コンサルタントコラム

ゼロをイチの発想にするエッセンス

2013年10月23日

コンサルタント

井上 禎子

こんにちは、経産省事業部の井上です。
大学卒業後、大手シンクタンクで
十数年コンサルティング業務に従事したのち独立し、
ベンチャー企業の立ち上げや食品メーカー、サービス業、
医療・健康分野の実行支援型コンサルティングに携わりながら、
新商品開発や新規事業立ち上げの仕事を行っておりました。

さて、自社の立ち上げも含む
中小から大企業にわたる新商品開発や
新規事業の立ち上げに関わった経験から言うと、
特に成熟した大企業に見受けられがちなことですが、
ネットで情報収集しただけで
何か新しいものを生み出したような錯覚に陥ることがあります。
また、目の前のルーチーンな業務だけに目を向けすぎ、
深堀りしすぎて、自分を取り巻く外部環境に
意外な発見があることを知らずに過ごしていることも見受けられます。
いいえ、面倒でつい目をつぶってしまうことが
いつの間にか習慣になっているのです。
縦と横のしなやかなつながりが社内組織になく、
机上の世界だけに終始してしまう悪循環が散見されるのです。
人間はゼロからモノを創り出すことができる唯一の生き物ですが、
習慣や既存の情報にあまりに支配されすぎて、
日常や常識や専門を飛び超えたユニークな挑戦から
素晴らしい何かを創り出すことを
忘れてしまっている人々が増えているような気がしています。

今日は、私がかつて関わった
「ゼロからイチ」を創り出す実行支援型コンサルテーションの中から
“創り出す事例”を3つご紹介し、
創造を導き出すエッセンスに触れてみたいと思います。

 

◆事例1: 「思い込み注意報!
 誰もが信じていたことを真逆に変えただけで黒字転換。
 ある大手菓子メーカーの試み。」

今となっては意外ですが、かつてポテトチップスは、
「冬にコタツを囲んで皆で食べるもの」と、みんなが思い込んでいました。
油ものは夏には売れないと思い込み、
せっかく夏場に収穫した新鮮なジャガイモを
わざわざコストをかけて、数か月も倉庫に寝かしていたのです。
それで赤字を叩き出し続けていた、とあるスナック菓子メーカー。
かつて誰もできなかった発想の転換を行いました。
夏こそ、ビールやコーラと一緒にポテトチップスをつまもう!
北海道十勝の夏の青空と、緑色のジャガイモ畑を使ったパッケージ、
そして産地直送採れたて感をうたったネーミング。
味にもスパイシーさを加えて夏嗜好に衣替えてイメージを一新しました。
この逆転の発想で、
新たな「イチ」を導いた商品戦略プロジェクトは大成功をおさめ、
ポテトチップスは季節を問わず売上を作れる、
スナック菓子の王者となったのです。
これは、私の元上司が関わったプロジェクト。

 

◆事例2:
「いつもの風景に疑問符を。
 主婦の発想力で、ピンク一色の肉売り場に野菜畑が誕生。」

高級ブランドチキンメーカーの新商品戦略のお手伝いをした時のこと。
日本では、鶏はムネ肉よりモモ肉の方が圧倒的に売れます。
脂が少なくパサついたイメージのあるムネ肉は、
ジューシーさや瑞々しさに旨味を感じる日本人には敬遠されるのです。
そこで、ムネ肉に何らかの魅力を加えて、
モモ肉と同等か、それ以上の付加価値をもった商品として
生まれ変わらせるプロジェクトを開始しました。
当時、このメーカーではムネ肉を加工した「蒸し鶏」を販売していました。
その名を「サラダチキン」。
しかし、透明のパッケージに蒸したムネ肉が
ゴロリと入っただけの無機質な見せ方で、全く食指が伸びません。
そこで売り場を歩き回ったスタッフが発した疑問符──
「サラダチキンというなら、
 パッケージもっとカラフルでなければ料理のイメージが湧かない…」。
生活者視点のこの提案により、
「サラダチキン」は、
ビタミンカラーのカラフルな生野菜の写真に包まれた蒸し鶏として
生まれ変わったのです。
すると、あっという間に前年対比130%に売上がアップ。
これには驚かされました。
ちなみに、
精肉売り場にグリーン色のパッケージが置かれた前例はなかったそうです。

 

◆事例3: 「生きた刺激が生み出した1000のアイデア。
 役員も若手社員も同じ目線で同じ体験。
 刺激反応モデルを使った新規事業の発想。」

江戸時代から続く老舗メーカー。
のどかな田舎町(失礼!)に本社と研究所を構える会社の
新規事業の立ち上げの依頼を受けたのは今から10年前。
社長の英断により、担当役員から若手一般社員まで30名近い社員を集めた
アイデアジェネレーションがスタートしました。
まず、柔軟で自由な発想をしてもらうために、
最大の情報受発信地・東京で、
いま何が生活者に受け入れられているのか?
を体験するツアーを企画したのです。
人気の輸入家具店、雑貨店、タワーマンションのモデルルーム、
カフェ、クイックマッサージ、高級食材店、デパ地下、etc.
普段、刺激のない静寂なオフィスにこもっている社員にとって、
自社商品を購入する生活者の消費行動を体験できる、貴重な経験でした。
この刺激によってディスカッションは活発になり、
創造されたアイデアは1000近くに及び、
最終的に16まで絞り込んだアイデアを役員会にバトンタッチ。
ついにある1つの事業の立ち上げが決定したのです。


◆遊びながら自分らしいエッセンスを見つけ出す

さて、今回ご紹介した3つの事例が示す発想のエッセンスは、
「思い込みから自分を解放する」
「普段の見慣れた風景や常識をあえて否定してみる」
「刺激のない生活に創造はない」
と言ったところでしょうか?

ゼロからイチを生むためのエッセンスは、
高度な知識や卓越した発想力ではなく、
意外と、日常の縛りから単に自分を解放することで十分に得られる。
私はそう思っています。
しかし、これが案外難しい。
ルーチーンに生活することは非常に楽な選択肢であり、
普段はそこに何の不便も感じないからです。
そうこうするうちに、余計な経験が行動に縛りを与えてしまい、
せっかく遊びから得られた発想の泉が、いつの間にか干上がってしまうのです。
「これは何? あれはどうしてなの?」
ユニークな疑問符に溢れる子供が、
「これは無理、それはあり得ない」
と否定的な大人になっていくプロセスに、何だか似ていると思いませんか?

かくなる私。
この数年間、マネジメント業務に忙殺され続けたルーチーンの毎日。
解放による刺激は、ある意味良い緊張を生み、脳の働きを活性化させます。
今、ニュートンという環境に自らを挑戦的に解放した私は、
未体験領域のコンサルティング業務に従事することで、
新たな知識やノウハウを得ることは言うまでもなく、
過去の経験を活かし、
その延長にとどまらない新たな発想の創造にチャレンジしています。
自分を取り巻く環境や情報を積極的かつ素直に受け入れつつ、
柔らかな加工を加えて、自分らしいエッセンスとして変換し、
蓄えていきたいと思っています。