サイバーセキュリティ経営ガイドラインとは?3原則・重要10項目をわかりやすく解説
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
サイバーセキュリティ経営ガイドラインは、経営者のリーダーシップの下でサイバーセキュリティ対策を推進するための指針です。本記事では、経営者が認識すべき3原則やCISOなどに指示すべき重要10項目、実践を支援する資料について、ガイドラインに沿ってわかりやすく解説します。
1.サイバーセキュリティ経営ガイドラインとは
「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」は、企業がサイバーセキュリティ対策を推進するためのガイドラインです。経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が共同で策定しました。大企業および中小企業(小規模事業者を除く)の経営者を対象に、経営者が認識すべき「3原則」と担当幹部(CISOなど)に指示すべき「重要10項目」をまとめたもので、経営者自らがサイバーセキュリティ対策に取り組みリスクを低減させることは責務であり、必要不可欠な投資であることを示しています。
現代におけるサイバーリスクは、もはやIT部門のみの課題ではありません。会社法・民法上の法的責任やステークホルダーへの説明責任を伴う経営リスクといえます。サイバーセキュリティ経営ガイドラインは、企業がこうしたリスクを乗り越え、持続的な成長を実現するための指針となっています。想定読者は、最高経営責任者(CEO)および経営者から指示を受ける最高情報セキュリティ責任者(CISO)、両者を補佐する実務者を挙げています。
サイバーセキュリティ経営ガイドラインの初版(Ver1.0)は、急増するサイバー攻撃などを背景に、2015年12月に公表されました。その後、改訂が重ねられ、2026年8月時点ではVer3.0が最新となっています。Ver3.0では、主に以下の点を踏まえて改訂が行われています。
- ランサムウェア被害の甚大化:単なる情報漏えいにとどまらず、工場のライン停止や物流網の麻痺など、事業の継続そのものを脅かすランサムウェア被害が急増しています。
- サプライチェーンリスクの顕在化:自社のセキュリティが堅牢でも、国内外の拠点や委託先、利用しているクラウドサービスが踏み台となり、自社が被害者、あるいは加害者として損害賠償を請求されるサプライチェーンリスクが顕在化しています。
- ESG投資と資本市場の視点:ESG投資の拡大により、コーポレートガバナンスや全社的リスクマネジメント(ERM)への取り組みに注目が集まっています。本ガイドラインではサイバーセキュリティのリスクを考慮したERMの実践を求めています。
サイバーセキュリティ経営ガイドライン(Ver3.0)は、「経営者が認識すべき3原則」と「サイバーセキュリティ経営の重要10項目」で構成されています。以下では、それぞれについて解説します。
2.経営者が認識すべき3原則
サイバーセキュリティ経営ガイドラインでは、経営者は以下の「経営者が認識しておくべき3原則」を踏まえ、対策に取り組むことが重要であるとしています。
図1:サイバーセキュリティ経営ガイドライン 経営者が認識すべき3原則
原則① 経営者のリーダーシップの下で対策を推進
経営者は、サイバーセキュリティリスクを事業継続に関わる重要な経営リスクとして認識しなければなりません。経営者が自らの責任でリーダーシップを発揮し、自社組織や事業のリスクを把握・評価した上で、適切な対策の推進を主導する必要があります。
原則② サプライチェーン全体での対策が必要
サイバーセキュリティの責任の範囲は自社だけでなく、国内外のビジネスパートナーや委託先、さらにはクラウドサービスといったインターネットを介した関係先全てに及びます。サプライチェーン全体を考慮し、契約や監査などを通じてリスクを低減するといった対策は、企業規模を問わず経営者の責務であり、総合的なセキュリティ対策を徹底することが必要です。
原則③ 関係者とのコミュニケーションを積極的に行う
平時から関係者と積極的なコミュニケーションを図り、株主や顧客、サイバーセキュリティ情報を扱う機関などとリスク情報を共有し、信頼関係を築いておきます。その関係性を築くことで、インシデント発生時の速やかな初動対応や外部への円滑な説明が可能になります。
このように、3原則には経営者が認識すべき事項が記されていますが、同ガイドラインでは、経営者の責任についても言及しています。例えば、サイバー攻撃を受けた際に、事業活動を中断せざるを得ない深刻な被害であった場合や、刻一刻と変化するサイバーセキュリティリスクへの対応においては、予算措置が必要となる経営判断が求められます。こうした観点から、「CISOなどの担当者への『丸投げ』は許されない」と経営者自身が責任を持って対応すべきであることを示しています。
3.サイバーセキュリティ経営の重要10項目
経営者が認識した3原則を、組織の具体的なアクションに落とし込むための指示が「重要10項目」です。経営者はCISOなどのセキュリティ担当者に対し、これらを自社に適した形で実装させる責任を負います。詳細は下表の通りです。
【表1】サイバーセキュリティ経営ガイドラインの重要10項目
| # | 項目 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 指示1 | サイバーセキュリティリスクの認識・組織全体での対応方針の策定 |
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| 指示2 | サイバーセキュリティリスク管理体制の構築 |
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| 指示3 | サイバーセキュリティ対策のための資源(予算、人材など)確保 |
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| 指示4 | サイバーセキュリティリスクの把握とリスク対応に関する計画の策定 |
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| 指示5 | サイバーセキュリティリスクに効果的に対応する仕組みの構築 |
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| 指示6 | PDCAサイクルによるサイバーセキュリティ対策の継続的改善 |
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| 指示7 | インシデント発生時の緊急対応体制の整備 |
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| 指示8 | インシデントによる被害に備えた事業継続・復旧体制の整備 |
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| 指示9 | ビジネスパートナーや委託先などを含めたサプライチェーン全体の状況把握および対策 |
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| 指示10 | サイバーセキュリティに関する情報の収集、共有および開示の促進 |
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経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0」を基にニュートン・コンサルティングが作成
経営者はこれら重要10項目について、CISOなどの担当者へ指示をするだけでなく、自らの役割として実施方針の検討や予算・人材の割り当てのほか、実施状況の確認や問題の把握と対応を含めたリーダーシップを発揮することが求められています。
4.サイバーセキュリティ経営ガイドラインを実践するための支援ツール
サイバーセキュリティ経営ガイドラインには各種の公式支援ツールがあります。これらのツールを積極的に活用することで、ガイドラインの理論をサイバーセキュリティ対策の実務や体制構築につなげることができます。主なツールは以下の通りです。
サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0実践のためのプラクティス集
サイバーセキュリティ経営ガイドラインに関するプラクティス集です。経営者やCISO、セキュリティ担当者に向けて、同ガイドラインの重要10項目を実践するための考え方、実施ステップ、実際の導入事例などをわかりやすく解説しています。
情報セキュリティの基礎的な取り組みは実施しているものの、サイバー攻撃への備えやインシデント対応力の強化に課題を感じている企業に向けた実践ガイドとなっています。
サイバーセキュリティ経営可視化ツール
サイバーセキュリティ経営ガイドラインの重要10項目について、チェックリストの40個の設問に回答することで、自社のセキュリティ対策の状況を5段階の成熟度モデルでレーダーチャート表示できます。自社の実践状況をセルフチェックで可視化し、業種別平均との比較が可能です。なお、このツールは原則として従業員300名以上の企業・組織を対象としています。
使い分けとその他のツール
上記のツールはいずれも独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が提供しているものです。プラクティス集は実践事例が豊富に紹介されており、重要10項目を自社でどのように実装するかの参考となります。一方、可視化ツールは自社の現状を客観的に把握でき、サイバーセキュリティに関する方針の策定や、適切なセキュリティ投資の判断に役立ちます。
このほか、サイバーセキュリティ経営ガイドラインの付録として「サイバーセキュリティインシデントに備えるための参考情報」や「サイバーセキュリティ体制構築・人材確保の手引き」が公開されています。
5.自社の取り組みに活かすために
サイバーセキュリティ経営ガイドラインが求めているのは、経営者自身が強いリーダーシップを発揮し、主体的にサイバーセキュリティ対策を牽引・推進することです。そのために、「経営者が認識すべき3原則」と「サイバーセキュリティ経営の重要10項目」を示しています。
3原則は、経営者がサイバーセキュリティ対策を確立するにあたって、常に認識しておくべき基本的な考え方(経営者の責務)です。重要10項目はこの3原則を根底に据えた上で、経営者がCISOやセキュリティ担当者などに対して明確な指示を与え、組織に適した形で確実に実践・推進させるべき具体的なアクション(体制・対策・対応)です。
サイバー攻撃が複雑化・巧妙化する昨今、サイバーセキュリティ対策は企業経営にとって喫緊の経営課題であるといえます。企業はこれを踏まえて、経営者の強いリーダーシップの下、サイバーセキュリティ経営ガイドラインの3原則を自社の文化として定着させ、重要10項目を具現化することで対策を強化できます。