-事業内容を教えてください。
当社は商業ビルを中心に、電気・空調・防犯などの自動制御システムの設計・施工・メンテナンスを行っています。建築物を人間の身体で例えれば、その構造は骨や皮膚、設備が内臓、エネルギーが血液と言えます。その中で、制御システムは、脳、神経や五感の役割を担います。ビルの快適性をセンサーの検知、判断によって維持しているわけです。
当社は国内でも大きなシェアを持つメーカーの特約代理店として、都内のビルを中心に施工・メンテナンスを行っております。
-今回BCP構築に取り組まれた理由を教えてください。
裕幸計装株式会社
代表取締役 太田 隆三 氏
当社は平時の業務でも24時間サポート(非常サービス契約)をお客様に提供しており、運用上も様々な工夫をしておりますので、BCPもその延長線上で対応できるのではないか、と思っている側面がありました。
一方で、当社はオフィスビルの運用維持に関わるサービスを提供していますので、当社が事業継続しないと、お客様の事業継続も困難になってしまいます。そのため、こうした仕組みを整備し、お客様の安全を守ることは、競争が激化する業界の中で確固たる地位を維持するためにも必要な取組であると考えておりました。
昨年の新型インフルエンザ流行の際にも感染した社員をお客様のオフィスに送り込むことのないよう感染防止に努めるなど、平常時の業務を如何にして維持するか。ここ数年の当社の継続テーマでした。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
今回は地震を取り上げました。
当社の特徴は、ほとんどの社員の自宅が本社から20km以上離れており、また本社から最重要物件までも徒歩圏外なため、交通機関が止まった場合の緊急出社や本社から最重要物件客への緊急出動が短時間では困難な点です。また、非常サービス契約物件についても、通常は非常サービス依頼が時々単発で発生する状況ですが、大地震発生時にはサービス依頼が同時に多発する可能性があり、通常にはない組織対応が必要となります。
予防・低減策としては、携帯電話/携帯メールによる緊急連絡網の整備と現場担当者の自宅への原付の配備を行います。そのためには、お客様に対する震災時対応体制の提案と協力依頼が重要と考えています。本社の耐震対策の実施、エンジニアリングPCのお客様常備、工具・部品の入口付近での保管、協力会社との間での災害時緊急対応協定の締結を行います。
事業継続策としては、担当営業が核となりお客様状況の把握と現場担当者への連絡を行い、現場担当者は自宅からでも原付・自転車によりお客様先への急行を行います。また、緊急グループアドレスを新たに設け、社内関係者への情報同時伝達や、不具合対応状況の全体把握と非常時活動の統合管理を行います。社外に対しては、利害関係者への状況報告や協力会社の作業員確保要請も必要に応じて行うことにしています。
【BCPの概要】
対象事業 | メンテナンス |
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対象リスク | 地震 |
被災シナリオ | 2月7日(月)朝5時大地震発生。電気、通信、VPN、PCメール、都内交通機関が2日間停止。幹線道路は3日間車輌通行止め。コールセンターが不通。交通機関停止によりほとんどの社員が出社不可。本社では棚が倒壊、窓ガラスが破損、書類が散乱。PCとプリンターの一部が破損。交換パーツが散乱・破損。 |
予防・低減策 | ・本社の耐震対策の実施(棚の固定、網による部品落下防止、部品・工具保管場所の変更等) ・自社現場対応可能社員の増加(訓練) |
事業継続策 | ・携帯電話/携帯メールによる緊急連絡体制の整備 ・自宅からは原付、本社からは自転車または原付による社員の移動 ・協力会社との間での災害時緊急対応協定の締結と必要作業員の確保 ・不具合対応状況の全体把握と非常時の統合管理 |
-苦労されたポイントはありますか。
BCPで検討するようなことは、改めて考えてみると手詰まりになってしまうようなことばかりで、社内で検討をしていたら立ち行かなくなっていたと思います。通常業務について考えるような頭で災害時のことを考えようと思っても限界があるわけです。そこで当方の考えを加速させるような選択肢の提示やデータの開示など、コンサルタントの方に促されることで議論が活発になりました。
また、先述のとおり、当社は平時から24時間対応を行っていることもあり、ある程度の仕組みはあるのではないかと考えていたのですが、実際にシミュレーションしてみると、人が動くだけではなく、それを支えるための重要な機能(サーバ、社内書庫の重要書類、など)が多種あることが判明しました。そして、震災時にそれらが機能するような体制にはなっていませんでした。
そうなると実際の対策には時間も費用もかかります。限られた条件の中でベストな対応ができるような線引きをすべく、今回のプロジェクトでは絞りこみを行いました。今後継続的な改善が必要だと感じています。
-策定に当たって、何か気付きはありましたか?
今回気が付いたことは、当社のBCPは当社単独では成り立たないということです。有事の際の連絡手段一つ取ってもお客様に情報をどこまで開示いただけるかにかかってきます。お客様のご協力が不可欠になるわけです。
お客様への情報共有とお願いは契約更新のタイミングで随時行いたいと考えています。それによって当社のサービスの優位性も確認できるのではないかと感じています。
-今後の運用計画を教えてください。
今回は基礎となる仕組みづくりを行いましたが、本当に自社のものにするためには、全社員に浸透させなくてはならないのでまだ時間がかかると感じています。
ビジネスの展開ということでは、お客様のBCPの機能の中に我々の機能を組み入れてもらうことで、お客様のビジネス上の付加価値を高めるようなものにしたいと考えています。