コンサルタントコラム

断れない提案~ほころんだビジネスの前提を疑え

2012年11月21日

コンサルタント

谷澤 俊彦

皆さん、こんにちは。コンサルタントの谷澤です。

さて、私たちは、
わかっているはず、知っているはずと思っていたことが
実はそうではなかった、このような経験はありませんか。

こうした勘違いや思い込みは
ビジネスの世界でもよく見られますが、
それが企業の成果や業績に大きく影響を与えている
としたらどうでしょうか。

今回は過去のコンサルティングの中から、
これらのことについて考えてみたいと思います。

企業経営の前提は?と問われれば、
人・物・金等の資源がすぐにあがります。

また、ビジネスの仕組みやシステムもそうです。
これらは一般に有形ないし意識されやすいという
特徴があります。
一方、無形の資源もあります。
信用やブランド、独自の企業文化などです。

では、無意識の前提があるといったら
皆さんは信じられますか。
実は業界の「常識」、会社の「当たり前」が
それに該当します。
これらは、日常意識されず、
あたかも空気のような存在になっているのです。

企業小説『ザ・ゴール』の著者で、
制約条件の理論を創始したE.ゴールドラット博士は、
知らず知らずに持ってしまった
私たちの「常識」や「当たり前」の中に
真のボトルネックが潜んでいて、
それが市場や組織の中に惰性をもたらし、
メイクマネーを阻害してしまうと言います。

彼はこの囚われのことを、
目に見える経営資源のボトルネックとは一線を画し、
『方針制約』と呼びました。
では、『方針制約』とはどのようなものでしょうか。
具体的な例を見ていきましょう。

以前私がご支援したT社は、
工業用ドリルの歯を中心に
機械工具類を製造販売している企業です。

中期的には、市場、自社の成長はいずれも
緩やかな右下がりのカーブを描いていました。
ですから、営業会議は、たいてい値引きを前提に
いかに利益を確保するか、
売上シェアを維持するか
という話題に終始していました。

会議が迷走し始めてから程なくして、 あるリーダーがポツリと呟いたのです。

「これまでの顧客状況の調査結果を見ると、
わが社の商品はお客さんの加工費の
わずか5%の購買コストに過ぎないわけよ。

顧客が一番悩んでいるのは、
残り95%の加工費をどうやって引き下げて
競争力を高めるかってことなんだから、
今の状況でいくら値引きをしても
顧客の真の悩みにほとんど貢献していない。

だけどさ、うちのドリルが95%の加工費の方の
削減や節減にインパクトを与えることができたら、
そもそも値引きどころか
値上げだってできるんじゃないかな」

多くの担当者たちはそんなことができれば
苦労はないと言わんばかり。
しかし、このリーダーの呟きをきっかけに
少しずつ変わりはじめるのです。

この業界の常識は何でしょうか。
それは顧客の購買担当は
とにかく安く買い叩くことが「常識」、
サプライヤーは値引きをしてでも、
顧客シェアを維持することが「当たり前」でした。

そして、
これらはお互いのビジネスの前提となり、
業界全体の方針制約になっていた
と言ったら言い過ぎでしょうか。

彼らがとった方針制約の解消に向けた
行動を紹介しておきましょう。

まず有志が集まり、
顧客の抱えている経済性の問題、
つまり加工費を引き下げることを
可能にするドリルの歯のタイプと
その使用法を徹底的に調査しました。

すると、
いくつかのドリルの歯とその使い方により、
加工費95%を削減する効果があることがわかったのです。

中には、購買コストの数倍から数十倍の効果がある
ドリルがあることもわかりました。
これらをもとに、営業担当者にパソコンを携帯させ、
顧客の現場のデータをいくつか入力すると、
どの程度コスト削減が可能になるか、
シミュレーションをして、
その場で提示できるようにしたのです。

また、工場の加工費の管理責任を持つ部署は、
実は製品開発や設計をするエンジニアであり
、 原価計画と実績を把握する原価管理の担当でした。

したがって、それまでの窓口であった購買から、
設計や原価管理という部署を巻き込み、
彼らに提案内容を理解させ納得させていったのです。

こうすることで、赤字覚悟の値引き提案から、
加工費引き下げのソリューションの提案により、
倍の価格でも欲しいという引き合いも生まれたのです。
まさに「断れない提案」が生まれた瞬間でした。

私は、元々「常識」や「当たり前」は 必要があって生まれ、 効果があったと考えています。

右肩上がりの時代なら、値引き政策でも、 市場を刺激し促進する効果があり、 利益率の低さを受注量でカバーできたのです。

しかし、市場成長がマイナスに転じ、 その意味は失われてしまいました。 しかし、常識を疑い、軸足を顧客側の悩みに置きなおし、 新たな価値を提供することで需要を創造できる、 この事例はそのことを象徴しているようです。

さて、皆さんの属する業界には どんな「常識」がありますか。 会社の「当たり前」って何でしょうか。 もし、売上が伸び悩んでいる場合、 常識や当たり前が惰性や思考停止をもたらしてはいませんか。