-事業内容を教えてください。
当社は、創業当初より出版印刷を中心に展開してきた印刷会社です。デジタル化が普及した昨今においても、売上の多くは企画制作・印刷事業が担っています。特に企画制作部門では、お客様こだわり仕様のオリジナルノートの制作や、ここ最近は製品説明や企業紹介などを漫画化する事業が、新しいサービスとしてご好評いただいております。
また、多種多様なご要望にきめ細かくお応えするためにも、Web・映像制作、各種セミナー開催など、サービスの幅を広げ、新たなチャレンジを続けております。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
東日本大震災では、備蓄の不足などのために社員に十分な手当ができず、また、各種機材の損傷や、用紙の供給が滞ることなど、これまでに経験したことのない想定外の事象に多数見舞われました。
その後の余震の頻発や首都直下地震の被害想定更新を受け、今後のビジネスにおいて、会社としてBCPの取組を始め、この取組を当社に対する安心・信頼としてお客様にアピールしていきたいと思っていたところ、正式に案内を見て支援を受けられると知り、参加を決意いたしました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社の主事業である印刷事業をBCPの対象とし、なかでも売上の多くを占めるオフセット印刷を中心に検討しました。オフセット印刷の設備がある営業所兼工場は、築年数が古く、特に増築した部分などは半壊する恐れもあります。また、印刷機の位置が横ずれし正しく稼動しなくなる、あるいは社員の半数以上が出社できなくなることも想定されるため、現有資産への対策だけではなく、代替生産拠点への業務移管などの抜本的な対策を考えざるを得ませんでした。
重要顧客に関しては、納期遵守や品質保証の観点から、発災後は本社での生産に固執せず、首都圏から離れた地方の印刷会社に業務を一部委託することを検討しました。そのため、災害時協定を結ぶ会社を選定し、確認事項をまとめていきました。また、印刷データはクラウド上にバックアップをとっておくことを検討しました。この手法によって、災害時協定を結ぶ会社が、当社と同様の印刷、顧客への納品を行うことが可能かどうか確認するために検証を行う予定です。
また、本社向かいにあるデジタル印刷設備がある建屋は、耐震性が高いため印刷設備には影響がないだろうと考えられます。そのため、通常オフセット印刷で行うものの中で、デジタル印刷事業部門に移管可能な印刷物の検討を進めました。ただし、オフセット印刷とデジタル印刷では、完成品の仕上がりが異なため、発災後に顧客に印刷物の緊急性の確認と品質に関する了解を得る必要があります。そこで、そのために必要な顧客緊急連絡リストを整備しました。
さらに、一昨年の経験を踏まえ、災害時に印刷用紙業者の一社が被災しても、代替発注先へすぐに発注できるように、平時より複数社からの購買を行うことを検討しました。
対象事業 | オフセット印刷業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 社員55名中出社可能人員は20名 ・ 本社・工場のうち4Fプレハブ部分と印刷・製本スペースは半壊 ・ 印刷機の位置ずれ(印刷不可) |
予防・低減策 | ・ 印刷資材(紙など)の複数購買 ・ 社員への危機管理対策の啓蒙(多能工化も推進) |
代替策 | ・ 地方の提携企業にて代替生産 ・ 自社別部門のデジタルプリント機器による代替生産 ・ 在宅勤務体制による顧客対応及び制作の一部の継続 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
防災対策をはじめとして、現在の社内の対策が十分でないことを改めて認識いたしました。今回の取組で、設備の転倒防止のための用具など準備が必要な物が明確になりました。しかし、他社の防災事例や訓練方法、事業継続策など充実した取組内容を聞くと、改善の余地はまだ多く、これからがスタートだと感じております。
また、相互協力をする提携先企業は、数十年にわたって強いつながりを持つ地方の印刷会社です。災害時協力体制の必要性、意義を理解してもらうことから始めて、当社社員とともにBCPに対する理解を深めていければと思います。
-BCPを策定した感想をお願いします。
今後も、見直しを継続的に行っていかなければならないと感じています。その際に、新規に投資しなければならないことや準備すべき課題などが多数ありますので、その優先順位をどの様に決めるかが難しいと思っています。
また、時間帯や季節を変えたシナリオでの対策や、今回の大地震シナリオだけではなく、大水害やパンデミック等、いろいろな想定を行って内容を検討・更新していく必要性もあると感じています。