-事業内容を教えてください。
多摩冶金株式会社
代表取締役 山田 仁 氏
当社は、金属熱処理加工を行っています。具体的には、機械部品や電気部品などの製造メーカー様から金属部品や金型をお預かりして、その金属に熱加工処理をすることによって、求められる硬度や性質を実現する仕事です。なかでも航空機や防衛関係の部品の加工を行っているのが特徴で、小ロットで多品種のものをお客様の細かい要求に合せて仕上げます。こういった加工を行うためには、ISOやJISの認証取得が第一条件で、それに加えてお客様ごとの厳しい規格要求をクリアする必要があります。
-今回BCP構築に取り組まれた理由を教えてください。
油やアルコール等の危険物を扱うため、法令義務として社員による自衛消防隊の組織など防火中心の活動はしていましたが、これまで災害全体に対する配慮はありませんでした。BCPの取組には関心はありましたがきっかけがなかったところに、東京都の航空関係の支援事業(AMATERAS)で今回のBCP策定支援事業を紹介してもらい、良い機会だと思って参加しました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
多摩冶金は、創業以来50年余にわたり、各種金属熱処理加工における技術力の研鑽と高度な品質保証体制の構築に努めてまいりました。今回のBCPではその中でも特に当社にとって重要分野である「航空・宇宙・防衛事業」を対象に、東京湾北部地震を想定したBCPを策定しました。
この事業を早期復旧する際に必要なのは、工場内の被害を最小限に抑えることと、お客様の規格認定が必要となる特殊工程認定を迅速に再取得することです。しかし、事業の特性上、被災してしまった場合には数日単位という短期間での事業再開は望めないこともわかりました。
まずは、初期初動対応において、工場内の従業員の安否確認や避難誘導を徹底確認すると共に、設備倒壊による二次災害の防止についても対応策を検討しました。その後、設備の損壊状況を速やかに把握し、保守が必要な場合は保守会社に手続きをし、一刻も早くお客様の規格認定を再取得することで事業復旧を目指すことにしました。
【BCPの概要】
対象事業 | 航空・宇宙・防衛事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被害シナリオ | 2月6日朝9時45分に発生した震度6強の地震により、老朽社屋の半倒壊による設備の損害、従業員6名の負傷、70%の設備が使用不能、変電設備の故障。サーバ機能停止、PC端末80%使用不能、検査設備80%使用不能。 |
対策 | ・設備の損壊状況を把握し、保守会社へ保守依頼 ・設備の復旧後、特殊工程認定を再取得 |
-苦労されたポイントはありましたか。
当社の事業復旧に何が必要なのかという検討の中で、宇宙・防衛事業においては「特殊工程の規格認定を改めて受けること」が、重要なポイントとなることに気が付くまでに時間を要してしまいました。
精密部品を熱処理加工する当分野においては、製品の品質は最終製品の確認だけでは担保できず、その処理工程すべてにおける設備・手順について一定レベルをクリアしている、というお客様による「特殊工程規格認定」を受けることが求められています。よって、震災の被害などにより、当社の既存設備に不具合や変更が生じた場合には、この規格認定が無効となってしまい、納品をすることができなくなります。
当社にとっては通常業務の復旧のためには、規格認定の再取得という新たな業務が発生してしまうことがわかり、BCPの検討の方向性もそこで見直しをせざるを得ませんでした。
-策定プロセスで新たな気付きはありましたか?
今までは地震予測のニュースを聞いていても、逃げてしまいどこか考えないようにしていた気がします。今回の策定を通して、有事を想定して事前に準備することの重要性に気付きました。実際には想定したことと異なることが起こっても、事前に考えた対策や準備はきっと役に立つと今は考えています。例えば、オフィス機器の固定や、コンピュータシステムをクラウド化してデータ破損の被害を防ぐことなどはどのような被害でも予防になります。
また、今回のプロジェクトでは携帯BCPも作っていざというときの行動指針を従業員に浸透させましたので、こうした活動は地震以外の災害にも対応できる対策だと感じています。何かが起きても慌てることなく対応できると自信を持つことができました。