コンサルタントコラム

未完成の塔 -ライフワークを見つけること-

2013年11月20日

コンサルタント

高橋 篤史

コンサルタント 高橋 篤史

みなさん、こんにちは。コンサルタントの高橋篤史です。
今回は日本の画家、牧野邦夫さんの作品「未完成の塔」についてです。

牧野さんは1925年生まれの画家で、
生涯オランダの巨匠レンブラントを師と仰ぎ、
独特の作風を展開された方です。
美術団体に所属せず、個展も数えるほどしか開かなかったため、
おそらくその名を知る人は少ないでしょう。
私は、15年ほど前、
とあるきっかけでインターネットから彼の作品に出会い、
大変な衝撃を受けました。
繊細でリアルなタッチは
まさにレンブラントをほうふつとさせるものですが、
幻想的なテーマの中で、
美しさと残酷さが同居する不思議な絵でした。
早速、牧野邦夫というキーワードで検索したものの、当時は情報も少なく、
1986年に既に亡くなられていることがかろうじてわかりました。
何とか実物の絵を見てみたいと、手を尽くして探していたところ、
大阪の小さなギャラリーで回顧展が行われるという情報を入手し、
一も二もなく大阪へ向かいました。
そこで見た絵に、これまで見たこともないようなエネルギーを感じました。

それから少しずつ、彼について知ることができました。
牧野さんはレンブラントに傾倒するあまり、
50代になったとき、ある一枚の絵を描くことを決意します。
これが「未完成の塔」でした。
それは5層から成る塔の絵で、10年ごとに1層を完成していくというコンセプトです。
「63歳で亡くなったレンブラントよりも自分は30年遅れている、
 だからこの塔の絵を完成する90歳までは生きなくてはならない」
と考えたのがそもそもの発端で、
40年がかりのライフワークとなったわけです。
しかし、志もむなしく、61歳で亡くなってしまいました。
そして残されたのが、1層目だけが完成している「未完成の塔」なのです。

初めてこの絵を見た当時、
IT系の企業で日々の業務に忙殺されていた私は、
自分は40年間で完成させる仕事を目指せるだろうか、
という疑問をもちました。
そもそもライフワークについて、自分と向き合ったことがあっただろうか、
今の仕事の延長に何か完成すべきものがあるのだろうか。
しばし呆然とした覚えがあります。
それからライフワークというものについて漠然と考えるようになりました。
牧野さんのライフワークは「憧れ」のレンブラントに近づくことですが、
「未完成の塔」には、2層目以降の下絵がぼんやりと描かれています。
さらに塔の最頂点はカンバスからはみ出した絵の具の塊となっています。
つまり、この絵を描き始めた時点で
すでに構想は決定していたことがわかります。

やがて、私は、ライフワークを見つけるのは
そんなに難しいことではないのではないか、と考えるようになりました。
目指すべき「憧れ」の対象を決めて、そこに至る道筋を置いてみる。
その全体像が自分にとって納得のいくものであれば、
それがライフワークになり得るのではないか。

目指すべき「憧れ」の対象とは何でしょう。
シンプルに考えると、学生時代や幼少期に遡ったときに、
純粋な気持ちで「良い」「好き」「なりたい」と考えたものと言えるでしょう。
ある人にとっては、スポーツ選手かもしれないし、
別の人にとっては歴史上の偉人かもしれません。
しかし、牧野さんのように画業を営むならともかく、
ほとんどの人は、純粋に憧れた対象と同じ道を歩むわけではありません。
そこには、それまでの生き方や、現在の仕事、役割との隔たりがあります。
「憧れた」理由は、その対象の社会的地位だけでしょうか?
そうではなく、もっと本質的な側面があると思います。
人を惹きつける、特殊な知識がある、話が上手、恰好いい、などなど、
「良い」と直感的に感じたものがあると思います。
それを目標としたとき、
自分がそうなるためにはいつまでに何が必要か、
ぼんやりと描いてみてはいかがでしょう。
わたしはいささか時間がかかりましたが、
3年前の転職にあたり、自分の「憧れ」を問い直したことによって、
今まさにライフワークが見えつつあるところです。

さて、今年4月、テレビの美術番組で「未完成の塔」が紹介されました。
15年前はほとんどの人が知らなかった牧野邦夫さんですが、
なんと私の自宅からほど近い練馬区立美術館で大々的に作品展が開催され、
大好評を博したのです。
私も3度足を運び、徐々に来場者が増えていくのを嬉しく見守りました。
もしご興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、
「牧野邦夫」で検索してみてください。