コンサルタントコラム

古人たちの免震技術

2013年07月17日

コンサルタント

山田 俊明

こんにちは。
東京都BCP策定支援プロジェクト担当の山田と申します。

「閑さや岩にしみ入る蝉の声」
ご存じ松尾芭蕉が山形市立石寺に参詣した折に詠んだ名句。
かくいう私は俳句を詠む風流は残念ながらありませんが、
大の歴史好きで神社・仏閣に城郭など、史跡を巡り歩くのが趣味です。
特に夏場の蝉しぐれの中、汗だくになりながらも史跡を訪ね、
近くの木陰で過ぎし時代に思いを馳せながら
涼を取る醍醐味は何とも言えません。

今の仕事を始めてからその史跡巡りにもう一つの楽しみが増えました。
みなさんは、過去に一度も地震で倒壊したことのない
木造建築をご存じでしょうか。
建築関係に携わっている方であればご存じかもしれません。
そう、「五重塔」です。
戦災や火事で失われたことはあっても
地震では一度も倒壊したことがないと言われています。
そこには古人たちの木造建築技術の粋が集められています。
中でも千年以上も前に建てられ、最古と言われる法隆寺の五重塔は、
過去の幾多の大地震にも関わらず、当時の姿を今に留めています。

ではなぜ、千年以上もの間、
法隆寺の五重塔は幾多の大地震にも耐えることができたのか。
すべてが解明されているわけではありませんが、
その一端をご紹介したいと思います。

まず、使われている材木ですが、
主要部分は、千年以上の寿命をもつと言われるヒノキが使われています。
ヒノキは木材の中でも特に水や虫に強く、
腐食しにくいという特性を持っています。
さらに、軸心部や力のかかる部分には
それに応じた木材を材質や木目などを読んで選び、
組み合わされているそうです。
まさに適材適所ですね。
これは木の特質を知り抜いていないとできない職人技です。

そして当時は鉄が貴重品だったということもあり、
釘は一切使われておらず、全て木組みで組み上げられており、
釘で建てられているものより揺れに対する柔軟性があると言われています。
この木組みの美しさがまた建造物の構造美を引き立たせてもいます。

構造的にも工夫がこらされています。
五重塔と言われている通り五つの層からなっていますが、
この一つ一つの層が独立して造られており、
地震で五重塔が揺れた時には
互いに違う揺れ方をしてバランスを取るようになっています。
また、塔の中心には心柱と呼ばれる太い柱があり、
各層が外れるのを防ぐ構造になっています。
上野の寛永寺や日光東照宮の五重塔の場合は、
この心柱が礎石に固定されておらず、
上から鎖で釣った状態になっているそうです。
(こちらは江戸時代以降の構法とのこと)
それにより地震の時は、
この心柱が揺れてそのエネルギーを吸収するようになっており、
同じ高さの鉄筋コンクリートの構造物と比較しても
地震の周期と一致しにくく、
共振現象が起きにくい構造になっていると言われています。
これらの技術の一部は、近代ビルの建築にも生かされているそうです。

また、五重塔の各層の屋根に積まれている瓦も重要な役割を果たしています。
現在の日本家屋の瓦は、瓦を下地に固定してしまっていますが、
昔の家屋では土を下地に使い、
その上に瓦を載せているだけで瓦を固定していませんでした。
わざわざ重い土と瓦を屋根に載せ、固定しなかった理由。
それは、小さい揺れの地震の時は重しとしての役割を果たして
揺れを軽減させ、
大きい揺れにより建物が一定の角度より傾いた時は
瓦がずり落ちることによって屋根を軽くし、
それ以上の傾きを防ぐようになっています。

さらに、日本家屋で古来より使われている土壁。
こちらも地震の揺れを受けた時に土壁が崩れることによって
そのエネルギーを吸収し、
建物が傾いたとしても倒壊しないような工夫がなされていました。
しかも、瓦と土壁は防火機能もあります。

このように見てくると、
日本人は古来より数多くの地震に見舞われながら、
その経験の中から身近な材料を利用し、
いかにリスクを軽減していくかということに知恵を絞り、
工夫を凝らしてきた姿が浮かびあがってきます。
受容すべきリスクは受容し、最悪の事態だけは知恵と工夫で避ける。
自然の力に抗わず、自然の力をいかにそらすか、
ということに考え方の力点をおくこと。
それが彼らの多くの経験と犠牲の中から導き出した
一つの解のように思われます。

まだまだ古人から学ぶことは多そうです。