自社の業務内容についても全社員に情報が共有されていることは少なく、誰が何をどのようにやっているのか、どの業務がどのような事態において継続困難になるリスクがあるのか、など、見落とされる部分が生じがちであるということです。

また、例えばオフィス内においても、大地震の際に棚が倒れたり、ガラスが割れて飛散するという危険が潜んでいることが意識されていないケースも少なくありません。

日常業務を回していく中でどのようなリスクが潜んでいるかを自覚していてこそ、災害や不測の事態に直面してもパニックに陥らずに行動できるのではないでしょうか。

【共通点3】 自社のあるべき姿に照らしたトップの意思決定

コンプライアンス上の問題を抱えている組織においても、悪いことをしたくてやっている人はあまりいない、というのが個人的な実感です。但し、守りたい私的な利益や組織内の論理に縛られるなどして、自分たちが今行っていることは社会的要請に対応しているか、少なくとも背くことになっていないか、という想像力が欠如してしまったケースが残念ながら少なくなかったように思います。このような場面においては、コンプライアンス対応によって社会的要請に応えるという組織のトップの決意と覚悟が不可欠だと考えます。

他方、BCPについても、組織のトップの決意が重要だということを実感しています。大地震などの想定災害自体はいつ起きるか分らず、また、BCP策定にあたって重要事業を支える業務、経営資源を把握し、被害を想定し、対策を策定することも不確定要素が多く、容易ではありません。しかし、顧客、そして顧客の顧客から求められる、企業としての責務を果たすためには、「リスクに対して自社はどう考え、どのように対応するのか」という点について、トップ自らの考えを明確にすることが必要だと考えます。

コンプライアンス対応とBCPはいずれも売上に直結しない割に、多様な要因の中で自社の価値判断と決意を問われるだけに、普段は考えたくない取組みかもしれません。

しかし、一度リスクが現実のものとなった場合、企業の存続を脅かしかねないインパクトがある点でも共通しているだけに、平時から想像力を働かせ、どのようなことが起きるか、どのように対応すべきか、を考えることがリスクヘッジの一環として重要ではないかと思います。

皆様は、これらについて考えることを放置していませんか?