-事業内容を教えてください。
当社は、全国の主要な新聞社40数社を株主とする、新聞社の総意で設立されたインキ製造会社で、各新聞社のニーズに合わせた多様なインキを製造しています。全国へインキを安定供給するために、当社の誇る技術と経験を存分に生かした生産拠点として、川崎と三重の2工場を構え、三重の中部工場は24時間稼働の全自動システムを導入した業界屈指の生産工場になっております。また、環境への取組にも力を入れており、製造するインキはすべて環境対応型の製品です。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
東日本大震災では、自社の工場には被害は及ばなかったものの、千葉の石油化学コンビナートの被災でインキの原材料の一部が入手できなくなりました。国内では、被災した工場のみで生産されている原材料であることが判明し、インキ業界で大きな問題となりました。結局、代替原料の使用や海外からの調達により生産がストップすることはありませんでしたが、深刻な事態であったと認識した出来事でした。
震災後に、日本新聞協会から「災害時でも新聞発行を継続する」という声明発表がありました。株主であり、お客様でもある新聞社に対する絶対安定供給の責任が当社にはあります。北海道から沖縄にいたる全国の新聞社のニーズに合わせたインキ製造を停止することなく、供給できる万全の体制づくりが取組の目的です。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当社は、日本で唯一の新聞インキ専業メーカーとして、主要事業である新聞インキ製造販売を今回のBCPの対象としました。発災後、生産計画の見直しから製造工程、さらに出荷・納入までの業務を中心に検討しました。
発災後、まず品川本社と東京工場の従業員の安否の確認を行い、当社防災規定に基づき、本社に災害対策本部を、東京工場に災害対策委員会を立ち上げます。顧客である新聞社様の印刷工場被災状況を確認し、印刷工場のインキ在庫量から、インキ納入までの猶予日数を割り出し、インキ供給を途絶させないよう対応します。
その後、一連の生産工程に必要な経営資源である人員、設備、原材料に関して対策を検討しました。
帰宅困難・出社困難が想定され、各現場担当者が不在となる可能性があります。そのため、営業及び東京工場の各部門は、常に複数担当者制とし、有事の際にはチーム内で業務を代替できるように、チームメンバーの総合力を高めて業務に対応します。万一、必要人員の確保が困難な場合は、他事業所からの応援により顧客対応及び生産活動を行います。
原材料に対しては、製品の落下し破袋の発生した場合には、貯蔵タンクから再充填し容器変更を行い出荷いたします。そして、破損した材料の不足分を発注し、通電後の生産再開に備えます。原料のタンク設備に対しては、甚大な被害は想定していませんが、地上のパイプの破損や機械の一部落下、破損を想定しています。それら早期復旧のため保全・営繕技術者の育成増員による応急処置での稼働に着手し、引き続き修理業者の処置により本格的な復旧を目指します。
当社の製品の納品はタンクローリーやコンテナタンクで配送し、印刷工場の設備に納入するノウハウが属人的になりがちです。物流協力会社の従業員が出社困難となった場合、その会社の中でも作業マニュアルに従い、代替要員による円滑な処理を行えるように要請します。
対象事業 | 新聞インキの製造販売事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 本社、東京工場ともに帰宅困難者、出社困難者が発生 ・ 東京工場の生産ラインが停止、製品・原材料の一部が転倒 ・ サーバ、データベースの破損 |
予防・低減策 | ・ 業務の標準化 ・ 保全、営繕技術者の養成 ・ 機械類固定化、転倒防止工事 |
代替策 | ・ 代替要員、他事業所からの応援員による業務 ・ 保全、営繕技術者による応急処置と他工場からの納品 ・ 他事業所での受発注入力 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
BCP策定の協議の過程で、各部署から選んだプロジェクトメンバーは、従来、他部署の業務内容を知る機会が少なかったことに気付いたようです。川崎の工場を改めてチェックしたり、現場の意見を聞くことで、業務の流れを全体として見直すことができました。また、日々顧客ごとに異なる製品を生産し、それぞれにあわせた対応を行っていますが、発災後は会社全体としてどのように対応していくのかを事業継続策の検討で明確にすることができました。
また、BCPは非常時を前提とするだけではなく、日常の取組が問われてくると実感しました。例えば、工場設備の更新やメンテナンスは、通常は設備業者にまかせていますが、不測の事態が起こることを考えると、平時から自社で復旧できるよう人材を育成するなどの対処をさらに進める必要があると思いました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
生産工場の2極体制や地方拠点に保管しているタンクでの在庫維持など、お客様にインキを安定供給できるネットワークは、創業以来70年近くにわたり先輩方が作り上げてこられた長い歴史に支えられています。新聞社の信頼に応える取組を今後も続けていかなければなりません。そのためにも社員一人ひとりにBCPの意義やその意味を浸透させ徹底させることが肝要と心しています。
今回、バージョン1を作り上げましたが、今後は中部工場をはじめ今回対象としなかった拠点を含め、新たな想定での検討など次の段階を視野に入れて、ステップアップした取組を続けてまいります。